長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。今回はカタールGPの週末を振り返る。
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【全ドライバー独自採点/F1日本GP】ドライバーズサーキット鈴鹿で満点3人。善戦も母国入賞に届かなかった角田裕毅
高速で要求の厳しいサーキット、コクピットからは見えないトラックリミット、蒸し暑い気候……そういった要素が組み合わさってできたレシピにより、ドライバー自身の力で違いを生むための下地が用意される。ベストのパフォーマンスを発揮した者には大きな結果がもたらされ、ミスをした者は厳しく罰せられたグランプリだった。
■評価 10/10:実力を見せつけた未来のチャンピオン、ピアストリ
オスカー・ピアストリ(マクラーレン):予選6番手/スプリント・シュートアウト1番手/スプリント1位/決勝2位
若きオスカー・ピアストリ(マクラーレン)は過酷なグランプリにおいて実力を発揮、まさに週末のスターだった。予選ではトラックリミット違反によりベストラップを取り消されたものの、レースのスタート直後の1コーナーではすでに2番手に浮上。マックス・フェルスタッペンの後ろを走り続け、ランド・ノリスが背後に迫ってきた際には、真のペースを見せつけた後、チームがノリスに発令したチームオーダーにより、ピアストリは余裕で2位を守った。土曜のスプリントデーには、グリッドのトップからスタートし、フェルスタッペンを寄せ付けず、うまくタイヤを管理しながら 堂々の勝利を飾った。将来チャンピオンになると確信させる見事なパフォーマンスだ。ピアストリは、高い評価を受けるチームメイトにも、大きなプレッシャーをかけつつある。
■評価 9/10:スプリント以外は完璧だったフェルスタッペン
マックス・フェルスタッペン(レッドブル):予選1番手/スプリント・シュートアウト3番手/スプリント2位/決勝1位
ジョージ・ラッセル(メルセデス):予選2番手/スプリント・シュートアウト4番手/スプリント4位/決勝4位
2023年チャンピオン、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)は、ほぼすべてのことを正しく行い、金曜日と日曜日のパフォーマンスは文句なしだった。しかし、土曜日のスプリント・シュートアウトでは完璧なラップをまとめることができずに、マクラーレン勢に敗れ、スプリントではスタートで出遅れてさらにポジションを落としてしまった。最終的にピアストリに勝つことができず、スプリントでは2位にとどまった。
ジョージ・ラッセル(メルセデス)は、週末を通してチームメイトよりも速かった。金曜予選で見事に2番手を獲得したラッセルは、決勝スタート直後のターン1でのチームメイトとのアクシデントで後退、一時は最後尾に落ちながら、4位まで挽回してみせた。スピードもタイヤ管理も素晴らしく、ラッセルのおかげでメルセデスはなんとかフェラーリとのポイント差を広げることができた。
決勝でのインシデントについて、ルイス・ハミルトンは自分が100パーセント悪かったと述べているものの、スタートタイヤの違いを考えれば、ラッセルの方ももう少しうまくやるべきだっただろう。ラッセルはミディアムタイヤ、ハミルトンはソフトタイヤを履いており、ハミルトンがスタートで前に飛び出すことは分かっていたことであり、ラッセルの方は、ターン1の前の時点で、フェルスタッペンに挑戦するチャンスを失っていたのだから。
スプリントデーのラッセルは、ソフトタイヤに賭けて、一時はレースをリードしたが、その後、タイヤのデグラデーションが深刻になってきた。それでも3つしかポジションを落とさなかったのは、上出来だった。
■評価 8/10:ミスで大きなチャンスを逃したノリス
ランド・ノリス(マクラーレン):予選10番手/スプリント・シュートアウト2番手/スプリント3位/決勝3位
シャルル・ルクレール(フェラーリ):予選5番手/スプリント・シュートアウト6番手/スプリント12位/決勝5位
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ):予選9番手/スプリント・シュートアウト13番手/スプリント10位/決勝8位
カタールを発つ時に誰よりも悔しい思いをしていたのは、ランド・ノリス(マクラーレン)だろう。両方の予選セッションであまりにも多くのミスを犯したことで、ポールポジションふたつ、勝利ふたつのチャンスを逃したのだ。フェルスタッペンに挑めるだけのパフォーマンスを持つマシンを手にしたこと、ピアストリが示し始めた速さによって、プレッシャーを感じていたノリスは、金曜予選Q3ではノータイムに終わり、決勝グリッドは10番手に。スプリント・シュートアウトではポールの可能性があったラップでコースオフして2番手に終わった。スプリントでは序盤にポジションを落としたものの、3位まで挽回。日曜決勝では7つポジションを上げて3位表彰台を獲得した。
