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ゆれるVWの今、これから CEOマティアス・ミュラー 独占インタビュー

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ゆれるVWの今、これから CEOマティアス・ミュラー 独占インタビュー

もくじ

ー 45分 さて、何を聞くべきだろうか
ー あのとき、何があったのか
ー EVについて、何を思う?
ー なぜVWはそれでも売れるのか
ー VWで戦うことにした理由
ー 粘りの一問一答 引退の話も

ジャガー・ランドローバーCEO VW発端の「ディーゼル叩き」に難色 EVと両立へ

45分 さて、何を聞くべきだろうか

フランクフルト国際モーターショー初日の午前9時、恐らくフォルクスワーゲン・グループの今後2年間を左右する最も重要な場だ。わたしはフォルクスワーゲン・グループCEOであるマティアス・ミュラーとの45分間の単独インタビューに向かっている。これは彼が英語で行う唯一のインタビューとの事だが、なぜわれわれが選ばれたのだろう。恐らくわれわれの広範な取材活動と、その見識深いウェブサイトに魅了されたからだと思う事にした。

インタビューで質問したいのは、昨夜ミュラー自身が発表したロードマップEと呼ばれるフォルクスワーゲンの2025年までの長期計画についてであり、フォルクスワーゲンはこの計画を自動車産業における最も包括的な電動化イニシアティブであると自称している。もちろんディーゼル問題についても話は及ぶことになるだろう。世界を揺るがした衝撃のニュースであり、まさにそれだけの影響をもつものだった。

2025年までにフォルクスワーゲン・グループは80の新たなEVを発売する予定であり、2030年にはその数は300にまで増やす。£180億の巨費を投じてe-モビリティの事業化を進め、更には近々「自動車産業に変革をもたらす」ために必要な£450億相当ものバッテリーの入札を行う。

ここでミュラー自身の少々大胆な発言を紹介しよう。

「わたし達に求められているものを理解し、それに対応していきます。これは曖昧な意思表明などではありません。今日からわれわれの評価基準となる自分たちに対するコミットメントなのです」

お堅いインタビューを想像していた。ドイツの企業経営者はたいてい形式を重んじるからだ。われわれには取材したいトピックスがある一方で、トップリーダーには守るべき尊厳がある。

だからこそ、われわれはインタビューの場へ通されたとき、廊下の壁にゆったりともたれ掛かって雑談するミュラーの姿をみて驚いたのだ。

あのとき、何があったのか

彼は人目をひく男だ。髪は白髪だが、眼鏡はかけておらず若々しい。その日焼けした肌は恐らくこの数週間を太陽の下で過ごしたに違いない。直ぐにでも船乗りになれそうだ。

にこやかに、しかし力強く手を差し出し、わたしのことをクリスチャンネームで呼んで、こじんまりした部屋へと案内してくれた。カメラマンの指示に従って(中には従わない人間もいる)席に座り、まるでこのインタビューが非常に大切であるかのようにふるまうのだ(繰り返すが、中には全く反対の人間もいる)。

ていねいな説明の後では、ロードマップEの粗探しや、その真の目的について質問するのは場違いに思われたので、この方針転換における所謂「ディーゼルゲート」の影響から質問を始める事にした。

ミュラーは自然体で、インタビューへの戸惑いを見せることもなかった。

「われわれの新たなロードマップはディーゼルだけが理由ではないのです」とミュラーは言う。つまりは、ディーゼル・スキャンダルがやはりその背景にはあることは認めているわけだ。

「2015年の初め、(マーティン)ウィンターコルンがフォルクスワーゲンのトップだった時から、既にわれわれは「フューチャー・トラックス」と呼んでいたグループの将来像に関する議論を始めていました。

「当初は当時の現状から大きく飛躍するような内容はそれほど含まれてはいませんでした。2015年の秋にディーゼルゲートが発覚して、わたしがウィンターコルンの後を継ぐことになったのです」

「ディーゼル・スキャンダルを糧として、われわれの新たな戦略を作り出す必要があることは明らかでした。議論を重ね、将来的なモデル構成はどうあるべきか、特に、内燃機関、電気、プラグイン、ガス、その他を含めた動力源の組み合わせをどうするべきかについては、かなり熱心に議論を行いました」

「昨年末頃、ようやくわれわれはロードマップEとして発表する事になった結論の多くに達する事ができ、実行段階に入りました。今皆さんが目にしているのは今後10年から15年先の将来に対するわれわれのコミットメントなのです」

フォルクスワーゲンがこれほど全面的な電動化を進めるとは思っていなかったことを打ち明けても、ミュラーはフォルクスワーゲンが達成したことを誇るでもなく、この途方もない作業を強いることとなった状況に不満を漏らす事もなかった。

電動化に向かうのは構わないが、EVの採算性の悪さについてはどう思っているのだろうか? これほど多くのEVモデルの販売と、そこに巨額の投資をするのであれば、どうやって採算性を確保するのだろうか?

