クルマはデビューして何もせずそのままモデルサイクルを終えるということはない。どんなクルマも改良を受け変更される。クルマによってはモデル末期にはデビュー時とまったく別のクルマになったというほど熟成されるものもある。
今日本の自動車メーカーのクルマ作りが大きく変わってきている。かつてはニューモデルを乱発し、頻繁にフルモデルチェンジを敢行することでユーザーを惹きつけてきたが、モデルチェンジサイクルが長くなったことで異変が起きている。
【アイデアはよかったが消えていった】日本車 珍技術 珍装備の道程
フルモデルチェンジよりもマイナーチェンジが重要視されてきているのだ。
その現状と理由、メリットとデメリットについて考察していく。
写真:TOYOTA、NISSAN、HONDA、MITSUBISHI、MAZDA、SUBARU
【画像ギャラリー】2018~2019年にビッグマイチェンした主要モデル
量販車種のフルモデルチェンジサイクルが長期化
フルモデルチェンジサイクルを中心に考えた日本車のクルマ作りが大きく変わってきている。昨今いろいろ話題になっているとおり、日本車のフルモデルチェンジサイクルが長くなっている。
1980年代から1990年代にかけての日本車は、スポーツカーなど特殊なモデルを除き新型デビュー→デビュー後2年でマイナーチェンジ→デビューから4年後にフルモデルチェンジというサイクルがルーティン化していた。
4年に1度フルモデルチェンジをするというサイクルはトヨタが2代目マークIIで先鞭をつけ、ほかのメーカーも販売力強化のために追従した
それが今ではほぼ4~5年に1回フルモデルチェンジするのは軽自動車くらいのもので、ほとんどのクルマは短くて5年、6~8年作り続けられるのも珍しくなくなっている。
それも各メーカーの主力モデル、量販モデルのフルモデルチェンジサイクルが長くなっているという特徴がある。
これは日本市場を軽視していて、販売を諦めた結果なのかというと、それは違う。
ユーザーのクルマの買い方が激変!!
フルモデルチェンジのサイクルが長くなっている要因にはいろいろある。一番大きいのは、フルモデルチェンジにかかる巨額の投資を抑えることができるというコスト削減にある。クルマは長く売れば減価償却しやすくなる。
無視できないのがクルマを取り巻く環境、特にユーザーのクルマの買い方が変わった。
2010年にデビューしたヴィッツは2019年中に新型に切り替わるが、2度のビッグマイチェンにより合計3タイプの顔を持つ。しかもハイブリッド(左下)まで追加
4年に1回フルモデルチェンジを行っていた時の買い替え時期はそれに合わせて4年に1回、早い人はマイチェンのたびに買い替えるということもあった。新車が出れば、クルマを買い替えるというのが当たり前のように行われていた。
しかし現在はプリウスなど一部のクルマを除いて、「新型が出たから買おう」と飛びつくユーザーが激減している。確実に新車効果が薄れてきていることを意味している。メーカーにとっては頭の痛い問題だ。
それに対してコンパクトカーをはじめとする実用的なクルマは、発売からモデル末期までコンスタントな販売台数が見込め、実際に売れている。だから、メーカーとしても急いでフルモデルチェンジする必要性がなくなっている。
だから主力である量販車種のフルモデルチェンジサイクルが長くなっているのだ。
ノートはe-POWERの追加により劇的に販売台数を伸ばし、今や日産の最量販車種となっている。次期モデルは2020年の登場が噂されている
販売台数ランキング上位の常連のデビュー時期を見ても、間もなく新型が登場するヴィッツ(次期モデルはヤリス)は2010年、フィットは2013年、e-POWERの追加で販売を大きく伸ばしたノートは2012年、アクアは2011年と6~9年作り続けられているのがわかる。
しかし、何も手を入れなければビッグネームとはいえユーザーの購入意欲を掻き立てることはできない。
残念ながら日産のかつての最量販車のマーチは2010年にデビューして以来大きな変更もなく放置されたような状態。海外では新型に切り替わっているが日本は継続販売中
人気車もビッグマイチェンの時代
そこでクローズアップされるのがマイナーチェンジだ。モデルチェンジサイクルが長くなっても魅力を保つために、以前にも増してマイナーチェンジの重要性が上がっている。
今も昔もマイチェンはクルマをリフレッシュさせる重要な『儀式』であることには変わりないが、最近ではビッグマイチェンと呼ばれる大幅変更も頻発している。
デザインがガラリと変わるだけでなく、ハイブリッドの追加、新エンジンの搭載&追加、派生モデルの登場といったことも当たり前になってきている。
2006年にデビューした現行エスティマは、延命のために3回のマイチェンを敢行。最後のマイチェンは2016年でこの顔がエスティマの最後となる
かつてエクステリアデザインなどを大幅に変更するビッグマイナーチェンジというのは、デビュー時に失敗したクルマのテコ入れとして、イメージ刷新を狙ったケースが多かったが、現在は安定した人気をもつモデルにも展開されている。
最近では三菱がデリカD:5、RVRのマイナーチェンジでダイナミックシールドを採用し、新型車かと思えるような激変ぶりを見せているし、人気ミニバンの日産セレナもお色直しというには大胆なフロントマスクに変更された。
昔は売れているクルマのデザインは変えない、が定説だったのとは決定的に違う。
2007年にデビューしたデリカD:5はデビュー12年目でのビッグマイチェンで生まれ変わった。昔ならフルモデルチェンジを選択するケースもマイチェンを選ぶ傾向あり
マツダ、スバルのクルマ作りに近づいた!?
