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スタッドレスタイヤはなぜ必要か? 存在意義をあらためて考えた──横浜ゴム雪上試乗会体験記

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スタッドレスタイヤはなぜ必要か? 存在意義をあらためて考えた──横浜ゴム雪上試乗会体験記

北海道旭川市郊外でおこなわれた横浜ゴムのスタッドレスタイヤ勉強会・試乗会に参加してきた。

スタッドレスタイヤの試乗会といっても、新製品はなかった。それでも勉強会・試乗会を催すところに、横浜ゴムの「自分たちの技術を知って欲しい」といった強い意気込みがあらわれている。

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内容は盛りだくさんだった。乗用車用スタッドレスタイヤの技術説明や試乗だけに限らず、スタッドレスタイヤを履いた大型トラクターヘッド(トレーラーを引っ張る先頭の部分)によるスラローム走行や、ラリードライバーが操るラリーカーのデモ走行などにくわえ、「自己修復コート材」といって、クルマのボディに塗っておくと、ひっかき傷がついても自動的に傷が消えてしまう新素材のデモンストレーションも実施された。正直いって1日半のスケジュールでは十分に消化しきれないくらい内容豊富なイベントだったのだ。

なかでも、私がもっとも関心を抱いたのはスタッドレスタイヤに関する話題だった。

そもそも、どうしてスタッドレスタイヤが誕生したのか、皆さんはご存じだろうか?

かつて“ウィンタータイヤ”といえば、タイヤの踏面に金属製の鋲(びょう)を打ち込んだスパイクタイヤが一般的だった。雪や氷のうえではバツグンのグリップ性能を発揮するスパイクタイヤであったが、雪が積もっていない乾燥路を走行すると金属とアスファルトがぶつかりあって“粉じん”が発生する。これが呼吸器系の健康被害を引き起こすとして、日本では1991年ごろにスパイクタイヤの製造と販売が禁止された。

この時期と前後して誕生したのがスタッドレスタイヤだった。“スタッド”とは鋲を意味し、つまりスパイクと同義である。言い換えれば、金属製の鋲を持たないウィンタータイヤがスタッド“レス”タイヤで、粉じん公害を巻き起こさないとして期待を集めた。

ちなみに横浜ゴムが初のスタッドレスタイヤを販売開始したのは、スパイクタイヤが禁止になる6年前の1985年だった。商品名は「ガーデックス」で、それから数えて6世代目が最新モデルの「アイスガード6」である。

アイスガード6の印象は後ほど紹介するとして、まずはスタッドレスタイヤがどうやって雪や氷を捉えるのかについて説明しよう。

スタッドレスタイヤが雪上や氷上でグリップ力を得るプロセスはいくつかあるが、ものすごく大雑把にいうと、雪上では「雪柱せん断効果」といって、タイヤ表面の凹凸で雪を踏み固め、後方に掻き出す効果が重要になり、氷上ではタイヤ表面と氷が密着し、摩擦力を発生させるのが重要になる。

雪柱せん断効果はなんとなくイメージ出来るかもしれないが、わかりにくいのは氷とタイヤを密着させて摩擦力を発生させるというプロセスだろう。しかも、雪より氷のほうが、はるかに摩擦係数が低い=滑りやすくて危険なため、氷上性能はスタッドレスタイヤでもっとも重要な性能のひとつとなっている。

氷とタイヤの関係について、よく引き合いに出されるのが“水”の存在だ。「氷とタイヤの間に水が挟まり込んで摩擦力を低下させる」と、スタッドレスタイヤのテレビCMでもよく取り上げられているが、この理屈が筆者もいまひとつよく理解できなかった。そう思っていたところ、横浜ゴムの技術者がこれをわかりやすく説明してくれたので、紹介したい。

冷凍庫から取り出したばかりの、キンキンに冷えた氷を手で取ると、氷が指に張り付いて、はなそうと思ってもなかなかはなせない。ところがしばらく指で触れていると体温で氷が溶け始めて水が発生し、ツルッとすべって指のあいだをすり抜けていった……という経験はないだろうか? よく冷えた氷は表面に溶けた水分がなく、つまり乾いている。乾いている氷は思いのほか摩擦係数が高く、このため指でつまんでも滑りにくい。ところが氷の温度があがると、表面に水が浮き出てきて、これが指とのあいだに入り込んで摩擦係数を落とし、氷が滑りやすくなる原因を作っているというわけだ。

この関係をスタッドレスタイヤと凍った路面に置き換えてもまったくおなじだ。つまりマイナス10℃を下まわるようなキンキンに冷えた氷上よりも、0℃近くまで温度が上がって表面に水が浮き上がっている氷上のほうが滑りやすく、クルマの運転にとっては危険である。

そのため、スタッドレスタイヤの表面で氷上の水分を吸い上げる効果が重要になる。吸い上げるために使われるのがスポンジのような原理で、要するにタイヤ表面にミクロの穴を開け、この穴に水を吸い込ませて氷を乾かそうとする技術だ。

横浜ゴムは、スタッドレスタイヤに吸水素材を配合し、かつ表面に小さな凹凸を形成。これにより、水を吸い上げて氷上の摩擦係数を高めようとしている。とはいえ、似たような工夫はライバルメーカーも採用している。

横浜ゴムに優位があるのは、タイヤ表面が水を吸い上げる現象を、可視化する技術を確立している点だ。どのような構造がもっとも効果的に吸水するかについて研究し、スタッドレスタイヤのさらなる進化に取り組んでいる。

最後に、横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤであるアイスガード6の印象を記しておくと、発進や制動で重要になる前後方向のグリップだけでなく、コーナリングで重要になる横方向のグリップもバランスよく確保されていて、とても扱い易いタイヤに思われた。しかも、ブレーキングやコーナリングの際にグリップが失われる過程がわかりやすく、ドライバーの立場でいえば限界性能を掴みやすいタイヤに仕上がっていた。

「事故を防ぐにはなによりもブレーキ性能が重要」と考え、前後方向のグリップ力向上に邁進するタイヤメーカーとは対照的な開発方針であるが、ある程度テクニックのあるドライバーにとってはむしろアイスガード6のほうが限界域でも安心して走行出来るし、操る楽しさも多く残されているように思う。

ちなみに、横浜ゴムは夏タイヤも「操る楽しさ」を追求した技術開発に取り組んでいる。なるほど、おなじフィロソフィーが、スタッドレスタイヤにも息づいているのだ。

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