2008年、メルセデス・ベンツは各モデルのアップデートとリフレッシュを精力的に行った。メルセデスの手法は、世代ごとにすべてを一気に変えるのではなく、新しい技術やパワートレーン、アイデアをその時々で躊躇なく盛り込むやり方。5代目SLクラスもその例に漏れず、まるでフルモデルチェンジのような変更を行っている。Motor Magazineではドイツ車特集の中で、マイナーチェンジされたSLの日本上陸にあわせて行われたSL63AMGの試乗とともに、同じくマイナーチェンジされたSLK、その後登場が予定されていたA/Bクラスの魅力についても考察している。今回はその興味深いレポートを探ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年9月号より)
新機構を惜しみなく投入、隙のないラインアップを展開
2005年から07年にかけてブランニューモデル3機種(CLS、R、GL)のデビューを含め、ラインアップの大半をリニューアルしたメルセデス・ベンツ。
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新車攻勢が一段落した今は熟成の時期と言えるようで、この5月に発表されたマイナーチェンジモデルだけでもCLS、SLK、SLの3車を数える。内容を一新したニューモデルの登場こそ少ないものの、性能のアップデートと外観のリフレッシュを精力的に展開中というわけである。
唯一の例外と言えるのが2007年にオールニューとして登場したW204新型Cクラスで、これはメルセデス・ベンツの中核を成すモデルのため、本年2008年4月に日本に登場したステーションワゴンや、今号に海外試乗記のあるコンパクトSUVのGLKなど、その新規プラットフォームを使うバリエーションの追加が盛んに行われている。
こうした傾向はまだ続くはずだ。ノッチバッククーペとカブリオレを揃えるCLKクラスは、まだ先代のW203ベースのままのためリニューアルが間近に迫っていると考えられる。
一方、従来Cクラスのボディバリエーションのひとつとされていたハッチバックの「スポーツクーペ」は、CLCクラスという独立した名称が与えられ、先代W203をベースに1100点のパーツを新開発する手法でこの6月に本国でのフルモデルチェンジを果たした。アバンギャルド系新型Cクラスと同じ雰囲気となったエクステリアは、スポーツクーペのキャラクターにマッチしている。
旧プラットフォームのキャリーオーバーはメルセデス・ベンツとしては珍しいことだが、CLCは若い世代を対象とした同ブランドへのエントリーモデルという位置づけにあるため価格を抑える必要があるのだろうし、ブラジルでも生産される都合から、より習熟度の高いシャシを選んだと考えられる。
もちろん性能的な部分のアップデートは確実に行われており、CLC200コンプレッサーの出力はセダン/ワゴンと同じ184psながら、燃費を10%近く改善している。さらに切り角によって反応の異なるダイレクトステアリングが採用された。
ダイレクトステアリングはマイナーチェンジ後のSL(日本導入モデルには未設定)や、SLKにも採用された新しい技術。SLKで試した印象では、ハンドル操作角左右6度までは15.8とややスロー、6度から100度では15.8~11.5と変化しシャープな回頭性を得て、パーキング領域の100度以上では11.5の速いレシオで取り回しを助ける。ラックのピッチを不等としただけのシンプルな機構だが、自然なフィールで扱いやすかった。
メルセデス・ベンツの各モデルの熟成は、常にこうしたパターンである。つまりモデルチェンジですべてを新しくし、後は小変更に終始するのではなく、その時々で世に出せる技術を素早くプロダクトに盛り込むことで性能のアップデートとモデルライフの充実化を図っていく、という手法だ。
シングルクラッチながら驚異的な変速スピード
そんなメルセデス・ベンツの今を見る一例として、今回は標準モデルのマイナーチェンジと時期を同じくして追加されたSL63AMGをツーリングに連れ出した。
まず、新しいSLの改良点をもう一度おさらいしておこう。何と言っても目立つのはエクステリアデザインだ。フロントマスクはL型のコンビランプやワイドでスクエアなバンパー形状、300SLがモチーフの一本バーグリルなどにより以前より勇ましい表情になった。ボンネット上のパワードームや、リアのディフューザー風スカートなども新しいデザイン上のポイント。
