兄貴分「Vストローム1000」と共通の縦2眼ヘッドライトをはじめ、スズキ・ビッグオフローダー伝統の“クチバシ”を持つフロントマスクで、堂々たるスタイル。街乗りから高速巡航、ワインディング、そしてダートまでロングライドを快適に楽しむことができるスポーツアドベンチャーツアラー「V-Strom(ブイ・ストローム)」シリーズのミドルクラスは“650”です。REPORT●青木タカオ(AOKI Takao) PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
V-Strom650ABS……950,400円
砂漠の怪鳥 DR-BIGから受け継ぐクチバシ顔とダート性能!「Vストローム1000」は遠出したくなる
日本の場合、かつては“ロクハン”(650cc)の魅力なんて、一部の玄人、ツウ、達人にしかわからなかったような気がします。80年代ならホンダ「ブロス」が400ccと650ccを用意し、「プロダクト1」と「プロダクト2」と名付けていましたが、中免(自動二輪中型限定)で乗れる最大クラスが“ヨンヒャク”(400cc)だった時代に650ccを買う人は多くありませんでした。
他にもスズキのアメリカン“サベージ”に「LS400」と「LS650」がありましたし、650ccではないですが「SRX400」と「SRX600」なども同じことが言えるかもしれません。残念ながらかつて“ロクハン”は不人気……、免許制度という大きな壁が立ちはだかっていたのです。
しかし、1996年(平成8年)9月の免許制度改正から大型2輪免許が教習所で取得できるようになり、“ヨンヒャク”の縛りから解放されるライダーが増加すると、アンダー400でなくとも売れる時代がやってきます。「ZZR1100」「CBR1100XXブラックバード」「ハヤブサ」など、憧憬であった1000ccオーバーのアルティメットスポーツに陶酔しますが、しばらくするとリッタークラスからダウンサウンジングするベテラン層が出現し、ついに“ロクハン”ぐらいが「ちょうどいい」と、密かに注目されだすのでした。
欧米ではすでに成熟していたセグメントがゆえに、国内仕様がラインナップされると手に入れやすくなって評価も上昇。外国車勢を含め600~800ccクラスは激戦区となって、特にアドベンチャーモデルはリッターオーバーではオフロードで扱いきれないと、このセグメントの価値は揺るぎないものとなっています。
シーンを牽引してきたBMW GSシリーズをはじめ、トライアンフのタイガー、KTMアドベンチャー、カワサキVERSYSなどミドルクラスの弟分は、今となっては欠かせない存在となっているのです。
「Vストローム650」は輸出仕様として2003年から発売され、12年のモデルチェンジを機に翌13年から国内仕様が設定されました。14年秋にはクロススポーク仕様の「Vストローム650XT」も追加され、17年にフルモデルチェンジ。このとき外装を一新するとともに、トラクションコントロールを搭載するなどしました。
19年式ではカラーチェンジをおこなって新色のキャンディダーリングレッドが登場。今回は継続カラーのパールグレッシャーホワイトに乗ってみました。すでにレポートしたとおり「Vストローム1000XT ABS」と立て続けに乗ったので、要所で比較した話しも織り交ぜていこうと思います。
ロードバイク然とした車体で安定感抜群!
