ロボットの記憶を通して“生”を考えさせられる近未来SF『アフター・ヤン』

　ヒューマンドラマからスプラッター映画までジャンルを問わずに優れた映画を多数送り出し、有望な製作者を次々と発掘している映画スタジオ「A24」。世界的に注目を集めている同社が新たに製作した『アフター・ヤン』は、長編デビュー作『コロンバス』（2017年）が米インディペンデント・スピリット賞3部門にノミネートされた気鋭、コゴナダ監督とのタッグ作です。

　本作のテーマ曲を手がけるのは坂本龍一。また小林武史の名曲「グライド」の新バージョンをフィーチャーするなど、ビジュアルと音楽の斬新なセンスが際立っています。

　物語の舞台は、今から数十年先の未来。小さな茶葉の販売店を営むジェイク（コリン・ファレル）、妻のカイラ（ジョディ・ターナー＝スミス）、中国系の養女ミカ（マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ）の一家には、もうひとり大切な“家族”がいました。“テクノ”と呼ばれる精巧な家庭用ロボットのヤン（ジャスティン・H・ミン）は、ミカの悩み事にも耳を傾ける兄のような存在です。

　ある日、ヤンが突然故障して動かなくなってしまいます。ジェイクは製造元の認定ショップでヤンを修理してもらおうとしますが、法律上触れられないコア部分に重大な異常が見つかったため、新しいモデルに買い換えるしかないと告げられます。そこで隣人から勧められた怪しげな修理屋にヤンを持ち込んで内部構造を調べると、特殊なパーツが組み込まれていたことが判明。博物館に勤める“テクノ・サピエンス”の研究者クレオ（サリタ・チョウドリー）の説明によると、そのパーツは1日あたり数秒間の動画を撮影・記録できるメモリバンクで、テクノの秘密を解明するうえで極めて貴重なデータだというのです。

　メモリバンクに保存された膨大な数の動画ファイルをひとつずつ再生していくジェイク。そこにはヤンの主観視点によって、まだ赤ん坊だったミカが成長する過程や緑豊かな自然の風景などが記録されていました。しかしメモリバンクには別の謎めいた動画も保存されていて、ヤンがジェイクの家にやってくる以前に撮られたであろう、ライブハウスやカフェにいる若い金髪の女性（ヘイリー・ルー・リチャードソン）が映っていました。

　ヤンが元通りに再起動する可能性が絶望視され、カイラもミカもヤンの不在を悲しむなか、ジェイクは“謎の女性”の素性を探り始めます。やがて調査が行きづまりかけたとき、謎の女性が忽然と姿を現しました。エイダと名乗るその女性は、ヤンの真実を打ち明けるのですが……。

　本作で最もバイクと縁深いのは、やはりジェイク役のコリン・ファレル。悪役ブルズアイを演じた『デアデビル』（2003年）ではトライアンフのボンネビル・アメリカ800で曲芸乗りを披露。名作ホラーのリメイク『フライトナイト／恐怖の夜』（2011年）ではホンダのXL250Sに乗っていました。ちなみに悪役ペンギンを演じた『ザ・バットマン』（2022年）の制作中には、主人公ブルース・ウェインのバイクチェイスを担当したスタントマンの目元がファレルにそっくりだったため、複数メディアで「ペンギンのチェイスシーンを撮影中」と報じられたこともありました。

　人生や家族をテーマに描いてきたコゴナダ監督が近未来SFに挑戦した『アフター・ヤン』は、2022年10月21日（金）よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショーです。