クルマの買い方が多様化している。現金一括、ローン、残価設定ローン、リース…。さらにはカーシェアリングなども一般化してきた。
トヨタは、定額でクルマに乗れる愛車サブスクリプション「KINTO(キント)」を2019年2月から東京でトライアル開始。7月から本格的にサービスを開始している。とはいえ、契約者は11月までで951件。あのトヨタが始めたサービスなのに、まだまだ道半ばといったという感じ。それが正直な印象だ。
いろいろと疑問が湧くのも仕方がない。これまで経験してきたクルマの買い方とはまったく違うのだから。そしてクルマ好きには、なかなか受け入れがたいクルマの持ち方。
もっとも手軽な「キントワン」は3年契約で、毎月一定額を支払っていく。例えば、
・パッソ:3万2780円~
・ライズ:3万8920円~
・カローラツーリング:4万7850円~
・ランドクルーザー:8万8000円~
以上の金額に含まれるのは、
・車両代金
・オプション代金
・登録諸費用(車庫証明、法定費用、検査登録費、リサイクル費用など)
・自動車税環境性能割
・契約期間中の各種税金(自動車税、重量税)
・自賠責保険料
・任意保険料
・メンテナンス費用
つまり、普通にクルマを購入して、維持していくのに必要なほとんどの費用が含まれる。含まれていないのは、燃料代や高速道路代くらいか…。
税金や保険、メンテ代などを個別に支払うことなく、コミコミ一括カード払いという「手間がかからない」のもキントの大きな魅力のひとつだ。
また、WEBで申し込みできるのも新しい。
そんな気軽さから、WEBで申し込む人のほうが多いという(WEB以外で申し込む場合は、ディーラーに足を運ぶ必要がある)。
そんなKINTOが、2020年1月からさらに幅広い層に向けて取り扱い車種を増加。
人気のコンパクト「ライズ」や「ヤリス」、お求めやすい「パッソ」、そしてレクサス車もキントワンにラインアップする。
さて、キントにはどんな特徴があるのか? そして、どんな人ならメリットを享受できるのか? 株式会社キントのマーケティング担当、藁谷(わらや)直樹さんにお話をうかがった。
※ ※ ※ ※ ※
Q:なぜトヨタがサブスクリプションをはじめたのですか?
A:構想が始まったのは2018年の初頭からですね。そこから1年で会社を立ち上げました。トヨタは2018年1月のCES(アメリカの超ビッグな家電見本市)で「モビリティカンパニーを目指す」と公言し、大きい方向性を示しました。その具体的な答えのひとつがキントです。当初はまだ「フルサービスリース」でしたが。クルマ自体は進化しましたが、買い方は変わっていない。相変わらず、家の次に高い買い物というのが一般のみなさんの印象。クルマに親しんでもらえる人を増やしていこう、というのが狙いのひとつです。
また、若者のクルマ離れなども問題になっていました。もっと気軽にクルマを買って、買い替えてほしい、もっと簡単にクルマを利用してほしい。そんな思いから始まったのがキントです。
Q:ターゲットはどんな層ですか?
A:どれくらい反応があるかはわかりませんでしたが、ターゲットとしたのは3つの層。若い方、シニアの方、そして子育て世帯。
若い人は、お金があまりありませんよね。頭金を用意するのも難しい。キントは頭金が要りません。あと、任意保険の等級が低く、年齢制限もあるので保険が高い。キントは団体保険で提供できるので、免許がゴールドでも若い人でも同じ金額で提供できます。4万円、4万円が高く感じるかもしれませんが、しっかり比較すれば、「じつは安い」んです。
シニアは、3年契約でいつでもやめられるのがメリットになりそうです。いまさら新車を買うと言っても、何年乗れるかわからない。途中で免許返納するかもしれない。キントはその時点で、解約金なしでやめられます(2カ月分の金額支払いは必要)。最新の予防安全機能を搭載した安心安全な新車に乗っていただきたい。ご本人がクルマを買いたくても、家族から反対されることもある。さまざまなシーンで、キントはシニアにもぴったりです。
子育て世代、ライフステージ世代は、子供の成長などによって、必要なクルマが変わってくる。2人ならコンパクトカーでもいいが、家族が増えればミニバンが欲しくなる。子供が独立すれば、また違うタイプのクルマが欲しくなる。必要なクルマを絞れない人にも、キントはメリットがあると思います。また、仕事や子育てに忙しい世代でもあるので、税金も保険もメンテ費用もすべてが含まれるキントの支払い方法は手軽だし、家計の見通しが立てやすいんです。
ほかにも、子供がクルマに乗るようになったとき、新車のほうが安全機能が付いていて安心。でも保険は高い。そして、たぶんぶつけるだろう、と思う親は多い。だったらキントにしちゃおう、というケースもあります。
また、仕事で急にクルマが必要になることもありますよね。必要に迫られて免許を取る。まだ等級は低くて保険は高い。そこでキントにする人もいます。今、クルマを購入されている方のなかにも、キントがフィットする人が何割かはいるはずなんです。
Q:お得なのは、若い人たちだけ? ほかの世代にとっては割高?
A:確かに若い人にはお得感があります。等級が上がって保険料が安くなれば、価格面でのクロスポイントはあります。ではキントが高いのかというと、そうではない。残価ローン、現金購入で3年後に売却であれば、とんとんくらい。もちろん、何年乗るのか、車両保険を付けるのかなど、条件はいろいろありますから、一概には言えませんが。
キントのメリットは、コスト面だけではなく、手間の部分も大きい。毎年の税金の支払い、任意保険の見直しなども、気にせずに済む。手間がかからない。価格下落リスクを考えなくていいんです。お金じゃないお得感で選んでもらっているケースも多いですよ。
Q:リースと似ているが、最大の違いは?
キントとリースは確かに似ています。リースの種類にもよりますが、キントには任意保険が含まれているのが、まず大きな違いです。あと、一般的にリースは途中解約の概念がない。7年とか9年とか、安く乗るには長く乗らなければならない。やめる時点で、残リース分の交渉が必要。キントはやめやすいという特徴もあります。
キントは6カ月ごとの更新で、6カ月ごとなら残リース料はない。ただし途中解約金が2カ月分かかります。もう要らない、乗り換えたくなったという場合のリスクが軽くなっています。より多くの人に、気軽にクルマに乗ってほしいので、こういう設定にしてあります。
Q:残価設定と、どっちが安い?
A:大きな違いは諸経費がすべて含まれているということ。残価設定は、基本的には税金も保険も、すべて自分でやらなければならない。手間がかかる。忙しい世代には大変ですが、キントはワンストップサービスなので、キントへの支払い以外は不要です。それもカード払いだから、基本的に手間がかからない。総合的な金銭的メリットは、若い世代以外は、大きく変わらないかもしれません。
Q:クルマとお金の流れはどうなっている?
A:私たち(キント)は、まずお客様が選んだディーラーからクルマを購入させていただきます。まずそこでディーラーの利益が確定します。定期メンテナンスの費用もキントからディーラーにお支払いします。ディーラーのデメリットとしては、例えば保険はキントに含まれるので、ディーラーさんが保険を売る機会はなくなってしまいますね。
Q:一括支払いのメリットは?
A:キントはクレジットカードでのお支払いになります。税金もメンテナンス費用も保険もすべて含まれているので、お金の計算がシンプルだし、手間もかかりません。保険を見直したりする必要もない。税金をコンビニに支払いに行く必要もない。3年までなので、車検のコストを考えることもない。とにかく気軽に手間なくクルマを利用いただけるのです。
あと、カード払いなので、カード会社によってはポイントがたまります。
3年間、毎月4~8万円程度の支払いですから、けっこうなポイントがたまるんです。奥様やポイントを溜めるのが好きな人には、これが意外と好評なんです。
Q:愛車サブスクリプション。自分の所有じゃないのに「愛車」って…?
A:キントで利用していただいているクルマでも、自分の愛車として大切に乗ってもらいたいと思っています。それが安全にも繋がりますし。そこで、「愛車ポイント」というものを用意しました。クルマにはDCM(通信機)が付いていて、エコドライブ、セーフティドライブをすればポイントが付きます。また、定期メンテナンス、入庫をしていただいても、ポイントがたまる。
たまったポイントは、いわゆるカタログギフトのようなもの、例えば牛肉などの品物や、温泉旅行などの体験と交換できる。1年間、運転を気をつけて、きちんと入庫していただくと、1万2000~3000円くらいのポイントが貯まることもあります。全車種ではなく、愛車ポイントはTコネクトが必須になっています。
Q:キントの保険、事故が増えるとキントの負担は増えてしまうのでは?
A:事故やクルマが破損した場合、キントに含まれる任意保険で対応します。保険を使う際は、免責が上限5万円。これは利用者様にお支払いいただきます。
まだ始まったばかりなので、傾向はわかりませんが、事故が多くなれば、キントが支払う保険料は高くなります。でも、キントだからといって、事故が多くなるとは思っていません。愛車ポイントということで、セーフティドライブを推奨していますし、また、最新のクルマなので、自動ブレーキや踏み間違い防止機能など、先進安全機能も付いています。最新のものを提供できるキントは、事故予防に少しは貢献できるはずです。
また、これまでトヨタは事故の状況を詳しく知る機会はあまりありませんでした。今後、事例が溜まれば事故情報を開発にフィードバックできるという面もあります。これはなかなか今まではできなかったことですね。
Q:全損になった場合はどうなる?
A:全損になった場合、お客様には免責の5万円をお支払いいただき、そこで一旦契約終了。その後もキントをご利用いただける場合は、あらためて新規契約いただくことになります。
Q:飛び石の場合は?
A:基本は販売店に行って、相談ということになります。
Q:現状復旧とはどんなもの?
A:キズやへこみなどは保険を使って直していただきます。免責5万円。ペット、たばこ、つまりニオイですね。ルールではお断りさせていただいております。価値が下がってしまった場合は、査定基準に基づいて、その分をご負担いただくことになります。
Q:改造はどこまでOK? ヘッドライトが切れたら?
