「小さい車」の方が好ましいのは運転ビギナーだけじゃない
2019年11月20日発売のカーセンサー2020年1月号では、「ぶつけそう、擦りそう……という不安にサヨナラ 小さくすれば8割解決!」と題した特集を展開している。
近年、車のサイズがどんどん大きくなっているという事実を背景に、主に運転がさほど得意ではない人々に向けて「でも“小さめな車”を選べば、いつもの道も広く感じられるし、運転が気楽になりますよね?」という旨を提案している特集だ。
そしてそれは、今回のカーセンサー本誌特集が主な対象とした「運転が得意ではない人」だけでなく、「どちらかといえば運転が得意な人=車好き」に対しても刺さる話なのではないかと考えている。
受動安全性など様々な理由があるため仕方のない話ではあるのだが、ひたすら大ぶりなサイズになってきた最近の車。それに対して「大きくて重くて、なんかつまんないよね」などの文句をつけることも多い、いわゆる車好き。
かく言う筆者もそのひとりなのだが、しかし、その寸法がまだ比較的小ぶりだった頃の車=中古車に目を向けてみれば、車好き各位が現在抱いている不満の、それこそ8割は「解決!」となる可能性も大いにあるはずなのだ。
例えばこの車、フォルクスワーゲン ゴルフである。
「ゴルフ=コンパクト」というのはもはや過去の話
車好き各位には「釈迦に説法」だろうが、フォルクスワーゲン ゴルフとは、本国では1974年にその初代モデルが発売となった小型ハッチバックの世界的規範。
現在は7代目がゴルフVII(セブン)という通称をともなって新車販売されており、その後継であるゴルフVIII(エイト)も本国ではすでに発表済み。VIIIの日本発売は2020年後半以降になるとのことだ。
で、筆者は先ほどゴルフのことを「小型ハッチバックの世界的規範」と表現した。そのことに間違いはないと確信しており、代を重ねるごとにゴルフはより高性能になっていったこともまた間違いない。
だが筆者の記述には1ヵ所、間違いがある。
それは、現在のゴルフはもはや「小型ハッチバック」ではないということだ。 1974年登場の初代ゴルフは確かに小型だった。具体的には全長3725mm x 全幅1610mm x 全高1410mmで、これは現代のトヨタ パッソとおおむね同じくらいである(初代ゴルフの方がちょっとだけ長く、幅は5cmほど狭いが)。
だが現行ゴルフVIIのスリーサイズは、TSIトレンドラインの場合で4265mm x 1800mm x 1480mm。……ハッチバックゆえ全長はさすがに4.2m少々にすぎないが、全幅にいたっては「ハイソカー」と呼ばれて一世を風靡した1990年前後のトヨタ マークIIより10cm以上幅広いという有様。
「最近の車はデブになった」と言うべきなのか、はたまた「昔の車って今にして思えばかなりスリムだったんですね」と言うべきかは微妙なところだろう。
しかし少なくとも、「初代ゴルフに近いニュアンスの寸法」をもっていた過去のゴルフを中古車として購入し、そしてそれを日々の相棒として活用すれば――もちろん受動安全性や各種先進デバイスとのトレードオフにはなるが――小ぶりで軽量な車でしか感じられない唯一無二な快感を、我々は獲得できるはずなのだ。しかも、まあまあロープライスにて。
その車重は大相撲の千代大龍1人分も違う!
