■クルマの誘導と言えば「オーライ!」その歴史は100年前から?
大きな声で「オーライ!オーライ!」とクルマを誘導する様子は、ガソリンスタンドらしい光景のひとつです。
ガソリンスタンド以外でも、クルマを誘導するときの定番の掛け声である「オーライ」ですが、そもそもなぜこの言葉が使われるようになったのでしょうか。
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「オーライ」という言葉は、英語の「All Right(オールライト:大丈夫)」という言葉が日本語化したものです。
英語のAll Rightは1880年代に初めて使用された文献が見られるなど、英語のなかでは比較的新しい言葉です。
日本語では1929年に、小説家の辰野九紫によって書かれた『青バスの女』に下記のような例が見られます。
「まだ他にいろいろの事情がありまして、私は青バスに入りました。これでも英語を知らない癖に、ストップ、オーライなんて、生意気な用語を使っています」
「青バス」とは、当時東京で運行していた「東京乗合自動車」というバス会社を指します。車体が青(現代で言う深緑)であったことから、「青バス」の愛称で親しまれていました。
つまり、クルマが一般に普及していなかった昭和初期、いまからおよそ100年前の時点から、すでに「オーライ」という言葉はクルマ(バス)を誘導したり、安全の確認を伝えるのに用いられていたことがうかがえます。
一方で、「大丈夫」であることを示す言葉はほかにもあります。「大丈夫」自体はもちろん、「OK(オーケー)」や「いいよ」なども、日本語の意味としては「オーライ」と大きな違いはありません。
ただ、実際に大きな声を出してみると「オーライ」がもっとも言いやすいということに気付きます。
言語学的にいえば、「オーライ」の「オ」は「ラ」は、発音する際の舌の位置や唇の開き方が近く、口の動きの変化を最小限で済むため、繰り返し発音しても疲れにくく、また滑舌があまり良くない人でも発音しやすいという特徴があります。
また、「オ」と「ラ」はいわゆる「腹から声を出しやすい」音でもあります。
どちらも発音する時は口を大きく開ける形となることが理由ですが、エンジン音や周囲の騒音の中でも、ドライバーに対して確実に安全を伝えるためには、大きな声を出しやすい言葉の方が適していることはいうまでもありません。
前述のとおり、「オーライ」は昭和初期には用いられていたようですが、サイレンサー(消音器)が進化するまではエンジンの音が非常に大きく、ドライバーへの情報伝達は非常に大きな声が必要だったといわれています。そのため、大きな声を出しやすい言葉というのは、非常に重要な要素だったのです。
最後の「イ」は、口を大きく横に開き、さらに舌の位置も「オ」や「ラ」とは大きく異なるため、本来であれば大声で発音しにくい音です。
しかし、ガソリンスタンドなどでの実際の発音を観察すると「オーラ」や「オーラッ」となり、「イ」ははっきりと発音されていないことがわかります。
つまり、事実上「オーライ」は「オ」と「ラ」で構成されており、音の要素が少ないという特徴があります。
「オーライ」を毎日繰り返し発声するガソリンスタンドのスタッフたちにとっては、これは大きなメリットとなります。
こうした視点で見ると、「大丈夫」はそもそも音の要素が多すぎますし、「OK(オーケー)」は、「オ」から「ケ」に移る際の唇や下の動きが負担になりやすいことがわかります。
「いいよ」も、最初の「い」が大きく口を横に開く必要があるため負担になりやすいことに加え、「い」の形では大きな声を出しづらく、無理に声を大きくするとのどを痛めてしまいやすいというデメリットがあります。
このように考えると、やはり「オーライ」の右に出るものはなさそうです。
「オーライ」が日本で用いられ始めてからおよそ100年が経過しており、その間に文化やクルマそのものは大きな変化を遂げました。
しかし、人間の身体の構造は100年程度では大きく変わることはありません。
そのため、単なる慣習的なもので用いられているわけではなく、多くの人にとって最も声を出しやすく、負担の少ない「オーライ」が、いまも昔もクルマの誘導に最適なのだと考えられます。
※ ※ ※
ちなみに、アメリカではクルマを誘導する際にAll Rightを用いることはあまりないようです。
日本のように決まった表現があるわけではなく、Keep coming(そのまま進め)などの一般的な表現に、身振りや手振りによる伝達を加えることが多いようです。
こうした日米の違いには、英語という言語が日本語に比べて、身振りや手振り、表情を交えて意思疎通をおこなうことを特徴としている点も、大きく関係しているのかもしれません。
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では、危険すぎる