2021年のWTCR世界ツーリングカー・カップは、本来カレンダーに組み込まれていたスペイン・ヴィラレアル市街地の代替戦として、6月25~27日の週末にポルトガルはエストリル・サーキットでの第2戦が開催された。その初戦はリバースグリッドを活用した王者ヤン・エルラシェール(リンク&コー03 TCR/シアン・レーシング・リンク&コー)以下、イバン・ミューラー、サンティアゴ・ウルティアのリンク&コー03 TCRが、アクシデント満載の展開にも助けられ表彰台を独占。
しかし、続くレース2は予選で最前列を確保したホンダ勢が主役を演じ、ほぼレース全域を支配したティアゴ・モンテイロ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.DE・ミュニッヒ・モータースポーツ)が開幕に続いて地元戦で勝利を飾るかに思われたが、まさかのトラブルで脱落。代わって僚友のアッティラ・タッシ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)がトップチェッカーを引き継ぎ、待望のWTCR初優勝を飾っている。
ニュル24時間併催のWTCR開幕“ドライ決戦”は、ホンダのモンテイロが最終周で逆転勝利
ドイツ・ニュルブルクリンクの開幕戦を経て、この第2戦に向けてはBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)の話題がパドックを賑わした。その発信源はリンク&コーのシアン・レーシング勢で、ノルドシュライフェの名物ロングストレート“ドッティンガー・ホーエ(Döttinger-Höhe)”でライバルの後塵を拝し続けたチームは、公然とBoPに対する不満を表明。リンク&コーの親会社である吉利汽車(ジーリー)グループは、11月開催予定の中国・寧波ラウンドのイベント後援を「辞退する」とまで表明し、シリーズ側に状況の是正を促す圧力を掛けた。
そのBoPに関する公式アナウンスがないまま始まったポルトガルの週末は、公式練習から当のシアン・レーシング勢がタイムボードの上位に進出。ウルティアがFP1最速をマークすると、FP2では僚友のテッド・ビョーク(リンク&コー03 TCR/シアン・パフォーマンス・リンク&コー)を先頭に、リンク&コー03 TCRが1-2-3を占拠する躍進の結果となった。
しかし予選でその勢いに“待った”をかけたのがホンダ勢で、モンテイロとのポール争いを制したエステバン・グエリエリ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.DE・ミュニッヒ・モータースポーツ)が最前列を確保。さらにその背後3番手にはネストール・ジロラミ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.DE・ミュニッヒ・モータースポーツ)も続き、シビックがトップ3を独占する速さを見せつけた。
「めちゃくちゃ大きなオーバーステアが出てアタックが台無しになるところだったが、最後のセクターで必死にリカバリーすることができた」と、WTCR初開催の元F1トラック、エストリルでポールポジション獲得のグエリエリ。
「最後のふたつのコーナーもアンダーが出たら“おしまい”ではあったけど攻撃的に行った。リスクを冒さなければポールはないと理解していたから、挑戦が報われてよかったよ」
この予選で10番手となった59歳の鉄人、ガブリエル・タルキーニ(ヒュンダイ・エラントラN TCR/BRC・ヒュンダイN・ルクオイル・スクアドラ・コルセ)がレース1のリバースポールを獲得し、その背後にはエルラシェール、ミューラー、そしてウルティアの3台が並んでのスタートに。
するとフロントロウ2番手に並んだディフェンディングチャンピオンは「最高速を考えれば、おそらくレースに勝つ唯一のチャンスはここだった」との言葉どおり、初代WTCR王者を仕留めて首位でターン1へ突入していく。
■レース2もスタート前から波乱続きの展開に
しかし後続でアクシデントが発生し、ノルベルト・ミケリス(ヒュンダイ・エラントラN TCR/BRC・ヒュンダイN・ルクオイル・スクアドラ・コルセ)と選手権首位のジャン-カール・ベルネイがヒュンダイ同士討ちを演じ、巻き込まれたホンダのジロラミを回収するため早々のセーフティカー(SC)が導入される。
SC明けのリスタート後も、鉄人がドライブする新型セダンとの攻防を繰り広げたエルラシェールだったが、中盤にもうひとつのドラマが発生。首位を狙っていたタルキーニの右フロントタイヤが限界を越えバーストし、この瞬間にエルラシェール、ミューラー、そしてウルティアの表彰台独占が決まった。
「低い最高速で防御に徹しながら、タイヤの管理にも最大限の注意を払った。彼(タルキーニ)がパンクしてくれたお陰で、その後はいくぶん楽になったよ」と、今季初勝利を飾ったエルラシェール。
続くレース2もスタート前から波乱続きの展開となり、車両リペアを実施した予選3番手のジロラミは、パルクフェルメ規定により隊列最後尾に回されることに。一方、ポールシッターの僚友グエリエリも「グリッド上でエンジンシステムの問題に気を取られていて、修正を試みている間にシグナル消灯を見落とした」ことで、オープニングラップから後続に飲み込まれ一気に14番手へと転落してしまう。
これで主導権を握ったのがALL-INKL.DE・ミュニッヒ・モータースポーツのふたりで、ミケル・アズコナ(クプラ・レオン・コンペティションTCR/ゼングー・モータースポーツ・サービスKFT)にトム・コロネル(アウディRS3 LMS/コムトゥユーDHLチーム・アウディ・スポーツ)らが絡んだアクシデントで再びのSC導入となるも、再開後もタッシを従えたモンテイロは快適なリードを構築する。
しかし、そのギャップが約2秒となったところで、地元の英雄に悪夢が襲う。モンテイロのシビックはホームストレート上で右側のエアロキャッチがルーズとなり、ボンネットが浮き上がった状態に。これによりスチュワードからオレンジディスク旗が掲示され、ピットでの修復を経て最終的には失意の18位に終わってしまう。
このトラブルで首位を引き継いだタッシも「最後の数周はラジオの問題があったから、本当に永遠に続くように感じた」との言葉どおり、背後に迫るベルネイ、ミケリス、タルキーニの新型ヒュンダイ軍団からの猛烈な攻撃にさらされる。
終盤まで防戦一方の展開を強いられ、片側2輪をグラベルに落としながらも耐え抜いたタッシは、からくも1.030秒差で16周のトップチェッカー。「110%の集中を余儀なくされた」激戦を制して、シリーズ初優勝を手にした。
「ようやく2年前のポルトガルでの“忘れ物”を取り返すことができた。この勝利を達成するのはそれほど簡単ではなかったし、普段から『一緒に表彰台へ上がろう』と語り合っていたティアゴが、ここに一緒にいないことを心から残念に思う」と語ったハンガリー出身のタッシ。
「終盤は(ラジオの問題で)ペースの情報がなく、ヒュンダイが追いついてきているのが見えたから、最終コーナー出口からメインストレート、それとバックストレートだけに集中した。最終的にその努力が報われたことをうれしく思うよ」
これで2位に入ったベルネイが失意のレース1を挽回する選手権首位をキープし、5点差の2位にミューラー、ウルティア、そして勝者タッシが並ぶ展開に。「アッティラ(・タッシ)には本当に満足しているし、今回は非常に残念で愚かな機械的故障だったが、誰かを責めても意味はない。プレイヤーで居続けることが重要だ」と語ったモンテイロが、さらに4点差の5番手に続いている。
続く2021年WTCRの第3戦は、7月10~11日に昨季タイトル決定の舞台ともなったスペインのモーターランド・アラゴンで争われる。
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