4年に1回のモデルチェンジの先鞭を切ったのはトヨタで、日産を筆頭にそのほかのメーカーが追従するかたちとなったわけだが、古くからマイチェンを重視しているメーカーと言えばマツダとスバルの両メーカーだ。
マツダはかつての量販車種ファミリアなどは4年に1回というサイクルをとりながらも、RX-7などのスポーツカーについては数度のマイチェンや追加モデルにより長いサイクルで作ってきた。
先代のデミオは7年かけて熟成。現行のデミオは2019年7月のマイチェンにより大幅に刷新されると同時にマツダ2に車名変更。あと3年は生産されるはず
現在はマイチェンに限らずクルマを改良することに注力し、年次改良というかたちで毎年何らかの改良を施している。一時日本車もイヤーモデル制を導入しようとしたが、イマイチ定着していなかったがマツダは徹底している。
スバルはほかのメーカーが頻繁にモデルチェンジを繰り返していた頃も、モデルチェンジサイクルが長い傾向にあり、1台のクルマを長いスパンでシックリと熟成するというイメージが定着している。
マツダ、スバルに共通するのは、車種ラインナップ数が少ないこと。ラインナップを増やしたくても増やせない事情はあるが、そのぶん開発原資を注力しマイチェンをはじめとする改良に力を入れてクルマを進化させ商品価値を高めている。
元々のアプローチは違うが、日本の自動車メーカーのクルマ作りが、軽自動車を除き、マツダ、スバルが実践してきたマイチェンでクルマを熟成させるというクルマ作りに近づいているといっても過言ではない。
初代インプレッサは1992年にデビューして8年間かけて熟成されデビュー時と全く違うクルマに進化。スバルはクルマを熟成させるのを得意としている
変わったのは日本メーカーだけではない
実はこのマイナーチェンジを重視したクルマ作りは日本メーカーだけでなく、21世紀になってからのメルセデスベンツが得意とするところでもある。
メルセデスベンツはかつてから考えられないほどの膨大なラインナップを誇っているが、昔からの主力であるCクラス、Eクラスについては、マイナーチェンジでモデルチェンジに近いレベルの改良を施している。
デザインだけでなく、機能パーツなども数千点に及ぶ改良を施すことで、マイチェン前とマイチェン後ではまったく違うクルマとなっている。しかもメルセデスの場合、次期モデルに搭載する予定のエンジンをマイチェンモデルに搭載することも珍しくない。
この傾向はBMW、アウディも同じで、ビッグマイチェンは世界的なトレンドにもなっている。
フルモデルチェンジに匹敵する6500カ所もの改良をマイチェンで施したベンツCクラス。ハイブリッドも変更し、まったく別グルマになっている
★ ★ ★
マイチェンや改良を重視したクルマ作りは、クルマが頻繁に刷新される、熟成が進むという点はユーザーにとってメリットであると言える。1980年代と違ってすぐに旧型とならないのもメリットだ。
いっぽう、すでに購入している既存のユーザーにとっては、同じクルマなのに方や刷新されるというつらい現実もある。クルマがパソコンなどと同じようになっただけ、という意見もあるが、割り切るにはクルマは高すぎる。
さらに頻繁に改良しているとユーザーはいつ買っていいのかわからなくなるのはデメリットだろう。
ユーザーのクルマの買い方が変わったと述べたが、「すぐ改良モデルが登場するだろう」、ユーザーの買い控えに拍車をかけることにもなっているように、新車効果が短くなっている、のもメーカー自身にも責任の一端はある。
フルモデルチェンジサイクルの長期化は、メリットもデメリットもあるが、ユーザーのメリットよりもメーカーのメリットのほうが大きいように思う。
だからメーカーが自らの首を絞めることにもなりかねない危険性もある。
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