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「世界で最もレアなスーパーカーに乗ってみる!」後編──連載「西川淳のやってみたいクルマ趣味、究極のチャレンジ 第3回」

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「世界で最もレアなスーパーカーに乗ってみる!」後編──連載「西川淳のやってみたいクルマ趣味、究極のチャレンジ 第3回」

軽自動車からスーパーカーまであらゆるクルマを所有し、クルマ趣味を追求し続ける自動車ジャーナリスト西川淳氏がスタートさせたチャレンジ企画。タイトル通り、無茶、無謀と思われる究極のクルマ遊びを考案し、それを実践。クルマ好きの、クルマ好きのための冒険連載。今回は“世界で最もレアなスーパーカー”チゼータV16Tに乗る!

スーパーカーである要諦はV16をミドに積むこと

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2020年6月。日本の某所。友人のガレージに赤いチゼータV16Tが眠っていた。否、正確にいうとつい最近まで本当に眠っていたものをメンテナンスに出し、取材の数日前に車検を取得してガレージに戻ってきたばかりだった。車台番号から類推するに、生産4号車。

間近で見るといっそう幅広く、そして低い。ガンディーニよるエクステリアデザインはディアブロのオリジナルスケッチに近いと言われているが、残念ながらシザードアではない。

チゼータがスーパーカー中のスーパーカーであることの要諦は、もちろん16気筒エンジンをミドに積んでいることだ。それを横置きミドとしたからこそ、この極端な幅広ミドシップスタイルが生まれた。「スーパーカーはユニークなカタチが命で、それはミドシップでなければ決して生まれてこない」というボクの言い分をこれほどよく現すスーパーカーは他にない。

エンジンフードはガバッとリア面丸ごと開く。しかも起点は後端。クラムシェルスタイルという。整備のし易さを最優先にしたあたり、厳しい現場を経験したクラウディオのアイデアだと言っていい。

V16エンジンは6リッター自然吸気で、最高出力は560psを謳った。今なら4リッターV8でも過給器を二丁掛けすればいとも簡単に700psを超えてくる。それでも30年前には強烈な数値だった。

ちなみにこのV16、構造上あたかもV8エンジンを二つ組み合わせたようにみえ、さらにはボア&ストロークがランボルギーニウラッコ用の3リッターV8エンジンと全く同じことから、マニアの間では長らくウラッコのエンジンを組み合わせただけ、だと思われてきた(未だにそういう解説をする人がいる)。けれどもそれは間違いだ。確かにカム駆動用チェーンがブロックの中央に配され、同じく中央に置かれたベベルギアから出力を取り出しているため、あたかも2機のV8エンジンが列なって動いているように思ってしまう。クランクシャフトやカムシャフトも左右で二分割されていた。けれどもその一方で、アルミ鋳造ブロックは一体成型品で、16個のシリンダーは順に点火される。ウラッコ用V8エンジンを2つ繋げた(なら同時に2つのシリンダーが点火する)という言説は的外れ、というわけだ。

微速域でも気難しくなることがない

マニアックな話はこれくらいにして、世界で最もレアなスーパーカーの試乗に繰り出すことにしよう。

すさまじいアピアランスとは裏腹に、フツウに開くドアから中へともぐり込んでみれば、いかにも80年代らしいラグジュアリィなスポーツカームードに包まれていた。全てをレザーで包み込んでいる。同時代のスーパーカー、例えばカウンタックに比べて室内は広い。シートも大きく、足元も広々としていて、ペダル操作もラク。ずばり、快適だ。スパルタンなスポーツカーのイメージは微塵もない。まったくラグジュアリィカーの装いで、その仕上げと見映えのクオリティは同年代スーパーカーよりも断然に上。このあたりもまたカスタマーとダイレクトに繋がっていたクラウディオのこだわりであったのだろう。翻って30年後の今、時代は彼にやっと追いついた。

キーを捻ると16気筒エンジンはあっけなく目覚めた。8気筒の倍だから、倍ほどうるさいと勝手にふんでいたのだ。日本向けにキャタライザー付きエグゾーストを装備するため、余計に静か。無粋なノイズもなければバイブレーションもない。16気筒エンジンに乗るぞ! という緊張した意気込みがいい具合に解れ始める。

アイドリングミート(アクセルを踏み込まずクラッチをリリースするだけで動かす方法。トルクのある大排気量エンジンの場合に有効でクラッチの消耗を防ぐ)で慎重にスタート。クラッチペダルは少し重め、カウンタックと同じくらいか。低回転域からしっかりとトルクが出ている。微速域で気難しくなることはない。つまり、とてもドライブしやすい。

とはいえ、とてつもなく低い位置に座らされ、スカートのように膨れ上がったリアセクションを想像すると、車両感覚に間違いがないかと気を遣う。もっとも、ものの5分も一般道を走れば慣れてしまったが。

“きれいなシンフォニー”を奏でつつ、どこまでも回りそうなV16

早く完調なった16気筒エンジンを試してみたい。高速道路の入り口を見つけて早速に駆け上がる。

エンジンの回転が上がっていくにつれて、16個のシリンダーがきれいなシンフォニーを奏ではじめる。ひとつひとつの機械が同調しだすのだ。リズムに乗ったV16のエンジンサウンドに野蛮さはなく、ジェット機のようにキーンという音、今までに聴いたことのないサウンド、へと収束した。中間加速の気持ちよさは現代のターボカーでは絶対に味わえない類のもの。どこまでも、どこまでも、このV16自然吸気は回りそうだ。

100km/hで2000回転ちょい。これなら燃費も悪くないに違いない。とそこでハタと思い至る。スーパーカーはこうでなければならないと。

昨今のスーパーカーは、スポーツカーでありすぎると思う。スーパーカーはスポーツカーであるまえにGTであるべきだ。レーシングカーとは一線を画する、というか正反対にある高性能車として生を受けたのだから。スーパーカーにとって最高速は重要だがハンドリング性能は二の次でいい。サーキットを速く走りたいのであればロータスに乗ればいい。そうではなく、いかにも空気を切り裂きそうなユニークなスタイリングで高速道路を快適にかっ飛んでいく。それが本当のスーパーカーなのだ。だからこそ、ミウラやカウンタックは無謀にも12気筒エンジンをミドに配した。本来なら8気筒がベストであったというのに。チゼータV16Tの速度計は確かに400km/hまで刻まれていた。

昨年のことだ。筆者はブガッティやパガーニ、ケーニグセグのテストドライバーとして有名なボリス・ビコッキの職歴ン十年を祝うパーティに出席するため、サンタガータ・ボロニェーゼ(ランボルギーニの本社がある)村に赴いた。そこにはジャンパオロ・ダッラーラやオラチオ・パガーニ、クリスチャン・フォン・ケーニグセグといった大物役者が顔を揃えていた。テーブルからテーブルへと回遊していると、思いがけずボクを呼び止めた声があった。振り返ると長身のクラウディオが顔をくしゃくしゃにして笑っていた。

クラウディオは今でもアメリカで工房を構えているという。望めばもう1台や2台、新車のV16Tを造ってくれるんじゃないだろうか。いちど強者どもの夢の跡を見にカリフォルニアを訪れてみたいと思っている。

PROFILE
西川淳
軽自動車からスーパーカーまであらゆるクルマを愛し、クルマ趣味を追求し続ける自動車ジャーナリスト。現在は京都に本拠を移し活動中。

文・西川 淳 写真・柳田由人 編集・iconic

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みんなのコメント

3件
  • いろいろ検索してみると、3年ほど前にチゼタ創業者のザンポッリ氏を取材したという海外の
    ブログが見つかりまして、その画像には製造途中と思われる赤いV16Tの車体が、氏の小さな
    工房内に後ろ向きに入っているのが確認できます。

    ただ、どうもエンジンの方は入っていない様子で…その後この車両は完成したのでしょうか…?
    しかもこの制作中の車両は、どうやら日本からのオーダーのようですが…
    もしこれが完成納車されたら、日本には都合4台(うち1台は黄色いオープンモデル)の
    チゼタが在ることになるワケで…

    さてそのザンポッリ氏、この取材時点で76歳…
    ホントに注文受けて大丈夫なのか…?とも思いますが、イタリアンスーパーカー業界の
    酸いも甘いも噛み分けてきた希有なお方、いつまでもお元気でいて頂きたい存在です…。
  • こういう個性のある車はおもしろいよね。
    デザインはあくまでコンセプトカーっぽい。
    ディアブロがしっかり洗練度を高めているところで当時のクライスラーのデザイン力が分かる。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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