A:改造はほぼすべてお断りしています。壊れた場合は販売店で純正部品で修理いただくのが基本です。途中でヘッドライトが切れた場合も、残ったパーツを残しておいて、ディーラーに持っていってほしいです。
インチアップしたい場合も、3年後にご返却いただく際に、純正のホイール/タイヤを残しておいていただいて、返却するときに持ってきてください。まだキントは始まって間もないため、故障などのケースがあまりありません。今後、最適な対応をできるように検討を重ねていきます。
Q:スタッドレスにするには?
A:オプションメニューの寒冷地仕様にはセットで付いています。もしオプションを付けていない人がスタッドレスにしたい場合は、純正のホイール/タイヤを残しておいてください。基本的には、ディーラーに相談してください。
タイヤが摩耗した場合の交換料は別途となります。3年5万4000kmまで走って、交換するほど摩耗するかどうか、まだそこまでのケースがないのですが、まず普通の使われ方でしたら、タイヤは持つのではないかと思っています。
Q:キントは3年5万4000kmのリミットがあり、月で割ると1500km。ビジネスユースや長距離通勤の人だと引っかかってくる人も。長距離を乗りたい人はどうすればいいですか?
A:キントは制限走行距離を超えると、1kmで10円の超過金がかかります。使われ方によっては、キントのシステムにフィットしない人もいます。ただ、残価設定もリースも距離制限があるものもあります。その場合は、ご購入していただくほうがいいかもしれません。
これからいろいろな声が出てくると思います。例えばペットもそうだし、期間も3年ではなくて5年とか。それらの声にしっかり対応していくのがキントの基本姿勢です。それらのニーズによって、プランや商品性をつねにアップデートさせていくつもりです。
Q:法人契約プランを用意されるということですが、制限距離は長くなる?
A:法人契約については、距離の問題よりも、システム的に法人契約ができなかったんです。それを2020年1月15日からできるようにしました。キントはお金の処理が簡単です。税金や保険をバラバラに計上する必要がなくなる。保険も誰にでも使えるので、会社の社員やスタッフをみんなカバーできる。手間がかからず、非常にありがたいという声もあります。
Q:WEBで契約ということですが、どいいう流れ?
A:納車までの手続きは、WEBと郵送、お電話で進めます。まずはWEB上でお乗りいただくクルマの種類やカラー、オプションなどを選択していただきます。
そして納車や入庫いただくお近くの販売店を選択。利用規約への同意や個人情報などの必要事項を記入いただき、お支払いの与信審査に進んでいただきます。
後日、審査が通れば、クレジットカードをご登録。
指定販売店から必要な書類を郵送いたします。
その後、販売店と納車日などの日程調整をしていただき、納車となります。もちろん販売店でも申し込みいただけますが、タッチパットなどを使ってWEB申し込みと同じような手順になりますね。
クルマをWEBで売るということをやったことはありませんでしたし、不安もありましたが、若い方はもちろん、ミドルの方も簡単にできると好評です。時間帯としては、夕方以降の時間帯に申し込まれる方が多いですね。
Q:中古盤は? キントのリースアップしたクルマ?
A:いろいろなケースがあると思います。キント3年利用して返ってきたクルマだったり、別に仕入れたクルマだったり。まだ、トライアルするという段階で、決定事項はあまりありません。大切なのは、さらに若い層にクルマに乗っていただくとなると、中古という選択肢が必要になってくる、ということです。
Q:4万円、5万円、若い方の給料で支払えるかどうか? 「クルマにそんなに出せない!」と思われるのでは?
A:確かにそうなんです。
現在放映しているCMも、「高けえな!」と思わせて、じつはちゃんと調べると意外と安い…という内容なんですが、なかなか伝わりにくいですよね。
クルマを自分で持つ、ローンを組むというのは、何かしらのリスクを抱えることになる。キントの場合は、持たなくていい。やめたいときにやめられる。ある期間、使用権、利用権を持っていただくという提案なんです。クルマを買うのは重たいモノではなく、覚悟も要らない。もっと気軽にエントリー、ということなんです。
ただ、確かに4万円、5万円、高いです。だから、中古のキントなどで、さらに入り口を広げていきます。
Q:最後に。キントはグローバル展開されますが、キントという言葉、海外でのイメージは?
A:グローバル会議というものがあります。もちろん、海外のスタッフと意見交換をするのですが、ネガティブなイメージはないようです。
キント雲という言葉の説明もしました。また、豊田英二さんの「究極のクルマはキント雲である」という言葉があった。そんなつながりもあるんです。
〈まとめ=driver編集部・太田〉
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みんなのコメント
いや、維持費で最も高い「車庫(保管場所)代」が入っていない。
任意保険料も、「若い人にとっては割安」かもしれないけど、ノンフリート等級がどうなるか書かれていない。KINTOの契約を無事故で過ごした人が自分で任意保険を契約した場合、それまでの無事故を認められて等級が上がるか書かれていない。
「生涯KINTOに縛るための仕掛けが有る」としか思えない。