そう考えた場合の有力候補は、まず第一に「ゴルフII(ツー)」こと第2世代のフォルクスワーゲン ゴルフだろう。
日本では1984年から1992年まで販売されたこの車は、新世代のゴルフと比べてしまえば極端な話、「最新のスマートウオッチと古代エジプトの日時計」くらい異なっており、今にして思えばプリミティブ(原始的)な車だった。
だが、その副作用として(?)有しているのが「軽快さとダイレクト感」だ。 ゴルフIIのスリーサイズは後期GLiの場合で全長4050mm x 全幅1665mm x 全高1415mm。これが新車だった当時は大学生か若手社会人ぐらいだった筆者は、ゴルフIIのことを「まあまあ大きめのハッチバック」ぐらいに認識していた。だが、今となってはトヨタ アクアとおおむね同じサイズ(全幅はゴルフIIの方が3cm狭い)である。
そして車両重量は、同じく後期GLiの場合で1050kg。これはトヨタ アクアの「G」より小柄な女性1人分、つまり40kg軽く、現行ゴルフVIIのTSIコンフォートラインと比べると大相撲の千代大龍1人分、すなわち190kg軽い車重である。
もちろん全幅と車両重量のみで車を語ることはできない。だが現行型ゴルフより13cm以上幅が狭く、なおかつ「千代大龍が乗車していない状態」の車がどれほど軽快なニュアンスで走るかは、誰しもがなんとなく想像できるのではないだろうか。
そしてフォルクスワーゲン ゴルフIIは、さすがに現代の車と比べてしまうとアレだが、当時の実用ハッチバックとしては異様なまでにガッチリした作りと感触とを持つ車だった。それゆえ「単に小さく軽く、しかし古くさい車」ではなく「今でもそこそこ現役を張れる車」として普通に乗り、普通に使い倒すことができる。
さらに専門店があり、マニアアックなファンも多いためメンテナンス面での心配がなく(壊れないという意味ではなく、壊れても、部品等があるから普通に直せるということ)、中古車相場も、以前と比べればネオクラシックブームにより値上がりしてはいるものの、まだ決して「バカ高い」というほどではない。
現代の車に対して「素晴らしい。だが、残念ながらデブである」と感じている各位には、しっかりとレストアないしは整備されたフォルクスワーゲン ゴルフIIを強くオススメしたい。 フォルクスワーゲン ゴルフ(2代目)を見てみる▼検索条件フォルクスワーゲン ゴルフ(1990年2月~1992年3月生産モデル)×全国
「全幅1630mm」のさらに素晴らしい選択肢
だが、実を言えばゴルフII以上に積極的に推奨したい1台のフォルクスワーゲンファミリーがいる。
いわゆるゴルフI、つまり初代のカブリオすなわちオープンモデルだ。
さすがに「本当の初代ゴルフ カブリオ」は古すぎるためほぼ流通しておらず、仮にあったとしてもマニアックすぎる選択肢だ。
ここでいう初代ゴルフ カブリオとは、2代目ゴルフの登場以降にデビューした「準初代」とでも呼ぶべき世代。なかでも1989年以降の後期型か、あるいは最終限定車であった「クラシックライン」のことだ(というか、今やそもそもその世代しか流通していないのだが)。
これがまた本当に素晴らしい「小さな車」である。 ボディサイズは「クラシックライン」の場合で全長3895mm x 全幅1630mm x 全高1410mm、車両重量は1070kg。ゴルフIIの後期GLiより小さいくせに車重は20kg重いわけだが、これは「電動ソフトトップ機構の分」であろう。
運転席に座ってみると、体感的には「ボディの四隅までドライバーの手が届きそう」な感じであり、「ちょっと昔の軽自動車みたい」と感じるサイズ感だ。もちろん実際に四隅に手が届くわけではなく、軽自動車規格よりはずいぶん大きい。だが感覚的にはそんな感じなのだ。
しかしながら骨格にはゴルフII世代のしっかり感があり、なおかつフロントウインドウは最近のオープンカーではあり得ないほど、「……垂直か?」と思うほど切り立った角度であるため、オープン時の開放感は地球でもトップレベル。
エンジンは牧歌的な1.8L SOHCで、トランスミッションも古くさい3速ATなのだが、その牧歌的なフィールがこの車には非常によくマッチしている。運転者は、ちょっと上質なアコースティック楽器を演奏しているかのような快感にひたることができるだろう。
そして小さく軽く、さらには骨格と足回りも当時の車としてはなかなか優秀だったため、演奏のテンポを上げてみても(=速度を上げて走ってみても)、それはそれでかなり気持ちが良く、「……よく考えたらハイパワーなスポーツカーなんざ要らねえよな」的な感慨に襲われる。
中古車の流通量は少なめだが、これまた熱心な販売店やマニアが多い車種であるため、メンテナンス面も問題なし(前述のとおり、壊れないという意味ではなく)。そして相場も、やや上昇傾向ではあるが、決してバカ高くはない。
これまた、現代の車に対して「完全には満足できない何か」を悶々と感じていらっしゃる各位には強く推奨したい、素晴らしき「小さな車」である。 フォルクスワーゲン ゴルフ カブリオ(2代目、準初代)を見てみる▼検索条件フォルクスワーゲン ゴルフ カブリオ(1990年1月~1994年3月生産モデル)×全国文/伊達軍曹、写真/フォルクスワーゲン
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