EV(電気自動車)への本格シフトが現実味を帯びてきたことから、全国にあるガソリンスタンド(GS)の行く末に注目が集まっている。ガソリンの販売量が減少すれば、現在の販売網を維持できなくなるのは確実であり、EV時代には生き残りの新しい戦略が求められる。
文/加谷珪一 写真/Adobe Stock、NISSAN
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■EVシフトに伴ってガソリン需要の低迷は必至
2021年6月4日、アリアの特別限定車「limited」が発表された。日産初のクロスオーバーEVだけあってユーザーの関心は高そうだ
全世界的なEVシフトによって、世界のガソリン需要低迷が予想されている。国際エネルギー機関(IEA)が2021年3月に公表した石油市場展望では「ガソリンの世界需要は2019年の水準に戻ることはない」と指摘。ガソリン販売はピークを過ぎたとの見方を示した。
これまでもガソリン需要がピークを過ぎているとの指摘はいくつかの調査機関から出ていたが、もっとも著名な組織のひとつであるIEAから需要減少という予測が出た現実は重い。日本は先進諸外国と比較して脱炭素に関する情報に格差があり、今でも脱炭素は理想論であるとの意見も根強い。だが世界の市場は想像を超えるペースで脱炭素化が進んでおり、電動化はすでに現実の話である。
2021年5月26日には、2050年までに脱炭素社会の実現を目指す「改正地球温暖化対策推進法」が参議院本会議にて全会一致で可決、成立した。これまでの脱炭素はあくまでも政権のビジョンでしかなかったが、法律に明記されたことで正式に日本の国策となった。与野党問わず、すべての党派がこの法案に賛成したのは、脱炭素をめぐる国際情勢が厳しさを増しているからである。
■ここ10年で1万カ所近くのガソリンスタンドが閉鎖された
全国のガソリンスタンドは約3万9000カ所(2010年)から約3万カ所(2020年)に減少。自動車保有者の減少やハイブリッド車をはじめとする電動車の普及が打撃を与えている
もしこのペースで自動車のEV化が進めば、当然の結果としてガソリン需要は大幅に減少する。ピュアEVの場合にガソリンはまったく必要ないし、HV(ハイブリッド)が主流になったとしても、需要はざっと半分以下である。そうなるとGSの経営に大きな影響が及ぶのは必至だ。
実は脱炭素とは無関係に、国内のGSにはすでに大きな逆風が吹いている。それは、地方を中心とした過疎化と自動車保有世帯の減少である。
2010年時点で国内には約3万9000カ所のガソリンスタンドがあったが、2020年には約3万カ所まで減少した。過去10年は人口が減っているといってもほぼ横ばいだったが、2020年代からは人口の絶対数が急激に減り始める。地域の過疎化は想像以上のペースで進むだろう。
そもそも市場規模の縮小が確実視されていたところに脱炭素による需要減という要因が加わるので、よほど高収益を上げているGS以外は事業を継続するのが困難になる。GS数は今後10年で、一気に減少すると考えた方がよい。
■これまでのGSのビジネスモデルが通用しなくなる可能性も
マンションの駐車場やガレージへの充電器設置が促進されれば、ガソリンスタンドの存在感は徐々に薄くなっていく
GSはそれぞれ石油元売り各社のブランド名で事業を展開しているが、基本的にはコンビニと同様、フランチャイズ契約なので、実際にGSを経営しているのは個別の地域企業である。
自動車市場がEVにシフトするのなら、充電ステーションなどの機能を提供することで、EV時代に合った拠点に衣替えするという選択があり得る。だが、GSを充電ステーションに転換するだけではビジネスとしては成立しない可能性が高い。
ピュアEVの場合、自宅の駐車場でいつでも充電が可能なので、日常的な利用の範囲内であれば、そもそもGSのような場所に行って充電する必要性が薄い。EVに懐疑的な人は、「充電ステーションが各地に設置されなければEVは普及しない」と主張しているが、それは単なる想像に過ぎない。
自動車を保有している世帯の実に7割近くが戸建て住宅に住んでおり、集合住宅に住む自動車保有者は圧倒的に少数派だ。戸建て住宅に住む自動車保有者はガレージにコンセントを設置するだけでいつでも充電ができる。しかも個人が所有する自動車の稼働率は極めて低く、大半の利用者が週末に買い物に行くだけの利用にとどまっている。充電ステーションの有無がEV普及の妨げになるとすれば、集合住宅に住み、かつ毎日のように長距離運転する利用者の存在ということなるが、こうした利用者はごくわずかである。
さらに言えば、集合住宅に住み、かつ自動車を保有している世帯の8割以上は集合住宅の敷地内に駐車場があるので、政府がある程度の補助を行えば、あっという前に駐車場へのコンセント設置が進む可能性が高い。かつて日本政府は全国に水素ステーションを大量建設するという青写真を描いていたが、それと比較すればコンセントの設置補助などタダ同然だろう。賃貸住宅については、近年、空室が増加しており、物件保有者にとっては駐車場にコンセントを設置するインセンティブが働くはずだ。
一連のデータから冷静に分析すれば、充電設備の問題がEV普及を妨げる可能性は低く、逆に言えば、充電ステーションとしての機能だけではGSはビジネスを維持できない。
■石油業界の生き残り策とは?
ガソリンスタンドを展開する大手メーカーは小売業など別業態への転換が急務となる
では、これからGSはどのようにして生き残りを図るのだろうか。石油元売り大手の出光興産は、EV時代への対応策として、タジマモーターの関連会社であるタジマEVに出資し、超小型EVを販売する方針を打ち出している。
同社はEVを販売するだけでなく、車載ソーラーシステムや、カーシェア、バッテリーのリサイクルなど、既存のガソリンスタンドを使った幅広い事業展開を計画している。GSをEV社会のインフラに転用することで、傘下にあるGS網の維持を図る戦略だ。
こうしたプロジェクトを進める一方で、元売り各社は経営統合などを通じて事業の脱石油化を模索しており、ガソリンスタンドを通じた販売に依存しない体制に舵を切りつつある。各社の方針次第ではあるが、傘下のGSの業態転換を全面的に支援してくれる保証はない。
各地のGSは地域密着型企業であることが多く、小売店や介護ステーションなど異業種への転換を余儀なくされるところが増えてくるだろう。GSの多くは小売店を併設しているとも言えるので、(過当競争という問題は生じるが)小売業への転換自体はそれほど難しくない。
結局のところ企業規模の違いなど差はあるが、GSが置かれている状況は、自動車ディーラーが置かれている状況に近い。EV化が進んでもディーラーは必要だが、自動運転システムが普及し、所有から利用へと自動車のあり方が変化した場合、ディーラーにも抜本的な改革が求められる。 人口減少社会においてキーワードとなるのは、地域集約と高齢化対策なので、こうした分野を軸にした事業展開が必要なのはGSもディーラーも同じである。
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