実社会にまで影響を与えた古き良きスポーツモデル
「三つ子の魂百まで」ということわざがあるけれど、幼少期の体験というのは大人になってからも趣味趣向におおいに影響する。子ども時代にふれたクルマが登場するコミックが、趣味の原点といえるクルマ好きも多いのではないだろうか。
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趣味の原体験ともいえるクルマ漫画のおかげで、スーパーカーに憧れる大人になった人もいれば、チューニングにハマったという人もいるだろう。アニメや映画の影響で中古車相場まで変わってしまうほど、実社会にまで影響を与えたこともある。そんな伝説のコミックを、主人公の愛車とともに振り返りたい。
AE86スプリンタートレノ(頭文字D・しげの秀一)
コミックの影響で中古車市場に影響を与えたクルマとして、最初に思いつくのはトヨタ・AE86スプリンタートレノだろう。中古車価格を上昇させただけでなく、メーカーであるトヨタ自身が「86」というモデルを復活させるほどの影響力も与えた。言わずもがな、しげの秀一先生の『頭文字D』だ。
主人公が操るのは、”藤原豆腐店”のロゴが入った配達用の「パンダトレノ(白/黒ツートン)」。ドライビングアドバイザーとして土屋圭市氏がかかわったこともあり、荒唐無稽と言い切れない走りを表現したリアリティも、AE86を神格化するのに一役買ったといえる。
また、ハチロクが新車で売られていた時代には、そのシンプルな構造と刺激的なエンジンなどによってスポーツドライビングの基礎を磨いた若者も多かった。
コミックの世界は現実でもあった。その後、ハチロクの心臓部である「4A-G」型エンジンのチューニングが再発したのも事実であり、のちにFFとなった後継モデルが搭載した5バルブヘッドに換装するという手法が確立されたことも記憶に残る。
S30フェアレディZ(湾岸ミッドナイト・楠みちはる)
初代の日産フェアレディZ(S30)を800馬力までチューニング。ミッドナイトブルーに塗装した「悪魔のZ」を駆る主人公を軸としたストリートバトルを展開。そんな自動車コミックの名作が、楠みちはる先生の『湾岸ミッドナイト』だ。実在の人物を思わせるキャラクターが登場したり、走りだけでなくチューニングのシーンが多かったりすることで知られているが、なにより名言が多いことでファンの心をつかんで離さない。
悪魔のZの心臓部は、1980年代のチューニングシーンにおいて中心的な存在だったL型エンジン。L28改3.1L仕様にビッグタービンを組み合わせることで、前述の通り800馬力を絞り出す。けっして”嘘800馬力”ではなく、1980年代のドラッグシーンを知っているユーザーからすると、それなりにリアリティのあるスペックなのだ。
割合に旧車ばかりが登場しているが、あくまで現代の基準でも悪魔のZが最速マシンであるという設定にしびれたファンも多いだろう。(写真は実際に登場する色のモデルではありません)
MZ11ソアラ(シャコタンブギ・楠みちはる)
楠みちはる先生が『湾岸ミッドナイト』と同時期に連載していた自動車コミックの名作が『シャコタンブギ』。こちらで主人公が乗っていたのは初代ソアラ。トヨタが生み出した、ハイソカーの名作である。当時はぜいたくなグレードだった3ナンバーの2800GTを白/青の2トーンに塗り、題名の通りシャコタンにした”ナンパカー”という設定だった。
ちなみに連載が始まる直前まで、初代ソアラは新車で売られていた。劇中に登場する“ニッパチソアラ”の新車価格は299万8000円(まだ消費税はなかった)。で、親が子供に買い与えるという設定には無理があるようにも思えるが、バブル期だったこともありそれなりにリアリティがあったのも事実。都会には出ず「実家に残るならばハイソカーを買ってあげよう」という甘言がささやかれていたという時代背景も思い出されるチョイスだ。(写真は実際に登場する色のモデルではありません)
MA60セリカXX(よろしくメカドック・次原隆二)
チューニングショップ「メカドック」を舞台に、夢のような改造をメインテーマに展開していた自動車コミックが次原隆二先生の『よろしくメカドック』。2016年にはホンダがモデューロXのプロモーションとして、30年ぶりに復活させたことで話題になったことを覚えている人も多いだろう。
レースごとに独創的なマシンメイクをするため主人公がずっと乗っているクルマというのはないが、スープラの先祖といえるセリカXXのボンネットに「メカドック」のロゴが入ったマシンの記憶が残るというファンも少なくないはずだ。
そのほか、ミッドシップに改造したホンダ・バラードスポーツCR-X、4WDとなった日産フェアレディZ(Z31)なども劇中では生み出されている。ちなみに、ミッドシップのCR-Xは名古屋のホンダ系チューナー「バックヤードスペシャル」、4WDのZ31はモンスタースポーツの田嶋代表が若き日に製作して、いずれも実戦に参加している。荒唐無稽なようで、じつはリアリティがあった展開に刺激を受けた子供たちが今のチューニングシーンを支えているのかもしれない。
AW11・MR2(オーバーレブ!・山口かつみ)
女性ドライバーが主人公という自動車コミックとして珍しい設定の『オーバーレブ!』。そんな主人公の愛車として登場したのは、トヨタのミッドシップスポーツ「MR2(AW11)」。走るソクラテスという異名をとったダートトライアルの伝説的理論派ドライバー、国政久郎氏の提唱する「スーパーノーマル」理論に則って製作されたMR2がモデルとなったというエピソードも知られているところだ。
ちなみに、クルマの製作は2000年前後の話であり、初代MR2は中古で数多く流通していた時期。ストーリーでは、ドラテクの練習方法など実際に走りを磨きたいと考えているヤングドライバーの参考になる描写も多く、クルマの走らせ方を真面目に学ぶことのできる自動車コミックの名作だ。
ロータス・ヨーロッパ(サーキットの狼・池沢早人師)
もっとも多くの自動車ファンを生み出したといっても過言ではない自動車コミックの名作。このカテゴリーにおける金字塔といえるのが、池沢早人師先生(連載当時は池沢さとし名義)の『サーキットの狼』であることに異論はないだろう。
1970年代、スーパーカーブームを巻き起こした名作において、主人公が乗っていたのはフェラーリでも、ランボルギーニでもなく、ロータス・ヨーロッパ。バックボーンフレームに軽量なFRPボディを組み合わせたライトウェイトスポーツが大排気量のスーパーカーを打ち負かすというプロットは、自動車コミックの定番スタイルともなった。
当時は、主人公の台詞を真似て「スタビライザーを打った…」と叫ぶ小学生も多かったとか? 現在、好コンディションのロータス・ヨーロッパを見つけるのは難しくなっているが、スーパーカーブームや「サーキットの狼」の影響なのか熱心なファンも多く、専門ショップが成り立つほどだ。
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