掘り出し物といえるクラシック12台
ご存知のように、通貨の価値が下落し物価が上昇する、インフレが世界的に進んでいる。ガソリンは記録的な値段で、新車価格は右肩上がり。クラシックカーも高騰が続き、手の届かない存在になったと嘆く読者も多いはず。
【画像】290万円以下のクラシック・スポーツ 1950~1960年代 現行のスーパー3とプラス・フォーも 全145枚
社会的な負担も増える一方で、自由に使える資金は目減りする一方だ。だが、まだ掘り出し物といえるクラシックは存在する。誰もが憧れるようなアイコンを避け、コレクターズモデルは相手にしない。そうすれば、魅力的なスポーツカーが残ってくる。
今回は、ブリティッシュ・スポーツ全盛期の1950年代から21世紀を迎えた2000年代まで、各年代のドライビング・ファンなモデルを洗い出してみた。真新しいホットハッチよりお手軽といえる、1万8000ポンド(約289万円)の英国価格を上限に。
2台づつ比較することで、互いの魅力へ迫れたと思う。総勢12台、6回シリーズと長編になったが、お楽しみいただければ幸いだ。
MG TDとモーガン・プラス4 2台のロードスター
2023年も、クルマ好きにとって状況が好転する気配はないようだ。第二次大戦後の緊縮財政時代のよう、というのは大げさかもしれないが。
そんな戦後間もない1950年代のクラシックカーとなると、70年に及ぶ歴史が重なり、驚くほどの価値が生まれている例もある。だが、すべてがそうとは限らない。カッコよくて今でも楽しめる性能を備えつつ、お手頃な例もゼロではない。
英国市場を俯瞰すれば、1万8000ポンド(約289万円)以内に2台のスポーツカーが含まれる。MG TDとモーガン・プラス4というロードスターだ。ただしプラス4の場合は、相当な整備も必要になるだろう。
この頃のMGやモーガンは、北米市場を強く意識していた。実際、今回ご登場いただいた2台は工場を出ると大西洋を渡り、アメリカのナンバーを取得している。
1950年代のモーガンを少ない心配で楽しむなら、4/4の方が望ましい選択ではあるが、予算の上限に引っかかる。基本的に堅牢で構造は単純。スリリングなドライビング体験を味わえることは間違いない。
焦点が当てられた操縦性の向上
MG TDは1949年の発表で、1950年に販売がスタート。モーガンの市場を脅かした。
当時、MGの開発チームは先代に当たるTCを分析。パワートレインやスタイリングの魅力を維持しつつ、開発予算を抑えながら、進化させる方法を模索した。
そこで焦点が当てられたのが、操縦性の向上。ステアリングラックをラック・アンド・ピニオン式にし、フロント・サスペンションをウイッシュボーンとコイルスプリングの組み合わせに改めた。
ブレーキはフェードしやすいという課題があったが、ベンチレーテッド・スチールホイールを履かせて対応した。今回のTDには、社外品のワイヤーホイールが組まれているが。
シャシー剛性は、ダッシュボード付近にスチール製の補強材を追加し強化。シャシー自体も高剛性なYフレーム構造を採用し、リア・アクスルがその下へ通された。より長いサスペンション・ストロークを与え、乗り心地にも貢献した。
エンジンは、先代のTCと同じ4気筒1250ccのXPAGユニットを継投。最高出力も54psと変わらないが、1951年に新しいエンジンブロックとオイルサンプへ刷新されている。
生産は1953年までとモデルライフは短いものの、ほかにも多くの改良が施され、高性能化するオプションも用意された。その後、進化版のTDへバトンタッチしている。
以前のモデルと比較して高い動力性能
他方、モーガンはMG以上に部品を入手するルートが限られていた。スタンダード社は、1950年に4気筒1267ccエンジンの生産を終了。この影響で、4/4は1955年まで生産を一時的に停止せざるを得なかった。
かわりに手配されたのが、ヴァンガード社の2088ccユニット。結果として、新しい2シーター・モデルの提供が始まった。それがプラス4だ。
それ以前のモデルと比較して動力性能は高く、0-97km/h加速は17.9秒、最高速度は136km/h以上がうたわれた。一方、スチール製バックボーンにアッシュ材のウッドフレームを組み、スチール製ボディを仮装する様式は変わらない。
フロント・サスペンションは独立懸架式。1910年からの特徴といえた、スライディングピラー構造を維持しつつ、コイルスプリングとダンパーが採用されている。リアはリジッドアクスルで、リーフスプリングが支えた。
オリジナルのプラス4には、1954年に2度の大きなアップデートが施されている。1度目は、トライアンフTR2用にヴァンガード社が改良型エンジンを開発したことで、モーガンにも好ましい影響が及んだもの。
排気量が1991ccになり、オーバーヘッドバルブにSUキャブレターが2基組まれ、最高出力91psを獲得。0-97km/h加速を10.0秒へ短縮し、最高速度は160km/hに届いた。
2度目は1954年の後半。フロントグリルがフラットラッドと呼ばれるスクエアなものから、カーブを描くカウルへ改められている。これは、プラス4が終了する1969年まで変わっていない。
洗練不足を吹き飛ばす痛快な動力性能
MG TDとモーガン・プラス4の2台へ乗り比べると、1250ccと1991ccという排気量の差を実感する。走りの余裕ではプラス4が有利だが、パワーの差で優劣が決まるものでもない。ドライビング・ファンの方向性が異なる。
今回ご登場いただいたブリティッシュ・グリーンのプラス4は1953年式で、フラットラッドのフロントグリルが目印。希望価格は1万8000ポンド(約289万円)を遥かに超えており、非常に状態が良い。
モーガンを専門とするリチャード・ソーン・クラシックカー社によれば、TR2用のヴァンガード・エンジンを、オプションとしてひと足先に搭載したモデルだという。現在は後年の進化版プラス4と同様に、TR3のエンジンが組まれている。
筆者の身長は170cmほどだが、プラス4の固定式シートにピタリと収まる。ダッシュボードはニス仕上げのウッド。中央のメーターパネルには、大きなスピードメーターと、補機類のメーターが収まる。左手には黒い盤面のタコメーターが付く。
フロアから伸びるブレーキとクラッチのペダルは、感触が殆どない。バルクヘッド側から伸びるアクセルペダルも、ダイレクト感が乏しい。
それでも痛快な動力性能で、洗練不足を吹き飛ばす。ウェット状態のサーキットでは、少々手に余るほど。
発進と同時にエグゾーストから激しい唸りが放たれ、タイトな4速MTを駆使すれば、御年70歳とは思えない勢いで加速する。ステアリングホイールは速度が増しても重く、フィードバックが濃くなることはない。
軽く漸進的な操縦系に心が奪われる
姿勢制御は、年式を考えれば優秀。加減速時のピッチやダイブ、カーブでのロールは最小限に抑えられ、乗り心地は硬めだ。
グリップ力が高いとはいえない。100馬力程度でも、コーナーではテールスライドを楽しめる。挙動は予測しやすく、至って扱いやすい。
対するMG TDは、現代人の体型に適している。大きな3スポーク・ステアリングホイールの位置は手前ながら、前後と上下に位置調整が可能。シートもスライドする。
レッドのTDは、オーナーのトレバー・スミス氏が丁寧なレストアを施した1952年式。当時はオプションだったヒーターも備わる。
カーブへ侵入すると大きなボディロールが待っているが、小さなエンジンが意欲的に回る様子が愛らしい。ショートなギア比が限られた排気量を助ける。シフトレバーのストロークは短く、感触が心地良い。
プラス4と比較すると、MG TDはすべての操縦系が軽く漸進的。特にペダルは直感的に扱える。ステアリングホイールにも明瞭な感覚が伝わる。プラス4とは対象的なほど。
乗り心地はしなやか。サーキットでのラップタイムを意識しなければ、穏やかなクラシック・スポーツとしてドライバーを魅了してくれる。実際、筆者はしっかり心が奪われてしまった。
協力:リチャード・ソーン・クラシックカー社
MG TDとモーガン・プラス4 2台のスペック
MG TD(1949~1953年/北米仕様)
英国価格:801ポンド(新車時)/3万5000ポンド(約563万円)以下(現在)
販売台数:2万9614台
全長:3683mm
全幅:1499mm
全高:1346mm
最高速度:128km/h
0-97km/h加速:10.0秒
燃費:10.6km/L
CO2排出量:−
車両重量:838kg
パワートレイン:直列4気筒1250cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:54ps/5200rpm
最大トルク:8.8kg-m/2600rpm
ギアボックス:4速マニュアル
モーガン・プラス4(1950~1969年/北米仕様)
英国価格:801ポンド(新車時)/3万5000ポンド(約563万円)以下(現在)
販売台数:6853台
全長:3683mm
全幅:1422mm
全高:1321mm
最高速度:160km/h
0-97km/h加速:10.0秒
燃費:10.6km/L
CO2排出量:−
車両重量:838kg
パワートレイン:直列4気筒1991cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:91ps/5000rpm
最大トルク:16.2kg-m/3000rpm
ギアボックス:4速マニュアル
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みんなのコメント
間違っても手ぇ出さないわ