アルピーヌA110とメガーヌ・ルノー・スポール(メガーヌR.S.)の足まわりにはビックリするほどよく似た点がある。
あんまりザックリひとまとめにするとアルピーヌで誇りを持って仕事している人たちの反感を買うかも知れないけれど、現在のアルピーヌがルノー・グループの傘下にあって、久しぶりに登場した彼らのロードカー「A110」がルノーやルノー・スポールの協力を得て開発されたのは周知の事実。だから、最新のA110とメガーヌR.S.に共通点があったとしても不思議ではない。
2台に共通する特徴をひとことでいえば、足まわりの感触がスポーツモデルにしては驚くほど柔らかい点にある。
もちろんハードコーナリングを行なえばしっかりとボディを支えてくれるだけの強靱さは備えているし、ステアリングレスポンスだって悪くない。けれども、そこに至るまでのストローク感は実にしなやかで乗り心地がいいのだ。
よくフランス車は乗り心地がいいといわれるけれど、スポーツモデルのフランス車でここまで快適なモデルはなかったし、それはフランス以外のメーカーでも同じだ。けれども、A110とメガーヌR.S.ほど「スポーツドライビングの楽しさ」と「快適性」を高い次元で両立した自動車メーカーは、世界中探しても滅多にない。別の言い方をすれば、「快適なのに高性能」な足まわりを実現したという意味において、ルノーだけがいち早く別次元に突き抜けてしまったような気がするくらいだ。
バランスの良い性能の決め手は強力なダンパー
本来は相反する「高性能」と「快適性」を両立させるには、クルマの基本レイアウトに始まってサスペンションの設計、スプリングやダンパーの設定など様々な要素をたくみに総合しなければならない。このなかで、目に見える材料として比較的わかりやすいのが、A110とメガーヌR.S.の両方に採用されたHCC(ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)という特殊なダンパーである。
大きな路面のうねりを高い速度で強行突破しようとすると、ボディが大きく沈み込んで底付き(ボトミング)を起こす場合がある。これを防ぐのがサスペンションに取り付けられたバンプストップラバーといわれる一種のゴム。サスペンションのストロークを使い切ったときにボディをこのゴムにあてて、それ以上、ボディが沈み込むのを防ぐ部品だ。
HCCは、このゴムの代わりに強力なダンパーを使って沈み込みを防いでいる。どちらもボトミングを防ぐという目的は同じであるが、それをゴムというバネの一種で行なうか、ダンパーで実現するかの違いがある。ただし、バネには反発力があるから、ボディがそこにあたれば跳ね返される。反対にダンパーはモノが動くスピードを抑えるための部品なので、ボトミングしそうになるボディの動きを急激に抑え込むだけで、その後の反発は起こさない。つまり、ボトミングを防ぐパーツとしては理想的な働きを示してくれるのである。
こうしてルノーは、ボトミングを恐れずに柔らかいスプリングが採用できたのではないかと私は睨んでいる。
サスペンションを適度に柔らかくすると、乗り心地が優しくなるだけでなく、うねった路面にもタイヤが柔軟に追従できるようになり、安定したグリップが得られる。A110とメガーヌR.S.が荒れた路面でも断続的にグリップを薄れさせることなしに、狙ったラインを正確にトレースできるのは、このためだろう。
そのうえでルノーはA110とメガーヌR.S.に別々のキャラクターを与えた。
端的にいえばA110はファン・トゥ・ドライブ優先で、いっぽうのメガーヌR.S.はサーキットでのラップタイムも重視しているようなのだ。
A110にはノーマル、スポーツ、トラックのドライビングモードが用意されていて、スタビリティコントロールの設定もそれぞれ異なるが、ノーマルもしくはスポーツではまず横滑りしないリアタイヤが、トラック・モードで振り回すとかなり思い切りのいいスライドを披露する。それでも軽量・低重心なA110をコントロールするのは比較的容易で、これがA110を操る醍醐味でもあるのだ。
いっぽうのメガーヌR.S.はかなり頑張ったつもりでもリアタイヤはしっかりグリップしたままでスタビリティ・コントロールの介入を示す警告灯も点かない。言い換えれば、メガーヌR.S.は4輪のタイヤが持つグリップ力を極限まで引き出そうとしているように感じられるのだ。
こうした味付けを実現するうえで大きな役割を果たしているのが、メガーヌR.S.に採用された4輪操舵機能の「4コントロール」である。4輪操舵というと、後輪を前輪と逆の方向に操舵して小まわりを可能にするための装備と思われがちであるが、実は高速コーナリング時には前輪と同じ方向にわずかながら操舵し、タイヤの横方向のグリップをフルに引き出すという役割もある。メガーヌR.S.がハードコーナリングでもリアタイヤがスライドしにくいのは、このためだろう。
いっぽう、軽量・低重心を実現したA110は前述のとおりリアタイヤをスライドさせてもコントロールしやすく、楽しい。そうしたA110の持ち味を生かすために、ルノーは敢えてこのモデルに4コントロールを採用しなかったのではないか。
実際にはメガーヌR.S.とA110とではリアサスペンションの形式が異なるとか、レイアウトの都合でA110には4コントロールを搭載できなかったという事情があったのかもしれないが、それでも基本レイアウトの優れたA110に操る楽しさを残したルノーの思想は、私には理に適ったもののように思える。
しなやかな足まわりをベースにしながら、A110とメガーヌR.S.という異なる個性を見事に作り分けたルノー。各メーカーが苦心する「高性能」と「快適性」の両立という難題を独自の発想で軽々と乗り越えてしまった彼らのクルマ作りは実にユニークであり、また痛快でもある。
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