個人的には、テールエンドの丸みを帯びたラインとフロントのスクエアなイメージがややアンバランスという印象も受けるものの、今回のフェイスリフトで2001年に登場したSLのモデルライフがさらに伸びたのは間違いない。ちなみに現行SLは今後4年は現役を続けると予想されている。
メカニズム面の進化も大きい。標準モデルではSL350のパワーアップが最大のニュース。動弁系の改良と新型インテークマニホールドの採用、高圧縮比化などにより44psの向上を果たした上、7Gトロニックにはブリッピング機能も備わっている。
新規モデルとして登場したSL63AMGには、さらに驚くトランスミッションが搭載された。既存の7Gトロニックのトルクコンバーターを湿式多板クラッチに置き換えた2ペダルAMTのAMGスピードシフトMCTだ。
ハイパフォーマンスカーの2ペダルはデュアルクラッチ式が世の趨勢になりつつあるようだが、メルセデスはシングルクラッチでもここまでできることを立証して見せた。
C/S/S+/Mの4パターンからシフトモードをセレクトできるこのシステムは、もっとも反応速度の速いMモードの0.1秒を選ぶと、文字通り電光石火のシフトを行う。ステアリング左右パドルのクリックで6.2L V8がブリッピングとともに軽快にシフトを刻む様はかなり気持ちいい。過去のシングルクラッチにあったアップシフト時のトルクの途切れもまったく感じられない。ちなみに、その際のエンジンサウンドは室内に居る限りコロコロと軽い音質、一方の車外音はゴロゴロとかなりの迫力となる。
もちろん525psの6.2L V8は超強力と表現するしかなく、どこから踏んでも厚みのあるトルクが味わえる。と同時にまるで小排気量エンジンのような鋭いレスポンスが楽しめるのが、このパワーユニットの不思議な魅力だ。そしてこうしたエンジンとスピードシフトMCTの組み合わせが、SLの走りをまるでライトウエイトスポーツのような軽快なものにしている。
ただし、今回は市街地を含め様々な走行モードが試せたため、改善すべきポイントも見えてきた。このスピードシフトMCT、クルマが動いている時のシフトコントロールは絶妙と言えるが、スタート時のクラッチのエンゲージはちょっとギクシャクする。とくに微低速で半クラッチ状態の時にアクセルを煽るとトルクがあるだけにスナッチが大きめに出るのだ。
もっともこれはデュアルクラッチ式にも見られること。初期のDSGはやはり極低速のクラッチワークに難があった。したがってソフトウエアのアップデートでさらに改善されるはず。そうなればスピードシフトMCTの魅力はさらに増すはずで、これはもうAMG専用アイテムではなく、スポーツトランスミッションとして幅広い車種への展開を望みたくなる。トルクコンバーターを介さないゆえ、7Gトロニックより格段にダイレクトでエンジンの表情を楽しめるのが、このギアボックスの最大の魅力なのである。
さらにもうひとつ、SL63AMGで感心させられたのはフットワークだ。試乗車は専用チューンのサスペンションとブレーキを中心としたパフォーマンスパッケージ装着車だったので、乗り心地も相応にハードになるのでは?と予想していたのだが、これは見事に良い方へ裏切られる結果となった。
サスペンション設定をスポーツにしているとややコツコツとするものの、その硬さはラグジュアリーオープンスポーツであるSLの性格を見事に反映したもので、無粋な揺れはまったく感じさせない、入力を一度で収束させる爽快な硬さだ。一方のコンフォートモードは、これはもう安楽サルーンそのもののマイルドな乗り心地になる。
と、まあ、ここまでならよくある話なのだが、SL63AMGはそのままワインディングに突入しても十分にコントローラブルで軽快なハンドリングを楽しめる。つまりコンフォートモードの懐が異様に深いのだ。サスペンションの設定が絶妙なだけでなく、オープンながら岩のような剛性を感じさせるボディ、姿勢変化を抑える第二世代のABC(アクティブボディコントロール)の相乗効果と言えるだろう。
そして、ワインディングでさらにペースアップをする場合やサーキットではスポーツモードが本領発揮となる。繰り返しになるが、このモードでも乗り心地はさして荒くはならない。それでいてステアリングの反応はより鮮やかになり、ロールを抑えた安定した姿勢で、ライトウエイトスポーツのような軽快なハンドリングもさらに強調される。2000万円級のスポーツカーにこんな例えは不謹慎かもしれないが、それほどにSL63AMGの走りはコントローラブルで楽しい。
様々な技術を投入し環境への対応を加速
このように、持てる技術を惜しみなく注ぎ込んで魅力のアップデートを図るメルセデス・ベンツの姿勢は、SLを筆頭として5月にマイナーチェンジを受けた各モデルに共通して見られる。
SLKは前記したダイレクトステアリングの採用に加え、SLK350のエンジンが32psのパワーアップを達成。CLSはエンジン出力に変更はなかったものの、7Gトロニックにブリッピング機能を追加している。
5月に変更されたモデルはそれぞれスポーティなモデルなので「走り」を中心とした改良が目立つこととなったが、では、それ以外のメルセデス・ベンツの今後はどうなのであろうか。
日本導入が間近なモデルとしては、春に本国で発表されたA/Bクラスのマイナーチェンジがある。こちらは実用コンパクトカーということで経済性とエコ度を高める方向の改良が目立つ。
まず「BlueEFFICIENCY」と呼ばれるパッケージが開発された。これはエンジンの効率アップと発電制御の最適化、軽量&空力の低減、転がり抵抗の小さいタイヤの採用などを総合的に行うことでCO2排出量を低減するもの。さらにアイドリングストップを行うEcoスタートストップや、BクラスにはガソリンとCNG(天然ガス)を併用するバイフューエルモデルも登場する。
メルセデス・ベンツのような大型車を数多く持つブランドでは、CO2排出の総量規制の中で、今後小型モデルの排出量をどれだけ低減し、それをどれだけ売れるかが大きな意味を持ってくる。A/Bクラスは2005年/06年に新型が登場した比較的新しい世代のクルマなので、今現在できうる環境対策のすべてを今回のマイナーチェンジで施した、という印象が強い。
その次に来るモデルは、現行モデルが2002年デビューとかなり時間の経っているEクラスということになろうが、こちらの方はもうしばらく時間が掛かりそう。前作のW210のモデルライフは7年だったから、来年には何らかの動きが見られるはずだが、とりあえず今秋のパリサロンに新型を連想させるようなモデルの展示はなさそうだ。
世代的に旧くなったことで、本来メルセデス・ベンツが得意とするEセグメントでライバルに水を開けられているのは事実。そこで新型の登場前に現行モデルの大掛かりなフェイスリフトが行われる可能性は否定できない。
現時点でのメルセデス・ベンツは、最新プラットフォームであるCクラスのモデル展開が一段落したところで、次なる戦略に向けて力を溜めている時期と考えて良いだろう。昨年のフランクフルトモーターショーでブルーテックディーゼルやハイブリッドモデルの展開を明らかにし、環境対応への道筋を付けたのは記憶に新しいが、今後はそれらをどういうカタチで実践していくのか。いずれにせよ我々はそれをこれから目前にするわけである。
泰然自若としているように見えて、起こすアクションのひとつひとつに意味のあるメルセデス・ベンツだけに、今後もその動静を注意深く見守りたい。(文:石川芳雄/写真:永元秀和)
メルセデス・ベンツ SL 63 AMG パフォーマンスパッケージ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4600×1820×1300mm
●ホイールベース:2560mm
●車両重量:1980kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:6208cc
●最高出力:525ps/6800rpm
●最大トルク:630Nm/5200rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:7速AMT(AMGスピードシフトMCT)
●車両価格:1910万円(2008年)
[ アルバム : メルセデス・ベンツ SL63AMG はオリジナルサイトでご覧ください ]
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