1980年代から90年代にかけて、超ド級のレーシングカーが壮絶なバトルを繰り広げていた。最高出力1000ps、最高速400km/h、決められた燃料使用量でレースをいかに速く走り切るか、メーカーが知恵を絞ったことで様々なマシンが誕生したことでレースを面白くした。この短期集中連載では、そんなグループCカーの時代を振り返ってみよう。第1回は「ポルシェ956」だ。
エンジンはどんな形式でもOK、規制されたのは燃料使用量だけ
1982年から始まったグループC規定の最大の特徴は、レース距離に応じて燃料使用量が決められていたことだった。速くなければ勝てなかったが、速いだけでは勝てなかった。エンジン形式、気筒数、排気量、過給器に制限はなく、マシンのサイズも全長4800mm、全幅2000mm以内という自由なもので、メイカーのクルマ作りの思想や個性が現れていたのも興味深かった。
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オイルショックの影響でレース活動を控えてていた自動車メーカーにとって、この「速さと燃費の両立」という課題は理想的な大義名分となり、名だたる自動車メーカーが参戦。王者ポルシェを打倒するというシナリオも、メーカーにとって魅力的で挑戦しがいのあるものだった。
また、ポルシェがグループCカーのお手本となった956/962Cをカスタマー向けに量産したことで、その気になればプライベーターも優勝争いに加わることも可能となり、参加台数は安定し、全体のレベルもぐんぐん上がっていった。
しかし、1991年、F1が新規定NA3.5Lに移行する同時にグループCカーもこれと同一化、これにより急速に支持を失い、1992年限りで世界スポーツカー選手権は一時消滅することになる。それから30年、グループCカー時代を凌ぐスポーツカーレースをまだに実現できていない。
耐久レースを知り尽くしたポルシェが生んだ名車
すでに1970年代に917や936でル・マン24時間を始めとする耐久レースの王者となっていたポルシェは、1982年から施行された新規定に沿った完全新設計の「956」を送り出す。
それまでのポルシェのプロトタイプスポーツカーと大きく違っていたのは、ポルシェのレーシングカーの特徴だったスペースフレームにようやく見切りをつけ、初めてアルミモノコック製のシャシを使用したこと。流麗なFRP製ボディはドイツ・バイザッハの風洞で磨き上げられ、その下面、フロント車軸下にはフラットボトム規定下で効率的にダウンフォースを生み出すための「ポルシェ・ハンプ」と呼ばれる独特のくぼみが設けられていた。
1982年デビュー当初のエンジンは、前年のル・マン24時間優勝車である936-81にも使われていた2650ccの強制空冷(シリンダーヘッド水冷)式水平対向6気筒+ツインターボ。5速のトランスミッションは信頼性やドライバーの疲労を考慮してシンクロメッシュ式となっているのが、耐久レースを知り尽くしたポルシェらしい選択だった。
デビュー戦となった1982年WEC第2戦シルバーストンでは、規定の違う(燃費規制のない旧規定グループ6)ランチアLC1に敗れたポルシェ956だったが、この敗戦のデータをもとにさらに熟成を進め、本番のル・マンでは見事1-2-3フィニッシュを達成。WEC(世界耐久選手権)シリーズでもランチアとの死闘を制して、マニュファクチャラーズ/ドライバーズのダブルタイトルを獲得する。
翌1983年からはカスタマーチームにも市販を開始するとともに、エンジンを機械式燃料インジェクションからボッシュ製電子制御燃料インジェクションに変更するなどして燃費パフォーマンスを改善。その後もWECを席巻し、ル・マンでも1983年にワークス、1984、1985年にヨーストレーシング(独自モディファイの3Lエンジンを搭載)が制して4連覇を達成。後継の962Cを含めた前人未到のル・マン6連覇(1981年の936-81から数えるとポルシェは7連覇)の礎となった。
ポルシェ956(1982年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4770×1900×1080mm
●ホイールベース:2650mm
●車両重量:820kg
●エンジン型式:935/78
●エンジン:水平対向6気筒DOHCツインターボ
●ターボチャージャー:KKK
●排気量:2650cc
●最高出力:620ps以上/8200rpm
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:MR
[ アルバム : ポルシェ956 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
この車には耐久王の称号が本当にお似合いだと思う