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290万円以下のクラシック・スポーツ TVRキミーラ 450 ポルシェ・ボクスター S 1990年代の2台

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290万円以下のクラシック・スポーツ TVRキミーラ 450 ポルシェ・ボクスター S 1990年代の2台

必要以上のエネルギーを発散する

V型8気筒らしいトドロキを響かせながら、TVRキミーラ 450が弧を描くラインを慎重にスイングしていく。神々しいとさえ感じるサウンドだが、スピードにはいつも以上の慎重さが求められる。肝を冷やす体験は避けたい。

【画像】290万円以下のクラシック・スポーツ 1990~2000年代 現行の718ボクスターも 全100枚

ポルシェ・ボクスター Sなら、艷やかな水平対向6気筒の咆哮を気ままに堪能できる。頭上を流れる風も感じながら。アルミ製のモノブロック・ブレーキキャリパーがしっかりディスクを掴み、カーブの手前で確実に速度を落とせる。ABSも付いている。

涼しい表情を保ったまま、キミーラ 450へ追走できる。ドライバーが狙った場所へ、フロントノーズが吸い込まれていく。湿った路面へ奮闘する、ドライバーの後ろ姿を眺めつつ。

最高出力289ps、最大トルク41.4kg-mを発揮する4.5LのV8エンジンをフロントに積み、車重は1060kgに抑えられたキミーラ 450は、中回転域で必要以上のエネルギーを発散する。344psのキミーラ 500ほどではないが、ドライバーへの要求は高い。

スポーツカーとしての構成は優秀といえる。高圧縮比を持つローバー由来のV8エンジンを、ストロークの長いアクセルペダルで調整できる。ドライビングポジションは低く自然で、シャシーとの一体感も濃い。

サーキットの縁石へ乗り上げても、ブレーキペダルを蹴飛ばしても、加速しながら旋回しても、ボディ剛性は明らかに高い。ドライバーの入力が、キミーラ 450の反応へ直結している。攻め込めそうな自信が湧いてくる。

他のモデルが未完成に思えてくる

しかし、限界のエッジを過ぎるとタイヤ・ロックやスピンが待っている。ダブルウイッシュボーン式のサスペンションも、ストローク量が少々足りない。常に気が抜けない。

そんなさなか、ボクスター Sなら最高のスポーツ体験に浸っていられる。フラット6が意欲的な響きを奏で、発進時から高い精度が伝わってくる。操縦系のダイレクトさでは、比べれば薄いフィルターが介在するとはいえ。

アクセルペダルを蹴飛ばし、速度を保ってコーナーへ飛び込むと、鮮烈な回頭性で応える。慣性はほぼ存在せず、ボディロールも感じさせないまま、鋭く高速にクリアしていく。3.2Lのボクスター Sなら、シリアスな状況にも貪欲的だ。

タイヤは路面を確実に捉える。僅かな右足の角度の変化にグリップ力も対応する。濡れた路面をハードに駆けても、リアアクスルはわずかにむずがる程度。出口が見えたら、一気呵成に加速していける。

レブリミットまで使い切れば、キミーラ 450をパスすることも難しくない。繊細なフィードバックを感じながら、最後のグリップ力まで活かしきれる。1度ポルシェを味わい尽くすと、他のモデルが未完成にすら思えてくる。

1万8000ポンド(約289万円)以下のスポーツカーとして、1990年代の2台に選んだキミーラ 450と初代ボクスター Sは、不足なく速い。0-97km/h加速を6秒以下でこなし、最高速度は250km/hを超える。そして、われわれに一歩身近だった。

新ユーザーを招き入れる運転しやすい特性

1992年のキミーラ 450は、背中が痛くなる乗り心地や蒸し暑い車内、まともに回らないスターターモーターといった弱点を払拭した。1997年のボクスター Sは、憧れのブランドへ乗る夢を、手に届く価格帯で現実に近づけた。

ハードコアなグリフィスと兄弟関係にあったキミーラは、サンデー・チューニングや気軽なロングドライブを許容するTVRだ。従来以上に、運転しやすい特性を得ていた。

チューブラー・シャシーとエンジン、サスペンションは、基本的にクーペのグリフィスと同じ。ホイールベースも変わらない。しかしボディは前後に長く、実用的な荷室が備わる。ビルシュタインのダンパーは、しなやかな味付けだった。