シャルル・ルクレール(フェラーリ)は、金曜予選ではトラックリミットに苦労したものの、フロントロウまでわずか0.2秒のタイムで5番手を確保。高速コーナーで苦戦していたマシンに乗っていたことを考えると、これは奇跡的なパフォーマンスだった。しかし57周にわたってそのレベルを維持することは不可能であり、決勝ではトップに挑むことはできず、約40秒遅れの5位にとどまった。スプリントではチームメイトの後ろで足止めされ、トラックリミット違反で最後のポイントを失ったが、日曜に入賞したことで、その挽回ができたといえるだろう。
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)は、ほぼ完璧な週末を過ごした。計算された走りで8位を獲得、アルファロメオにとってここまでのベストタイの結果を出した。グリップの低いトラックを得意としているボッタスは、金曜予選で9番手を獲得、マクラーレン1台、フェラーリ1台、レッドブル1台を破った。決勝をソフトタイヤでスタートして3周でピットインするという賭けをし、フリーエアで走行し、タイヤをうまく管理することができ、ボッタスはチームにとって貴重な4ポイントを獲得。アルファロメオはコンストラクターズ選手権7位に上がった。
■評価 7/10:体調不良に陥りながら7位を獲得したオコン
エステバン・オコン(アルピーヌ):予選8番手/スプリント・シュートアウト10番手/スプリント リタイア/決勝7位
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン):予選4番手/スプリント・シュートアウト9番手/スプリント8位/決勝6位
カルロス・サインツ(フェラーリ):予選12番手/スプリント・シュートアウト5番手/スプリント6位/決勝出走せず
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ):予選14番手/スプリント・シュートアウト17番手/スプリント7位/決勝13位
周冠宇(アルファロメオ):予選20番手/スプリント・シュートアウト15番手/スプリント14位/決勝9位
エステバン・オコン(アルピーヌ)は今回、チームメイトよりも良いパフォーマンスを発揮した。高温多湿のコンディションで気分が悪くなり、レースの3分の1を走ったころに嘔吐したというが、それにもかかわらず貴重な7位を獲得。フェルナンド・アロンソとのバトルは週末のハイライトのひとつだった。一方、スプリントでオコンはポイント獲得のチャンスを逃した。7位争いをするなかで、ターン2に向けてニコ・ヒュルケンベルグへの動きを誤り、クラッシュしたのだ。
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)は、日曜日に珍しくミスをした。世界最高のベテランドライバーであっても、厳しいコンディションでつまずく可能性があるのだ。金曜予選では4番手と好調だったが、スプリント・シュートアウトではトラックリミット違反でベストラップが取り消され、5番手のところ9番手グリッドに後退した。スプリントではルクレールのペナルティによりポイントを獲得、日曜日には6位入賞を果たした結果、アストンマーティンはコンストラクターズ選手権でマクラーレンの前の位置を守ることができた。しかしその座を明け渡すのも時間の問題に思える。
カルロス・サインツ(フェラーリ)は、運悪くトラブルのために日曜決勝に出場することができなかった。レース直前になるまで発見不可能だった燃料漏れにより、出走を諦めざるを得なかったのだ。しかし、スプリントの週末だったおかげで、サインツは土曜の6位で3ポイントをフェラーリにもたらすことができた。
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)は、19周のスプリントを17番グリッドからスタートし、終盤に7番手まで浮上。強風がなければウイリアムズには速さがあったということを示し、アルボンはピエール・ガスリーやアロンソを相手にホイール・トゥ・ホイールの戦いを披露してみせた。しかし日曜日にはタイヤマネジメントがうまくいかず、トラックリミット違反によるペナルティも受けて、13位にとどまった。
周冠宇(アルファロメオ)は、日曜日のレースで最後尾グリッドから入賞を果たし、アルファロメオがコンストラクターズ選手権でウイリアムズとの差を縮めることに貢献した。金曜予選Q1ではトラフィックに悩まされて、本来のポテンシャルを発揮できなかったが、決勝では非常に安定した走りを見せて、コース上で多くのマシンをオーバーテイクし、セルジオ・ペレスのペナルティの恩恵を受けて9位を獲得した。
■評価 6/10:マシンに速さがなく、ポイントをつかめなかった角田裕毅
角田裕毅(アルファタウリ):予選11番手/スプリント・シュートアウト18番手/スプリント11位/決勝15位
ケビン・マグヌッセン(ハース):予選19番手/スプリント・シュートアウト19番手/スプリント13位/決勝14位
ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース):予選15番手/スプリント・シュートアウト7番手/スプリント リタイア/決勝16位
