フルモデルチェンジを受けたBMWの新型「7シリーズ」と、先に上陸したメルセデス・ベンツの新型「Sクラス」の違いや特徴などを小川フミオが考えた!
7シリーズ登場の背景
フォルクスワーゲンの新しいカリフォルニアがカッコいい!──GQ新着カー
メルセデス・ベンツのSクラスと、BMWの7シリーズ、自分ならどっちを選ぶだろう……。
クルマ好きは常にその問いかけを空想のなかで楽しんでいるのでは? 最新モデルは、かなりキャラクターが異なる。ゆえに、あえて比べてみるのも、おもしろいかもしれない。
BMWが初代7シリーズを出したのは、1977年。5シリーズ(1972年)、3シリーズ(1975年)、6シリーズ(1976年)と、新世代のセダンのラインナップ刷新の流れで、設定された。その背景として、Sクラスという競合の存在は大きかったようだ。なぜなら、BMWが7シリーズを開発した背景に、北米市場で稼げる商品を手駒に増やすためだったからだ。
すでに、ドイツ製大型クーペという新しいマーケットによって、西海岸を中心に6シリーズの人気は上がっていた。
大型セダンは、さらに、キャデラックやリンカーンなどが占める高級セダン市場の一角に食い込めそうではないか。そこには、すでに、メルセデス・ベンツがSクラスを送りこんでいた。欧州の高級セダン市場でも同様だ。ただしこちらは、Sクラス一強。
初代7シリーズの特徴は、うんとスタイリッシュだった点だ。当時のSクラスは、いまの眼からしたら独特のゴツさが魅力的とも思えるが、1979年のモデルチェンジを控えて、けっこう古く見えた。このシリーズは、3シリーズや5シリーズを大型化しただけのスタイリングという批評もあったけれど、運転すると、ほんとうにすばらしいクルマだった。
よくまわるエンジンと、うんと太いトルク感と、カーブを曲がるのが得意なハンドリング。それにぜいたくな室内の作り。Sクラスは、当時のW116というモデルに、「6.3」や「6.9」という大排気量のV8エンジンを搭載したりしたが、7シリーズとは方向性が異なっており、ハンドリングよりも加速性能重視。
ラインナップ頂点に位置するセダンのコンセプトにおいて2社は、つまり、最初からあまり交わらないで、少なくとも平行線を走るように、ずっと進めてきたのである。これが私見。
新型7シリーズは、大胆なデザイン最新モデルでも、2社(2車)のありかたはちがう。現行のSクラスの登場が2020年で、7シリーズは2022年。とくに、7シリーズがおもしろい。おもしろいというか、たとえば「740i」は、外観が目立つ。巨大なキドニーグリルで、一目であたらしい7シリーズとわかる。
BMWは、自社のセダンのデザインポリシーとして、プロポーション(ホイールベースとボディとオーバーハングの関係)が正しければ、ほかの部分では大胆な処理を採り入れる、という方向性を持ち続けているようだ。今回も同様で、プロファイル、つまり真横からみると、端正なセダンだ。驚くのはドアを開けて室内を覗いたとき。斬新というのか、従来どのメーカーも手がけてこなかったデザインが実現されているのだ。
デジタライゼーションをことさら強調し、いたるところにモニターがある。後席のドアアームレストにもモニターがあり、それでシートなどを調整出来る。オプションでは31.3インチのインフォテイン メントシステム用スクリーンが選べる。天井から後席乗員に向けて展開する。かなり驚く。
天井を見上げると、峻険なヨーロッパアルプスを逆さまにして貼り付けたような立体的な造型の内張で、これにも驚く。乗り心地がすばらしくよいので、走り出すと、最初の違和感もすぐに薄れ、これはあたらしいセダンのありかたなのだと、納得してしまう。
控えめなSクラスSクラスは、デジタライゼーションの分野では先駆的で、大型モニターや、ふかふかしたクッションの大型シートなど、快適性は充実している。インテリアデザインの背景にあるコンセプトとして「ラグジュアリーカーにおけるハイテクの表現」と、Sクラスの内装デザインを統括したハートムート・ジンクビッツ氏はウェブサイトで語っている。
ドライバーが自分の好みで証明や音楽などを容易に調節できる範囲を拡大している点を、デジタライゼーションによるパーソナル化ととらえているのがSクラスだ。実際には、7シリーズが登場してみると、Sクラスのデザインはむしろ控えめで、こちらを好むユーザーもいるだろうし、内装においても、個性がはっきり分かれた。
現行のSクラスの登場が2020年で、7シリーズは2022年。2年の時間差が、デジタライゼーションを中心としたデザインの違いにあらわれたのかもしれない。
もちろん、走らせればどちらも大型高級セダンにふさわしい走りを堪能出来る。個性がはっきりと分かれた今、どちらを選ぶかはユーザーの好み次第だろう。もっとも、どちらを選んでもいいクルマを購入したなぁ、と、満足出来るはずだ。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)
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壊れにくいとか静かだとかじゃない
数字に現れない走りの部分