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メルセデス・ベンツ AMG GT R 試乗レポート アクセルを踏み込むのを躊躇するほどの速さ   レポート:佐藤久実/Kumi Sato

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メルセデス・ベンツ AMG GT R 試乗レポート アクセルを踏み込むのを躊躇するほどの速さ   レポート:佐藤久実/Kumi Sato

メルセデスAMGのGTファミリーのトップレンジとなる「AMG GT R」が登場した。その開発ステージは「グリーン・ヘル」(緑の地獄)と呼ばれるニュルブルクリンク・ノルドシュライフェ(旧コース)の緑の森に囲まれた、タフなコースだ。

もっとも、この地で開発される市販モデルは珍しくなく、ましてやドイツメーカーなら当然のように走らせている。が、AMG GT Rは、ここで「速く走る」クルマを開発したのだ。そのラップタイムは、7分10秒9。驚くべき速さだ。(編集部注:例えばトヨタ86では8分43秒、アウディR8 GTで7分30秒ていどだ)

インプレッションの前に、基本的なパッケーシングをご紹介しておくと、エンジンはフロント・ミッドシップに搭載され、トランスミッションをリヤに搭載するトランスアクスル方式をとる。V8 型4.0Lツインターボ・エンジンは585ps/700Nmというとてつもないパワーを発揮する。パワースペックだけ見ると、サーキットでコントロール下に収まるのだろうかとちょっと弱気になるほどだった。

■サーキット試乗インプレッション
AMG GT Rの国際試乗会は、ポルトガルのアルガルベ・サーキットで開催された。「グリーン・ヘル」をイメージしてだろうか。AMG GT Rのメインカラーはグリーンで、試乗会場やスタッフウェア、そしてディナーに至るまで、グリーンがイメージカラーとして使われていた。

アルガルベ・サーキットは、アップダウンに富み、ブラインドコーナーも多い。テストドライブは先導車付きだが、このペースがあり得ないほど速い! DTMをはじめ数々のレースで活躍したベルント・シュナイダー氏がステアリングを握っていたのだ。

1周のウォームアップ走行の後、即フルアタックとなった。最初はあまりの速さにクルマを評価する余裕などなかったほどだ。ストレートスピードだけならそれほど驚かない。が、ブレーキング~コーナリングに至るまで、かつてナンバー付き車両で経験したことのないほどの高Gがカラダに襲いかかるのだ。さながら、レーシングカーのようなフィーリングであった。

そして、そのフィーリングに大きく貢献しているのが軽量化だ。フェンダーやルーフなど外板パーツからシャフトに至るまで、贅沢なまでにカーボンが使われ、アルミも多用される。その結果、車両重量は1550kg、パワーウェイトレシオは2.66kg/psとなっている。

まったく重さを感じさせない俊敏な身のこなしに感心しながら、必死に先導車に付いていこうとするが、高速コーナーで離される。視覚的にビビってアクセルを踏む右足がちょっと戻ってしまうのだが、どう見ても前のクルマは全開のままだ。コースに慣れた数周後、アクセルを踏み切ったままコーナリングを試みたところ、何も起こらず、極めて安定したままクリアした。踏めば踏むほど安定する・・・ダウンフォースが効いているのだ。

軽量化と同等に、このAMG GT Rの開発で力を入れたのが空力だった。エンジニアとデザイナーの共同作業により、すべてのパーツが役割を持っているという。たとえば、フロントバンパー下のエアパネルは、アクティブに開閉する。通常は閉じており、それによってベンチュリー効果を発揮し、フロントの揚力を抑える。冷却が必要な時には1秒以内で開閉する。そして、リヤエンドのディフューザーはアンダーボディを整流する。さらに、必要とあればリヤウィングの角度も調整可能だ。

高速コーナーでの安定性が高い一方、タイトコーナーでもシャープなハンドリングを見せる。アクティブステアリングの効果も大きいのだろう。ターンインこそ気持ち良いが、その後のリヤの動きが気になり躊躇しながら操作していたが、実はこれ、リヤ操舵に因るものだった。明らかに独特なフィーリングはあるが、それさえわかればタイトターンでも素早くコーナリングすることができた。

タイトコーナーから高速コーナーまで、旋回性能と安定性、そして加速性能とストッピングパワーが実に高い次元でバランスされている。これほどハイパワーかつハイスピードのクルマをサーキットの限界域でも安心して走らせられるのは、ひとえに「予測性」があるからだ。操作に対してリニアに応えるのはもちろん、そもそも、その操作に必要なクルマからのインフォメーションがわかりやすい。

■レースカーのノウハウをフィードバック
ところで、現在、GT3カテゴリーによるレースがワールドワイドに展開され、AMG GT3も活躍している。GT3マシンは、メーカーが作るレーシングカーを吊るしで買える、「カスタマースポーツレーシングカー」であるのが特徴。そして、AMG GT Rには、このGT3のレーステクノロジーも数多くフィードバックされている。

空力などもそうだが、市販車としては珍しく、AMG GT Rがサーキットメインのロードカーである証とも言えるのが、トラクションコントロール。ESPを解除すると、トラクションコントロール・ダイヤルによって9段階コントロールできるのだ。

一般的には、安全性を鑑み、トラクションコントロールは滑りやすい路面で上級者が走りやすくするために解除できるが、横滑り防止装置は基本解除できないようになっている。が、速さを追求するレースシーンでは、スライドはドライバーのスキルでコントロールできるが、トラクションがかからないとラップタイムに大きく影響する。タイヤが摩耗してきてトラクション性能が落ちるとか、雨で路面のμ(ミュー)が下がるなど。そんな機能がそのまま装備されるのも、サーキット走行前提だと嬉しい。

さて、サーキットでのパフォーマンスの高さは十分に確認できた。とはいえロードカーなので一般道での快適性も気になる。そこで、サーキット周辺の一般道を走ってみた。無駄な贅肉をすべて削ぎ落としたボディは、そのトレードオフとして、路面からのノイズはかなり室内に拾う。同乗者との会話を妨げるレベルではないが、静かとは言い難い。

また、乗り心地も、お尻に刺さるような不快感はないものの、路面の段差や継ぎ目でポンと一瞬跳ね上がるような入力がある。(跳ね上がるのは人だけでクルマの接地は抜けないが)

一般道の快適性は、許容範囲ギリギリといった印象。もっとも、価値観によって判断が大きく異なるだろう。つまり、ナンバー付き車両でありながら、サーキットにおいてこれほどまでに高いパフォーマンスを楽しめるのなら、その往復の快適性としては、十分納得できる。あるいは、常にレーシングな気分を味わいたい人にとっても。

が、一般道のみで乗る人には、積極的にはオススメしない。何故なら、もっと快適なクルマの選択肢がたくさんあるから。

カーボンを多用し、速さを追求した数々の装備を備えるAMG GT R。価格もかなり高いと読んでいたが、すでにドイツで発表されている価格を聞くと、AMG GT Sにプラス3万5000ユーロ(約430万円)、およそ2300万円とのこと。パフォーマンスを考えれば、バーゲンプライスだろう。


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