本格的なBEV(バッテリー電気自動車)普及に向けて、自動車メーカー各社の技術開発競争が熱を帯びている。
その中で注目されるのが、ギガキャストと呼ばれる鋳造技術だ。トヨタは23年6月公開の試作品に続き、その製造現場の様子を公開した。
トヨタの「からくり」やカイゼンに満ちたクルマづくりを、EVも混流生産する現場で見た
ギガキャストに定義はまだない
鋳造に関する新しい生産技術「ギガキャスト」という表現を、2020年代に入ってから自動車産業界でよく耳にするようになった。
情報の出所は、大きく2つ。
ひとつは、テスラだ。BEV専業メーカーであるテスラにとっては、内燃機関を主体とする一般的な自動車メーカーでは実現しないような、大胆な発想を数多く持っている。
そうした企業としての姿勢は、商品開発のみならず、生産技術についても同様だ。ギガキャストも、そのひとつだと言える。
もうひとつは、中国企業によるギガキャストの採用だ。中国では2010年代からEVベンチャーが数多く創業している。まったくゼロからのスタートであり、さらに中国国内のみならず、グローバルから積極的に資金調達を行うためには、斬新な設計思想と、それに伴う大胆な生産技術が必要だったと言えるだろう。
そこに、ギガキャストが採用されたのだ。
ただし、こうしたギガキャストには様々な手法があり、国や地域の自動車技術会などで明確に定義付けされているわけではない。
トヨタは2023年6月上旬に、静岡県裾野市で実施した「テクニカルワークショップ2023」でギガキャストによって製造した試作品を展示している。
さらに、トヨタは2023年9月中旬に豊田市とその周辺にある3つの工場を舞台として、一部報道陣向けに実施した「モノづくりワークショップ2023」で、トヨタでいうギガキャストの試作用設備を視察した。
エンジン等での鋳造技術を応用
トヨタのギガキャスト試作用設備は、明知(みょうち)工場内にあった。同工場がこれまで報道陣に公開されたことはほとんどない。同工場で30年以上勤務するトヨタ社員も「私の入社以来、報道陣を受け入れた記憶はない」というほどだ。
現在、明知工場では次世代技術の開発のため、様々な試験機が配備されている。
担当者は「これまでも、高圧でのアルミダイキャストは量産で採用しており、それに伴う技術革新は継続的に行ってきた」という。
改めて説明すると、鋳造には、中子を用いた低圧成形と、高圧で一気に成形するダイキャストという大きく2つの手法がある。
ギガキャストは、この高圧ダイキャストの技術をさらに進化させたもの。
トヨタとしては、エンジン部品などで様々な鋳造技術を有しており、ギガキャストにはデジタル技術と匠の技術を融合させ、量産に向けた準備が着々と進んでいるところだ。
4,000トンをコンマ数秒で一気に圧縮
今回視察したギガキャスト試作用設備は、従来の高圧ダイキャスト設備を大幅に改良したものだ。
圧力は4,000トンという。
担当者は「海外事例などでは、6,000トンから上は1万トンなど、ギガキャストという考え方が様々あるが、トヨタとしてはまず4,000トンで試作を進めている」と研究開発における現状を説明した。
キーポイントは、高品質とコスト抑制とのバランスをどうとるのか、ということ。
単純に圧力を高めれば、高品質になるというわけでもないようだ。
その上で、試作用設備が稼働する様子を見ると、まずアルミが機器内に注湯され、これを金型に向かって4,000トンで一気に押し込む。その間の時間は、コンマ数秒。
その後、数秒間で成形するが、アルミの温度を約750度から約250度まで低下させてから自動の大型アームによって試作品を取り出した。
今回の試作品は、23年6月のテクニカルワークショップで展示された、次世代BEVの後部車体の一部と同じ形だ。
担当者は「技術解析には(ソフトウエアの)Topcastを使い、様々な要件の変更を繰り返しながら、生産での最適化を模索している」という。
また、こうした解析を進める上の、設計図ともいえる、「良品条件関係図(機能ブロック図)」についても今回、社外向けで初めて公開した。
トヨタは現在開発中の次世代BEVで、アルミダイキャストの採用を計画している。
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みんなのコメント
ギガキャストはアルミ鋳造になりますが、一体成型でコストを抑えないと日本の鉄板とプレス加工に追いつけないという判断なのでしょう
しかもアルミで部品を作ると、修理は部品交換のみとなり、シャーシーにギガキャストを導入していると、軽い事故でも廃車となる可能性が高くなり、板金修理ができないことが車の維持に負担をかけてきます。
大型のキャスト製造自体は昔からあります、戦車の車体を作ったり、船のエンジンブロックなどですね。