4月に行われた上海モーターショー2021において、トヨタは「クラウン」と冠したふたつのモデルを発表した。ひとつは、同社が海外で展開している3列シートのSUV「ハイランダー」にクラウンを冠した「クラウンクルーガー」、そしてもうひとつが日本でも販売されている高級ミニバン「ヴェルファイア」にクラウンを冠した「クラウンヴェルファイア」だ。
中国市場には、すでにヴェルファイアの兄弟車「アルファード」は販売されている。日本ではアルファードとモデル統合のウワサもあるヴェルファイアが今回、まさかのクラウンを冠しての中国デビューとなったわけだ。クラウンクルーガー、クラウンクヴェルファイアともに、「クラウン」と冠することで「最上級の証」としているようだ。
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「クラウン」といえば、昨秋、「セダンは現行型で終了し、2022年にSUVとして投入される」という衝撃的なニュースが報じられた。トヨタは今後、「クラウン」を「最上級グレード」という意味に使っていくつもりなのだろうか。
文:吉川賢一
写真:TOYOTA、ベストカー編集部、一汽トヨタ
【画像ギャラリー】いま岐路にたつ日本の名門セダン「クラウン」の歴代モデルを振り返る
「クラウンヴェルファイア」は間違いなく売れる
なぜ「クラウンヴェルファイア」を出したのか、については、「絶対に売れる」からに他ならない。現在、中国市場では、上級ミニバンとしてトヨタバッヂを付けたアルファード(広汽トヨタ)が、レクサスからも最高級ミニバン「LM」が販売されている。今回のクラウンヴェルファイア(一汽トヨタ)には、見覚えのあるクラウンエンブレムが備わる。
見覚えのあるクラウンエンブレムが備わるクラウンヴェルファイア(一汽トヨタ)
中国には、面子(メンツ)を重んじる、という価値観がある。もちろん日本でもそのような傾向はあるが、中国のそれは、人々の行動に大きな影響を及ぼすほど、大切なものだ。そのため、クルマ選びでは「よりいいクルマで、家族や親族といったお客様をもてなす」ことが、最重要視される。
本革シートでサンルーフ付き(後席からの見晴らしの良さと、タバコを車内で吸うため換気のためには必須装備)、かつロングホイールベースにしたセダンが多く走っているのは、その面子が理由なのだ。
アルファードと兄弟車であるヴェルファイアに「最上級」を意味する「クラウン」を冠するクルマが登場するわけだ。間違いなく売れる
こちらは日本のヴェルファイア。日本での販売はアルファードにおされて低迷中だ
過去にクラウン(セダン)が一汽トヨタより販売されていたこともあり、中国国内でも「クラウン」は、「トヨタの最高級ブランド」として認知されている。そして、中国国内では、いまアルファードが爆売れしている。どうやら中国でも、セダンからミニバンへと需要が移り変わってきているようだ。
そのアルファードと兄弟車であるヴェルファイアに「最上級」を意味する「クラウン」を冠するクルマが登場するわけだ。間違いなく売れる。見逃す手はないだろう。
リアとステアリングのエンブレムはトヨタ。それ以外はクラウンで統一されている
トヨタは猛反対したのでは!?
いま世界で販売されている自動車の台数はおよそ年間9000万台だ(※コロナ禍以前の2019年参照)。そのうち中国市場では、4分の1を超える年間2500万台が販売されており、まさに「世界一の自動車市場」なのだ。
ちなみにアメリカは1700万台、EUは1700万台(ドイツ400万台、フランス270万台、イギリス260万台など)、日本は500万台、インドは400万台ほど。中国市場のデカさが、お分かりになるだろう。
ナビの起動画面も「クラウン」。王冠マークの威厳が漂う
ご存じの方は多いと思うが、中国では、「発展途上の中国国内の自動車メーカーを守るため」という目的で、外資系メーカーの進出に規制が設けられている。具体的には、中国で自動車を現地生産する場合、海外企業の単独出資による現地法人設立が認められていない。中国の現地自動車メーカーと必ず提携し、合弁生産会社を設立する必要があるのだ。
また、その外資系メーカーの出資比率は過半数を超えてはいけない。何を言っているかというと、中国国内でクルマを製造して販売する際の判断は、多く出資をしている中国側企業に決定権があるということだ。いくら、天下のトヨタであっても、提携先の中国自動車メーカー側の意見に従わざるを得ないのだ。
中国市場では「家族や親族といったお客様を後席にのせて、おもてなしができる」クルマであることが、最重要視される
筆者の勝手な憶測だが、トヨタは、中国市場における「クラウン」ブランド展開には、猛反対したんじゃないだろうか。ハイランダーやヴェルファイアは、いいクルマに違いないが、その2台に「クラウン」バッヂを付けて売るのは、「クラウンブランド」の切り売りにも思え、日本のクラウンファンが喜ぶはずがない。
長い年月をかけて、顧客との強い信頼関係を築き上げ、「クラウン」というブランドの深みと重みを理解しているトヨタおよびトヨタ自販にとっては、このような戦略は、「暴挙」ともいえる。
だが、世界最大の中国市場で、今後も多くのクルマを売っていきたいトヨタとしては、仕方なく「中国市場特有のルール」として中国サイドの意見を受け入れたのではないか、と考える。というか、そうであってほしい。
日本のクラウンはそのようなことは決してない
この2台が、このまま日本の新型クラウンになるのか!? については、言うまでもなく、筆者は「NO」だと考えている。歴代クラウンのオーナーにとって、クラウンはあのセダンタイプであるからこそ「クラウン」なのだ。そんな顧客の信頼を裏切るような売り方は、トヨタ自販も許さないだろう。
もし次期型クラウンがあるならば、無理に若返りなどせずに、「高齢者対応のドメスティック特化型セダン」の道を選ぶ方が良い、と筆者は考えている。ボディサイズの見直しや先進安全装備をすべて備えた、「絶対にぶつからない究極の安全」を、強く打ち出すのはどうだろうか。「小さなセンチュリー」のような立ち位置でもよいと思う。
日本のクラウンは、「絶対にぶつからない究極の安全」を強く打ち出すのはどうだろうか
これからも、クラウンを見守ってきた顧客へ真正面から向きあって、クラウンに絶大な信頼を寄せている「信頼感」を、最後まで守りぬく。「人生最後に選んだクルマがクラウンで良かった」と思ってもらえたならば、それがブランドとしてのゴールなのだと思う。
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