EVについて、何を思う?

ミュラーの答えは「それは簡単です」というものだったが、正直驚かずにはいられなかった。

自動車業界においては、特にコストの問題はそれほど簡単には解決できないはずだ。しかしミュラーによれば、間違いなくバッテリーとその他主要なコンポーネントのコストは、これまでの内燃機関のクルマとは異なり、今後数年で劇的に低下するというのだ。

「採算性確保に向けた大きな一歩を踏み出すことができると考えています」と彼は言う。「次の世代のEVでは内燃機関のモデル程の収益性をもたらす事ができないとしても、だからこそ、われわれは内燃機関とEVの共存について議論を行っている訳です」

「両者のコストが逆転する時が今後5年から7年の間に訪れると予想しています。そうすればわれわれの収益を改善させることができるでしょう」

一方、ミュラーは顧客がこの移行過程をすんなり受け入れるかどうかについては自信が無いようだった。「内燃機関がその橋渡しをする必要があるんです」と彼は言う。

「完全な市場のEV化にはまだまだ時間が掛かるでしょう。われわれのうち誰もそれが何年先になるかわからないんです。顧客が決める事になると思います。しかし、充電インフラがまだまだ脆弱であることを考えれば、それほど早い時期ではないでしょうね。全ての政府が充電インフラの整備に格別の注意を払う必要があります」

ここでわたしは、なぜフォルクスワーゲンのセールスは依然として力強いのか、なぜ彼らの顧客はディーゼル騒動があったにも関わらずフォルクスワーゲン・ブランドを愛し続けているのか、ミュラーの見解を是非聞いてみたくなった。

フォルクスワーゲン・グループCEOの答えは皮肉を交えつつも、簡潔且つ具体的だった。つまり裁判に関するメディアの報道ぶりと、それとは正反対の好調なセールスというものである。

なぜVWはそれでも売れるのか

「いくつかの要因があります。魅力的な商品構成、われわれのブランドに対するゆるぎない顧客の支持、フォルクスワーゲン・グループの従業員の能力。こういった様々な要因によって、世界中でわれわれの販売は堅調なのです」と彼は言う。

では、世界で最も自動車を販売する会社としてのフォルクスワーゲン・グループの将来についてはどうだろう? 2025年でもナンバーワンを目指すのだろうか?

かつて王者であった2社、GMとトヨタは、最近では重要なのは量ではなく質であると主張している。「ナンバーワンである事は重要です」とミュラーは答えた。「それは2025年でも変わりません。われわれはそれができると思っていますが、どの分野でナンバーワンになるかです。販売台数でしょうか? それともモデル数でしょうか? それとも移動サービスにおいてでしょうか? われわれはこういった全てに取り組んでいるんです」

新型モデルの話題以外に、ミュラーは水面下の重要な戦略についても明かしてくれた。そのうちのひとつは有名なフォルクスワーゲン・グループの権威主義的経営を弱めるというものである。この考えのもと、ミュラーは傘下のブランドに対してより大きな独立性を認めている。

「フォルクスワーゲン・グループの構成は非常に複雑です」と彼は言う。「62万人の従業員と12のブランドがあり、グループとして纏めるためには、多大なエネルギーと努力、そして時間が必要になります。恐らく他にもやり方があると思うのですが、今はまだどのような方法が良いかわかっていません。でも今まさに取り組んでいるところです」

インタビューの終了時間が迫って来ている。最後の質問をすることにした。ミュラーがフォルクスワーゲン・グループCEOに就任して以来付きまとっている問題だ。

つまり、いったいなぜディーゼルゲートを引き起こしてしまったのか? そして、なぜ敢えて前任者が引き起こした騒動の責任を引き受ける事にしたのか?

