Ferrari Roma
フェラーリ ローマ
自然吸気ボクサーシックスを搭載するポルシェ 718 ケイマン GTS 4.0とGT4を、富士スピードウェイで比較試乗!
甘美な快感に酔いしれる
フェラーリのブランニューモデル、ローマ。ロングノーズのボディのフロントミッドにV8ツインターボを搭載し、後輪を駆動する。注目を集めているのはなんといってもそのエレガントなスタイルだが、果たして走りはどうか。日本初上陸の美しき跳ね馬を駆る。
「60年代の優雅でラグジュアリーなフェラーリGTを思い起こさせる」
F1をはじめとするモータースポーツのテクノロジーを採り入れた、最高峰の運動性能を持つサーキット志向のスーパースポーツカー。フェラーリに対してこんなイメージを持つ人は多いし、それはほぼ正しい。だがフェラーリはコンペティションに直結するクルマだけでなく、美しく優雅でラグジュアリーなGTマシンも数多く生み出してきたことは、クルマ好きなら知っているだろう。1960年代の330GT Cや365GTB/4などはその例だ。そんなことを思い出したのは、ローマが、まさにあの頃の優雅でラグジュアリーなフェラーリGTを思い起こさせる雰囲気を纏っているからである。
伸びやかなフロントノーズの先端には逆スラントした格子状のグリル。フロントフェンダーからリヤフェンダーへと繋がるラインはゆったりとした曲線を描き、ルーフからなだらかに降りてきたラインと融合する。全体の雰囲気はクラシックだが、テーマである「LA NUOVA DOLCE VITA」の通り、単なる懐古趣味ではなく60年代の美を現代風に解釈した、というところだろう。その仕事はさすがに見事で、全体のクラシックなラインと細部のモダンな処理が見事に溶け合い、思わず見惚れてしまうほどの美しさだ。
「もはや針メーターにこだわるのは単なる懐古趣味に過ぎない」
インテリアも従来のフェラーリとは大きく違う。インパネからブリッジ状のセンターコンソールが乗員を分けるように伸びているインテリアは柔らかな雰囲気で、間違いなくレーシングスーツよりも上質なジャケットが似合う空間だ。シートもやたらとホールド性を強調するものではなく、乗降性も良好。
そしてインターフェースはSF90ストラダーレと同じくフェラーリ最新スタイル。メーターは16インチのフルHD方式で、ついにタコメーターも針ではなくなった。そのぶん大画面を使った様々な表示が選択可能で、従来通りのタコメーターを大きく中央に配したスポーティなものから、地図画面を全面に表示したり、バーグラフ式のタコメーターのみをシンプルに表示することもできる。アナログ針がなくなることを残念に思う古くからのファンもいるかもしれないが、これだけ多彩な機能を持たせられるなら、もはや針メーターにこだわるのは単なる懐古趣味に過ぎない。
「ローマのインテリアはまさに新世代フェラーリという雰囲気に満ちている」
このメーターの機能操作などは、ステアリング右スポークに内蔵されたタッチセンサーで行える。操作性は素晴らしく、他ブランドも含めたステアリングスイッチの中でもかなり使いやすい。新デザインのステアリングの採用でエンジンスタートやワイパーなどの操作系も一新された。マネッティーノは従来と同じダイヤル式だが、ダイヤル部にモードは表示されておらず、何を選択したかはメーター内に大きく示される。
これは結果的に視線移動を最小限に抑えてくれるという効果もある。空調などをコントロールするセンターコンソールの縦型モニターを含め、ローマのインテリアはまさに新世代フェラーリという雰囲気に満ち溢れている。そうそう、センターコンソールに装着されているエンブレムが、実はキーだったのには驚いてしまった。
「まるで出来のいいNAエンジンのようなピックアップは衝撃的」
エンジンはV8ツインターボのF154で、FRのトランスアクスルレイアウトという点ではポルトフィーノと同じだ。しかしローマ搭載にあたりターボチャージャーの速度センサーの一新、中空吸気バルブの採用とバルブリフト特性の変更、新エキゾーストフラップによるサイレンサーの撤去などなど、数多くの改良が加えられている。数字的にはポルトフィーノよりも20ps大きい620psを達成しているが、その差を体感するのは無理だろう。それよりも驚くのはレスポンスの良さである。アクセルをわずかに踏み増すだけでどの回転域からでも瞬時にトルクが立ち上がってタコメーターが跳ね上がる。まるで出来のいいNAエンジンのようなピックアップには、ちょっとした衝撃さえ覚えた。
足まわりはダンピングがよく効いており、多少荒れた路面にもタイヤがバタつくことはなく、狙った通りのラインをトレースする。視界に入る長めのフロントノーズから旋回が始まるのを感じながら、コーナー出口に向かってアクセルを踏み増して行く。自分が中心になってクルクル回るミッドエンジンカーも楽しいが、FRのスポーツドライブはそれとは違った快感がある。8速となったトランスミッションは反応も素早いが、常に最適なギヤを選んでくれるのでオートのままでも十分だ。
「二面性こそが最大の魅力。これ以上クルマに望むものがあるだろうか」
そしてローマの真骨頂は、街中での躾の良さである。とにかく乗り心地がいい。舗装の悪い場所や首都高速の目地段差などもまるで高級サルーンのようにいなす。エンジンも扱いやすく極めてジェントル、穏やかな踏み加減通りの反応をしてくれるので、とても峠で咆哮を上げていた同じエンジンとは思えないほどだ。
この二面性こそ、ローマ最大の魅力だと言えるだろう。クラシックな美しいフォルム、サルーンのような快適さと扱いやすさ、いざとなれば4人が乗れる実用性、そしてワインディングに行けばF8トリブートにも匹敵するほどの速さと楽しさが味わえる。果たして、これ以上クルマに望むものがあるだろうか。
2000万円台クラスのスーパースポーツクーペといえば長らくポルシェ911上位グレードの独擅場だったが、最近はアストンマーティン、マクラーレンのGT、ラグジュアリー色が強まるがベントレーなどイギリス勢も元気だ。圧倒的なブランド力を持ってそこに挑むローマは、ライバルにとって驚異的な存在となるはずだ。最大の懸念は、納期がどれくらいかかるのか、ということかもしれない。
REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MOVIE/森山良雄(Yoshio MORIYAMA)
【SPECIFICATIONS】
フェラーリ ローマ
ボディサイズ:全長4656 全幅1974 全高1301mm
ホイールベース:2670mm
乾燥重量:1570kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3855cc
最高出力:456kW(620ps)/5750-7500rpm
最大トルク:760Nm(77.5kgm)/3000-5750rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20(8J) 後285/35ZR20(10J)
0-100km/h加速:3.4秒
最高速度:320km/h以上
車両本体価格:2682万円
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