日本の輸入車販売でメルセデスベンツの勢いが止まらない。人気は定番のAクラスやCクラス? 実は意外なクルマも売れている。それがGクラスだ。軍用車を祖とする武骨な外観は、今流行りの都会に溶け込むSUVとは一線を画し浮いてしまうかもしれない。
そんなGクラスに日本人が魅かれるのはなぜか? Gクラスの歴史を紐解きつつ日本人との関わりを見ていきたい。
モデルチェンジしても存在感は変わらず! なぜベンツGクラスは鉄壁の人気を維持し続けられるのか!?
文/石川真禧照、写真/メルセデスベンツ、AMG、ブラバス
■7年連続で輸入車販売1位のメルセデスベンツ中でも好調のGクラス
メルセデスベンツの日本での販売好調の牽引役がGクラスだ。こんなゴツいSUVが……と思うかもしれないが芸能人やスポーツ選手にも愛用者が多く、その影響で購入者が増えたのかもしれない
日本自動車輸入組合(JAIA)が先日発売した2021年度(2021年4月~2022年3月)の輸入車販売台数は、1位がメルセデスベンツで5万551台。前年比では9.1%減だが、メルセデスは7年連続で1位の座を守った。ちなみに2位はVWで3万5011台、3位はBMWで3万3619台だったので、メルセデスベンツの圧勝だった。
Aクラスを中心にした前輪駆動モデルのラインナップが増えたことや2021年6月から導入されたCクラスも好評。さらにSUV群も人気車種となったことが、7年連続首位の要因ともいえる。
そのなかで特に注目したいのがGクラスだ。現行GクラスはG350d、G400d、G550、メルセデスAMG G63の4車種から形成されている。車両価格はエントリーモデルのG350dでも1251万円、最上級のAMGは2218万円だが、これが全車種、売れているという。
高額な輸入車といえば、2021年度の統計では全体の販売台数が減少するなかで、1000万円以上の輸入車の販売台数は、JAIAが統計を取り始めた2003年以降で、過去最高になったそうだ。もちろん、そのなかにGクラスが入っているのは言うまでもない。
■お世辞にも上品とは言えないゴツい軍用上がりのSUVが日本でウケる訳とは?
それにしても1000万円以上の高級車といえば、だいたいが最新モデルのGTカーやスーパーSUVが多い。そのなかで新型でもなく、スタイリングもお世辞にもスマートとはいえないGクラスがランクインしているのか、その理由を探ってみた。
そもそもGクラスというクルマが誕生したのはいつ頃だか知っているだろうか? というよりもGクラスのGは開発時のコードネームで、のちにゲレンデヴァーゲンという車名になったことを知っている人も少ない。1926年、今から95年近くも前のことだったのだ。
最初のGクラスは8気筒エンジンを搭載し、後輪が4輪+前輪2輪の6輪駆動車という軍用車だった。これは「G1」と呼ばれていた。その後、G1をベースに乗用車モデルやオープンツーリングモデルなどが1937年にかけて開発され、発売されている。
1972年、当時のダイムラーベンツ社は、オーストリーの4WDメーカー、ジュタイヤー・ダイムラー・プフ社と共同で、1台のモデルの開発に取り組み始めた。それが完成したのが1979年。この時に現在のGクラスのルーツが発売されたのだ。といっても当時は、欧州の軍隊向けの需要が主だった。
■見た目と一致する実用性の高さと扱いやすさで日本でも徐々に市民権を得る
元はといえば軍用車。その民生版として1979年に誕生したのがGクラスだ。G=ゲレンデヴァーゲン(ドイツ語でオフローダーの意)の頭文字なので、名は体を表しているのだ
日本に向けてのGクラスは1983年にショートホイールベースの3ドアとロングホイールベースの5ドアと、3ドアのキャンバストップが上陸したのが始まり。
1980年代以降のGクラスだが、実用車として通用する内容のモデルに成長していた。
個人的な話になるのだが、ボクは試乗用のクルマをテストする時は、必ずB5サイズのノート見開きで1車種の試乗データを書きこんでいる。ノート1冊で50車種のデータが記入されている。それを車種ごとにファイリングしている。
そのデータによると、初めてGクラスに試乗したのは1987年1月。230GEだった。230GEは1986年に燃料コントロールが加わった三元触媒を採用したモデルだった。
2.3Lのガソリンエンジンは5000回転までスムーズに上昇し、エンジン音も室内から遠くで聞こえる程度に抑えられていた。オフロードではハンドルとタイヤの感覚がよくわかり、とても扱いやすいことが記されている。ただし、アクセルペダルはかなり重く、このあたりに軍用車の名残が感じられた。
■本家も驚く日本での人気。「ライバル不在」は独自の存在感の賜物!?
この230GE以来、これまでにかなりの歴代Gクラスに試乗してきた。クルマとしての評価は、Gクラスをどのように見るかでかなり変わってくる。
今風のSUV感覚なら、2018年以前のモデルはトラックからの発展型なので、ドアは重く、乗り心地もハンドリングもかなりスパルタン。2018年以降のモデルはシャシーから見直しただけに、高級SUVとして通用する内容を備えているという評価ができる。
しかし、Gクラスはそんな冷静な評価とは別世界で存在している。特に日本での人気の高さはドイツ本国も驚くほどなのだ。
なぜ日本でGクラスの人気が高いのか。
「ズバリ言って、競合車がないことです」(ディーラー店長)
確かにGクラスと同じような高額SUVを捜しても、ライバルになりそうなクルマはいない。レンジローバーやBMW X7などは都会的すぎ、ワイルド感がない。アストンマーティンDBXやランボルギーニウルス、マセラティレヴァンテなどはスポーツカー的で、スタイリングもワイルド感がない。
ジープ系もラングラーは武骨さ、ワイルドさはあるが、高級感という点に欠けている。
■21世紀に入り人気に。武骨な外装と高級感ある内装とのギャップが日本人にウケた!?
では、いったいGクラスの人気はいつ頃から高くなったのだろう。
「個人的には2002年にドアミラーウインカーが採用されたモデルが発売されてから。あのドアミラーウインカー仕様がおしゃれと言うことで、パーツを欲しがる人たちがいました」(中古車店店長)
「2002年以降は新車だけでなく、中古車の人気もグングン高まってきた」(前出 ディーラー店長)
「G500やAMG55が登場した2000年以降のモデルなら、すぐに買い手がつく」(前出 中古車店店長)
さらに2013年にGクラスとしては23年ぶりにディーゼル車が発売されたことも人気上昇の要因になっている。
■オーナーに固定層がいないのも強み? 今後も時代の推移とともに変化するのか?
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Gクラスのユーザーも独特だ。一般的に人気のクルマなら、一定の顧客層が見えてくる。しかし、Gクラスは異なる。
「どのような人たちがGクラスを購入するのか見ていると、顧客像がない。年代も職業もバラバラ」(前出 ディーラー店長)
さらに購入者の多くが現金払いなのだ。Gクラス取り扱いディーラーではもちろんファイナンスプランも用意しているが、それを利用する人は他車種にくらべて圧倒的に少ないという。なぜ現金払いが多いのか。
「Gクラスは購入した価格で売れるので、金利がもったいない。それどころか購入した価格よりも高い価格で売れることもある」(元GクラスユーザーA氏)
特にディーゼル車の場合、このケースが多いそうだ。
およそ、おしゃれとかスマートという言葉とは無縁のようなGクラスだが、現実にはスキー場やキャンプ場よりも都会のド真ん中の銀座が似合う、と言われているほど、Gクラスは独自の道を歩んでいるクルマなのだ。
一度はGクラスの生産中止を決めたメルセデスだったが、日本をはじめとした国からの強い要望で生産の延長を決めた。その結果、今では人気車種のひとつになっている。
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