VWで戦うことにした理由

ポルシェのトップであったミュラーがフォルクスワーゲン・グループCEOに就任したのは彼が60代前半のことだった。もちろん、他の潔白だった役員のように、そのまま立ち去ることも彼はできたはずなのだ。

再びの苦笑。

「何とか助けになりたかったんです」とミュラーは話し始めた。彼は東ドイツに生まれ、インゴルシュタットの学校で学び、アウディの見習い工となった後、再び大学に戻って経営者にまで上り詰めた。

「わたしは44年間もフォルクスワーゲン・グループで働いてきて、その間に多くを与えてもらいました。会社からこの難局を乗り切るために力を貸して欲しいと言われた時、これまでの恩義を思い出したんです」

「わたしはフォルクスワーゲン・グループの長所も短所も知っています。そしてどのように変革すべきかのアイデアもあります。もちろん上手く行くかどうかはわかりませんが、ともかく挑戦してみるつもりです」

ミュラーのアシスタントが更に頻繁にチラチラと時計を見始めた。

わたしはミュラーに好意的になっている自分に気が付いた。以前会った時に抱いた印象よりもはるかに彼は率直で、はるかに謙虚だった。前回はロスで会ったのだが、その時の彼の仕事は成功が約束されたポルシェ・マカンをお披露目することだった。つまり自信過剰になっても仕方のない、成功が約束された仕事だったのだ。

インタビュールームを辞する前に、ミュラーにこの仕事の大変さを簡単に説明してくれるように頼んでみたが、彼の答えには驚かされた。

「最初はそんなに大変じゃなかったんです」と彼は言った。「でも徐々に大変になってきました。ディーゼル問題、ビジネス変革、デジタル化、コネクティビティ、自動運転、ライドシェアやカーシェアなどの共有モビリティ、こういった事全てです。とても大きな課題です。間違いありません。でも同時に楽しくもあるんですよ」

粘りの一問一答 引退の話も

ディーゼルの未来

「ディーゼルの販売は続くと考えています。なぜなら、第1にクリーンであり、第2にCO2排出量の削減目標を達成するには必要な存在であり、第3に多くの顧客にマッチしているからです。ですから、最も小型のモデルを除いては、今後もディーゼルの販売は継続しますし、2019年か2020年には新世代ディーゼルへの投資も予定しています」

自動運転

「最初のステップは自己所有のクルマではなく、都市部を走るタクシーと宅配車両から始まるのではないかと思います。なぜならこういったクルマは走行スピードも低く、何といってもドライバーのコストがサービスに占める割合が高いからです。それから数年経って、システムの完成度が上がり、早い速度域までカバーできるようになれば、その時にはいよいよ自動運転が普及期に入るのではないでしょうか」

グループの中期見通し

「われわれの過去の成功はモデル構成によってもたらされたものです。そしてまさにこれが将来への回答となります。非常に幅広い魅力的な商品群があり、コンセプトカーが今後5年かもう少し先までの道筋を明らかにしていますから。ですから上手く宿題をこなす事さえできれば、成功できると信じています」

財務状況に対する罰金の影響

「米国への$200億の罰金の影響ですか? もちろんあります。そんなお金があったら今すぐポケットに入れたいくらいです。そんなことはしませんが。それでもなお、フォルクスワーゲンは非常に強固な会社であり、全ての新たなプロジェクトに対して資金を拠出する事はできます」

「グッドガイ・クラブ」への再加入

「状況は変化していますが、まだまだ先ですね。われわれには現在の状況がいつ終わりを迎えるのかはわかりませんが、この問題が解決されるまでにはまだ数年、もしかしたら10年掛かるかも知れません。この状況が進展していく事で、信頼を取り戻す事ができるでしょうか? それも今は何とも言えません」

英国のEU離脱

「この件についてお話できる事はありませんが、ひとつ言えるのはわたしはヨーロッパ人だという事です。イギリス人は自分たちが望むことをやるべきだと思いますよ」

引退

「3年か5年、フォルクスワーゲン・グループを率いた後に引退する事になるでしょう。わたしが引退するまでには顧客と規制当局からの信頼を取り戻し、次の10年に向けての準備ができていれば良いなと考えています」

後継者

「次のCEOには、全てを変える必要が無く、今われわれが行っている決断をそのまま引き継いで貰えるようにようにして、バトンを渡したいと考えています」

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