その特性は、丸みを帯びたフォルムで構成され、FRPで成形されたスタイリングにも表れている。エアインテークが必要な場所に設けられ、クラシックなロードスターとTVRらしいアグレッシブさが巧みに融合されている。

それまでの特徴といえた、ドライビング体験での直接的な刺激や強い個性は、角が落とされていた。新しいユーザー層を招き入れるように。

実際、欧州市場はそれに反応した。5000台以上という、TVRとしての多売記録を更新している。

ポルシェを体験できるドライバーを拡大

ボクスター Sも、内容は異なっていたがベクトルは近かった。ミドシップ・スポーツとして傑作の1つへ数えられるに至ったが、経営を上向かせるために入魂の勢いで開発された、切り札といえるモデルだった。

初代の986型ボクスターは、新しい911の鍵さえ握っていた。エンジンとフロント・サスペンションの基本構造などを共有することで、21世紀を生き延びるための開発コストを分散させていた。

ポルシェ550 スパイダーを彷彿とさせる繊細なスタイリングと、両立された実用性が多くの人を魅了。実に16万4874台が世界中で販売され、ポルシェを体験できるドライバーを拡大した。

ダッシュボードは、今見ると少々時代を感じさせるデザインだが、失望を誘うほどではない。21世紀に近いクルマらしく、パネルの継ぎ目はピッタリ整っている。組み立て品質も高い。

ボディカラーは、少し派手目のものを探しても良いだろう。殆どが、落ち着いたシルバーや無彩色で仕立てられている。

間口の広い英国製スポーツカー

キミーラ 450のインテリアは、オースチン・ヒーレー3000を想起させる。ウッドパネルのダッシュボードがクラシカルだが、低くタイトで、やる気に満ちている。

1990年代に経営権を握っていたピーター・ウィーラー氏は、ディティールにも拘った。長いドアは、サイドミラー下部のボタンを押すと開く。シートへ腰を下ろすと、ツートーンでコーディネートされたレザーの内装が新鮮。今回の例は、比較的保守的な仕立てだ。

内装を観察すると、当時のブリティッシュ・レイランドの部品も発見できる。エアコンの送風口も、位置が不自然かもしれない。それでも細部まで気が配られ、特別なクルマに乗っているという感覚が湧く。

初夏の早朝にキーを握り、人影の少ない道を流すイメージが自然と湧いてくる。舌を巻くほどハイスピードでの疾走も朝飯前だが、快適性と実用性を備え親しみやすい。キミーラ 450は、間口の広い英国製スポーツカーだと改めて感じる。

一方のボクスター Sは、同時代のポルシェ911やキミーラ 450の半分の予算で、期待にそぐわない興奮を提供した。多くのドライバーや条件を受け入れる、安定した能力で。

比べれば、スポーツカーとしてベターなのはボクスター Sだろう。でも、エキサイティングなのはキミーラ 450だと思う。

協力:トム・アレン氏、アンディ・ロッキャー氏

TVRキミーラ 450とポルシェ・ボクスター S 2台のスペック

TVRキミーラ 450(1992~2003年/英国仕様)

英国価格:3万1700ポンド(新車時)/3万ポンド(約483万円)以下(現在)
販売台数:5432台
全長:4015mm
全幅:1865mm
全高:1215mm
最高速度:257km/h
0-97km/h加速:4.7秒
燃費:8.5km/L
CO2排出量:−
車両重量:1060kg
パワートレイン:V型8気筒4546cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:289ps/5500rpm
最大トルク:41.4kg-m/4500rpm
ギアボックス:5速マニュアル

ポルシェ・ボクスター S(986型/1996~2004年/英国仕様)

英国価格:4万2316ポンド(新車時)/1万2000ポンド(約193万円)以下(現在)
販売台数:4万8943台
全長:4343mm
全幅:1781mm
全高:1290mm
最高速度:259km/h
0-97km/h加速:5.7秒
燃費:7.6km/L
CO2排出量:−
車両重量:1290kg
パワートレイン:水平対向6気筒3179cc自然吸気DOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:255ps/6250rpm
最大トルク:31.0kg-m/4500rpm
ギアボックス:6速マニュアル

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