堂々たる車格で、アルミ製ダイヤモンドフレームとスイングアームを採用したシャシーは、剛性感がしっかりあってロードスポーツ然としたもの。そこにストロークの長い前後サスペンションを組み合わせたことで、抜群の安定感を生み出しています。こうした性格は1000と共通です。
足まわりは踏ん張りの効くコシのある味付けですが、フロント19インチが穏やかなハンドリングを生み、タイヤの接地感もしっかり伝わってきてトータルバランスに優れることに感心するばかりです。
トラクションコントロールがあり、大きな安心材料となりますが、もともとトラクション性能に優れ、安心してアクセルを大きく開けていけます。
1000は獰猛さもあり、ファイターな一面を持っていますが、650は比較すればマイルドで紳士的。排気量の差だけでなく、キャラクターに違いがあるように感じました。
ただし、程良いパワーとよく言われますが、90度VツインのDOHC4バルブエンジンは充分に力強く、スロットルワークで自在に操れ、物足りなさは感じません。1000と650、一般道、高速道路、ワインディング、ダートも含めそれぞれで400km以上を走ったのですが「650でも充分」と、基本的には思います。すべての面で、クラスを超えているのです。
高速道路ではウインドプロテクションも良好で、クルージングは快適そのもの。100km/h巡航はVストローム1000だとトップ6速で3600rpm、Vストローム650なら4500rpmとなり、650もエンジンはまだまだ余裕があり、1万回転から始まるレッドゾーンまでスムーズに吹け上がります。
低中速トルクが太く街乗りも扱いやすいのですが、高回転域の伸びこそこのDOHC4バルブエンジンの持ち味だと言えるでしょう。不快な振動もなく、胸の空く加速が味わえるのです。
未舗装路も走りましたが、XTでなくてもフラットダートならグイグイ突き進むことができ、軽量コンパクトになった分だけ1000より攻めていけるのでした。履いているタイヤはブリヂストン製のトレールラジアルで「Vストローム650/XT ABS」が「BATTLAX ADVENTURE A40」、「Vストローム1000/XT ABS」は「BATTLE WING BW-501/502」となっています。
650も見た目で大きいと感じますが、跨るとグリップ位置が近く、ライディングポジションは1000よりかなりコンパクト。取りまわしもしやすく、1000ではそのボリューム感からツライと感じる狭い場所も650だと気になりません。
言い尽くされたかもしれませんが、650はまさにジャストサイズ。しかし、ライドフィールに手強いような荒々しさもあって、さらにフラッグシップとしての上質感もある1000も素晴らしい。
Vストロームは1000も650も甲乙付けがたく、旅するライダーにぜひ乗ってほしいと思います。価格を考えても、どちらもお買い得でしょう。
650と1000の細部、比較検証してみる
倒立式フロントフォークにラジアルマウントキャリパーという1000(写真上)の豪華さに比べると、正立フォーク+ピンスライド式の2ピストンキャリパーの650(写真下)は見劣りしてしまいます。ただし、フローティングマウント式のディスクローターは同じ310mm径で、制動力やタッチに不満は感じませんでした。
1000XT(写真上)では堅牢で幅広なテーパーハンドルを標準装備するの対し、650(写真下)は絞りの効いた形状でグリップ位置をライダー側に寄せたハンドルを採用。ウインドスクリーンは、1000では角度をワンタッチにて3段階調整できますが、650では4本のボルトによって上下3段階の調整を可能としています。
左側に指針式のアナログタイプタコメーター、右側に輝度調整機能付き大型液晶ディスプレイを配置するインストルメントパネルは、両車で共通イメージ。基本的な情報の他に、平均燃費や瞬間燃費、水温、温度、電圧、航続可能距離など表示内容は多岐にわたります。
両車とも12VのDCソケットを標準装備し、1000はメーター下、650は左に配置。筆者の場合、スマートフォンの充電などUSBを使う場合の方が多く、シガーソケットは変換アダプターが必要となります。
トラクションコントロールの介入度やメーター表示は、ハンドルバー左のスイッチで切り替えられます。説明を受けなくとも直感的な操作が可能。使いやすいスイッチボックスは共通かもしれません。
低回転域では独特の鼓動感を味わえ、ミドルレンジでは力強く立ち上がり、トップエンドまで伸びやかなフィーリングを味わえるDOHC4バルブ90度Vツインエンジン。1000、650ともにトラクションコントロールやシフトダウン時の急激なエンジンブレーキを和らげるスリッパークラッチを搭載します。
コシの効いた剛性感となめらかでスムーズな作動フィーリングを両立したリヤショック。路面追従性に優れるリンク式モノショックには、タンデム時や大きな荷物の積載時にスプリングプリロードを最適にする、工具不要の油圧式アジャスターを装備します。
後部座席も座面を広く確保し、タンデムでのロングライドも快適にこなせるシート。停車時に足を降ろす部分をスリムな形状としているのも、1000と650で共通です。サイドカバーをスリムにし、良好な足つき性を実現。積載力に優れるリヤキャリアを標準装備するのもありがたいとしか言いようがありません。
リアブレーキのディスク径は260mm。フロント110/80R19、リア150/70R17のタイヤサイズは1000と650で同じ。ブリヂストン製のトレールラジアルタイヤは銘柄が異なり、1000は「BATTLE WING BW-501/502」、650は「BATTLAX ADVENTURE A40」となります。
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