今回のアルファタウリは、空力アップグレードが導入されて以来初めて、ポイントを獲得できるパフォーマンスを持ち合わせていなかった。状況を考えると、角田裕毅(アルファタウリ)が予選11番手を獲得したのは、立派だったといえるだろう。スプリントでは18番グリッドだったため、入賞の可能性は低かったが、日曜決勝には期待がかかった。しかし、AT04には単純にスピードがなく、ドライバーはふたりとも新品タイヤで走り続けたにもかかわらず、ポイント争いに絡むことができなかった。
ハースVF-23にアップグレードが入る前の最後のレースで、ケビン・マグヌッセン(ハース)とニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)は、インシデントやトラックリミット違反を回避して戦ったものの、入賞には届かなかった。ヒュルケンベルグはスプリント・シュートアウトで7番手という素晴らしい結果を出し、ポイントを狙える位置にいたが、オコンとペレスとのアクシデントでチャンスを失った。日曜日にヒュルケンベルグは、サインツが出走を取りやめたことで空いたグリッドにマシンをつけるという、初歩的なミスを犯して10秒のペナルティを受け、その時点で入賞の可能性がゼロになった。
■評価 5/10:スプリントでのコースオフで、チャンスを失ったローソン
リアム・ローソン(アルファタウリ):予選18番手/スプリント・シュートアウト14番手/スプリント リタイア/決勝17位
ルイス・ハミルトン(メルセデス):予選3番手/スプリント・シュートアウト12番手/スプリント5位/決勝リタイア
ピエール・ガスリー(アルピーヌ):予選7番手/スプリント・シュートアウト11番手/スプリント9位/決勝12位
ローガン・サージェント(ウイリアムズ):予選16番手/スプリント・シュートアウト20番手/スプリント リタイア/決勝リタイア
リアム・ローソン(アルファタウリ)は、スプリント・シュートアウトでは素晴らしい結果を出したが、スプリントではオープニングラップでコースオフし、良い仕事がすべて台無しになり、ポイント獲得の最大のチャンスを失った。日曜日はマシンのスピード不足に悩まされて最後尾を走り続け、おそらく今年最後になるだろうレースを不満足な結果で終えた。
ルイス・ハミルトン(メルセデス)は、日曜決勝のスタートをもっとうまくやるべきだった。タイヤが異なるラッセルが、自分にスペースを与えてくれると思っていたのだろうが、ハミルトンの方も、ターン1に向けてチームメイトにスペースを残しておくべきだった。ペレスが低迷したこの日、ハミルトンは彼とのポイント差を大きく縮める絶好のチャンスがあったにもかかわらず、それを無駄にしたことになる。良かった点を挙げると、ハミルトンはスプリントでは素晴らしい仕事をし、わずか19周のなかで12番手から5位までポジションを上げ、マクラーレンに挑戦可能なペースを示した。
オーストリアGPの時と同様に、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)は、トラックリミット違反で多数のペナルティを受けた。これは明らかに偶然ではないだろう。ガスリーは、物事が悪い方向に向かうと、自分をうまくコントロールできなくなるようだ。結局、ボッタスと戦うチャンスをつかめず、少なくとも2ポイントを失った。今回、ガスリーは、チームメイトほどのレースペースと一貫性を示せずに終わった。
今のローガン・サージェント(ウイリアムズ)は、何もかもがうまくいっていないように思えて、気の毒になる。グランプリ前に風邪をひいて体調を崩していたサージェントは、決勝でアルボンのすぐ後ろを走り続けていたが、脱水症状を起こしてリタイアしなければならなかった。今回は健闘していたものの、スプリントでのスピンは彼自身のミスであり、週末を通して一貫性を保つことに苦労しているようだ。
■評価 3/10:ペレスはトラックリミットを守る能力もなくしてしまったのか
セルジオ・ペレス(レッドブル):予選13番手/スプリント・シュートアウト8番手/スプリント リタイア/決勝10位
ランス・ストロール(アストンマーティン):予選17番手/スプリント・シュートアウト16番手/スプリント15位/決勝11位
セルジオ・ペレス(レッドブル)は、速さを失い続けているうえに、トラックリミット内を走るのに必要な能力をもなくしてしまったようだ。彼に対してアドバイスをするとすれば、基本に立ち返り、RB19でフェルスタッペンが何をしているかについては一切気にしないようにして、自分のことに集中するように、と言いたい。とにかくハミルトンにランキング2位を奪われないようにする必要があるのだ。
ランス・ストロール(アストンマーティン)については、今年さまざまなことを語ってきたので、もう何も言いたくはなかった……。アロンソが楽にQ3に進出している時にQ1で敗退し、スプリントでも日曜決勝でもポイント圏外を走り、トラックリミット違反を取られてペナルティを受けた。さらに、フラストレーションを抑え切れずに、チーム関係者やメディアに八つ当たりをした。ソーシャルメディアで強い批判を受けても仕方がない態度だ。アストンマーティンのシートを失う危険がない彼は、自分を変えようとはしないだろう。だが、少なくとも世間の人々が彼のことをどう思っているのかを、少しは知ることができたはずだ。
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