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『BMW V12 LMR』最速トヨタの優勝を阻止した伏兵【忘れがたき銘車たち】

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『BMW V12 LMR』最速トヨタの優勝を阻止した伏兵【忘れがたき銘車たち】

 モータースポーツの「歴史」に焦点を当てる老舗レース雑誌『Racing on』と、モータースポーツの「今」を切り取るオートスポーツwebがコラボしてお届けするweb版『Racing on』では、記憶に残る数々の名レーシングカー、ドライバーなどを紹介していきます。今回のテーマは、ル・マン24時間レースを戦った『BMW V12 LMR』です。

* * * * * *

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 1998年のル・マン24時間レース。この年のル・マンはトヨタGT-One(TS020)、ニッサンR390 GT1、メルセデス・ベンツCLK-LM、ポルシェ911 GT1など、各メーカーのGT1マシンが揃い、ル・マンの総合優勝を狙ってしのぎを削っていた。

 そんなクローズドのGT1“プロトタイプ”マシンが全盛のなか、新たにオープンプロトタイプカーを仕立てて、ル・マンの舞台へと挑んできたのがBMWであった。

 『BMW V12 LM』を名付けられたそのマシンは、F1の名門、ウイリアムズとのタッグで共同製作し、モノコックやサスペンションなどさまざまなパーツが、ウイリアムズが培ったF1でのノウハウを注ぎ込んで作られたマシンだった。

 そんな『V12 LM』は、1998年のル・マンで早々にリタイア。雪辱に燃えるBMWとウイリアムズは、翌1999年のル・マンをターゲットに『V12 LM』のエボリューションモデルを開発することを決めた。そのモデルが、今回紹介する『BMW V12 LMR』だ。

 『V12 LMR』は前年車の正常進化版であり、マクラーレンF1 GTR時代から改良を続けて搭載する6.0リッターV12のエンジンやシーケンシャルミッションといったパワートレーン系は、『V12 LM』から引き継いでいた。

 しかしノーズが大きくローフォルムになり、コクピットもまるでシングルシーターのように開口部の小さいデザインになるなど、外観が大きく変化。さらに床下の空力やサスペンションも見直されるなど、エンジンとトランスミッション以外の部分については、前年車との共通点は少ない新たなマシンへと生まれ変わっていた。

 『V12 LMR』は1998年12月の段階からV12 LMのシャシーを使ったシェイクダウンテストを行い、1999年2月に開催されたセブリング12時間レースで実戦デビューを果たす。このセブリングには2台体制で挑み、1台はリタイアとなってしまったものの、もう1台は12時間を走り切り総合優勝を達成。幸先の良いスタートを切った。

 その後、『V12 LMR』はル・マンの予備予選へと参加。この予備予選には3台の『V12 LMR』を走らせたBMWだったが、1台がセッション開始早々にトラブルからクラッシュを喫してしまう。この影響もあり、2台体制でル・マン本戦へと挑むことになった。

 迎えた1999年のル・マン決勝レース。ヨアヒム・ビンケルホック、ピエルルイジ・マルティニ、ヤニック・ダルマスの15号車、トム・クリステンセン、J.J.レート、ヨルグ・ミュラーの17号車という2台の『V12 LMR』は、予選で17号車が3位、15号車が6位というグリッドを獲得する。レースではスタートから速いラップタイムを刻み続けて前を追いかける、ということはせず、淡々と周回を重ねていった。

 予備予選の段階からトヨタTS020のような速さを見せることも決してなかった『V12 LMR』だったため、事前の予想ではBMWは総合優勝を狙えるほどのポテンシャルではないという見方も多かった。しかし、燃費のよさを活かし、90リッターの給油で1スティント13周というルーティンを守り続け、2時間が経過するころには17号車がレースリーダーへと立っていたのだ。

 一方の15号車も17号車より最高速と燃費を考え、ダウンフォースを少なくして走っていたため、ラップタイムは17号車より劣っていたものの次第に3番手へと浮上。その後、夜間にかけて最速にして最強と思われていたトヨタの2台がリタイアしたこともあり、15号車も2番手へと上がり、レース折り返し地点では1-2体勢を築いていた。

 しかし、レースが16時間を過ぎたころ、トップを走っていた17号車にトラブルが襲う。リヤのアンチロールバーのリンケージが壊れ、その影響からスロットルが全開のままになってしまいクラッシュ。BMW陣営は1台の『V12 LMR』を失ってしまった。

 代わってトップにたった15号車だったが、今度は片山右京駆るトヨタTS020がファステストラップを刻みながら猛追してきており、トップが脅かされそうな状況だった。

 だがトヨタTS020は追い上げの途中でタイヤがバースト。この状況を見て、15号車はピットインし燃料とタイヤを交換。残りはクルージングするペースで走り切り、24時間のチェッカーを受けた。

 この1999年のル・マンは、トヨタTS020やメルセデス・ベンツCLRなど、もとはGTカーであるはずのGT1マシン(この年はクラス名がGTPとなり、CLRはGTPクラスの規定を活かして開発されたマシンではあったが)が、まるでスプリントかのごとくスピードを競っていたが、最終的に栄冠を手にしたのは、24時間レースらしく1周の速さでは劣っていても信頼性と燃費を武器に戦ったBMWのオープンプロト、『V12 LMR』だったのである。

 そしてBMWは、BMWとしてル・マン総合優勝を果たすという目的を達成し、この年限りでル・マンへの参戦を終了(アメリカン・ル・マン・シリーズには参戦した)。『V12 LMR』の開発でタッグを組んだウイリアムズをパートナーに、F1への挑戦を本格的に再開させていったのだった。

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みんなのコメント

3件
  • 空を飛ぶCLR
    周回遅れのBMWプライベーターがトヨタ3号車を執拗にブロック
    その直後のバーストと右京の見事なリカバリー
    いろんなことがあったからよく覚えてる
  • レースの世界に『たられば』は無いけど、もしTS020のバーストが無かったらどんなレース展開だったんだろう。

    計算上ではBMWに追いついてたらしいけど…そんな終了間際のデッドヒートを見てみたかったなぁ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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