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ニッサンとイタルデザインが合作した究極のR35「GT-R50」。その真価を開発者に訊く

掲載 更新 14
ニッサンとイタルデザインが合作した究極のR35「GT-R50」。その真価を開発者に訊く

Nissan GT-R50 by Italdesign

ニッサン GT-R50 by イタルデザイン

ニッサンとイタルデザインが合作した究極のR35「GT-R50」。その真価を開発者に訊く

センセーショナルな話題を呼んだ究極のGT-R

昨年7月、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで初公開されてから瞬く間にその名を広めた「Nissan GT-R50 by Italdesign」。

イタリアの名門デザイン会社、イタルデザインがニッサンと共に手がけたこの特別なGT-Rは、市販化の決定と共に破格のプライスが付けられ話題を先行させたが、実はそれだけがこのGT-Rの魅力ではなかった。その魅力をひとことで言えば、GT-Rマニアにとっての究極のロマンチシズムと言えるだろうか。

今回はその概要を、昨年開催されたNISMO FESTIVAL 2019の会場で、イタルデザインのプロダクトマネージャーであるアンドレア・ポルタ氏から直接伺うことができたので、みなさんにもお伝えすることとしよう。

目指したのは“究極のGT-R”

「最初のコンセプトは、イタルデザインの50周年である2018年にGT-Rの50周年(2019年)を共に祝いたいと、我々がニッサンにアプローチしたところから始まりました」

アンドレア氏はまずGT-R50の出生について語りはじめた。

「そしてこのGT-R50は、ニッサンがデザインをして、私たちイタルデザインが生産するGT-Rです」と述べたのである。その瞬間、少しだけ驚いた。あのイタルデザインが、デザインをしないのか?と。名門デザイン会社がデザインを行わずにその生産を請け負うというのは、外野からするとちょっと不思議に思える。

しかしこうした手法はイタリアではポピュラーであり、その多くをカロッツェリアという工房が行ってきた。古くはトゥーリング、このイタルデザインを起こしたジョルジェット・ジウジアーロもベルトーネの出身であり、ピニンファリーナやザガートも有名だ。そして彼らはクライアントのコンセプトを忠実に実車として再現する。つまりGT-R50はニッサンのテーマを具現化した一台だったのである。

50周年にちなんで50台のみの限定生産

「ニッサンは“Ultimate GT-R”(究極のGT-R)というテーマで、世界中のニッサンデザインチームからアイデアを募集したのです。そしてこのコンペティションをカリフォルニアのデザインスタジオにいたMarcus Quach(マーカス・クァ氏)が勝ち取り、イギリスのデザインスタジオでアイデアを完成させました。そこからプロトタイプモデル(筆者注:撮影したモデルである)の製作段階に入り、ニッサンからデザイナーがイタルデザインへやってきたのです。実に4ヵ月近い時間をかけて、我々と一緒にこのGT-R50を完成させたんですよ」

しかし当初ニッサンは、その量産化についてまでは検討していなかったようだ。これを市販化するならば、当然一定量GT-Rのコンポーネンツが必要となる。またビスポーク要素が極めて強いGT-R50を量産化した場合、コストと価格の折り合いがつくのか?という心配も当然あったはずである。

ここでイタルデザインは、50周年にちなんで50台の限定モデルとして生産することを提案した。その後両者の間で入念な検討が何度も行われ、遂にGT-R50は市販化へと至ったのであった。

GT-R50のポテンシャルはどうか?

そんなGT-R50でみなさんがまず気になるのは、ずばりそのポテンシャルだろう。特別に設えられたGT-R50は速さにおいてもさぞかしアルティメットだろ!と思うのは当然であり、筆者もそれがまず気になった。しかしそんな庶民的発想を超えて、GT-R50には遙かに大人びたモデルコンセプトが与えられていた。その出力特性にもデザインに通ずるテーマが存在したのである。

「ニッサン GT-Rがデビューしたとき、そのエンジン出力は480psでした。そしてこのGT-R50は、720psを発揮します(筆者注:トルクは780Nm)。我々としては単にパワーを上げるのではなく、そこにコンセプトを与えたかった。つまりGT-Rの生誕50周年を祝って、そのパワーも(R35 GT-Rから)50%引き上げることにしたのです」

GTR3用パーツを多数採用

GT-R50のベースとなるのは、贅沢にもGT-R NISMOだ。そしてそのエンジンチューニングには、NISMOのノウハウがさらに盛り込まれた。

「具体的なことは言えませんが、まずクランクシャフトの材質を変更しました。なおかつピストンやコンロッドにはレースカーであるGT-R GT3のパーツを使用しています。これに合わせてインジェクターも容量を増やし、ECUのマッピングも変更しています。インタークーラー形状に変更はないけれど、やはりその中身もGT3用にするなど、熱対策もきちんと行っているんですよ」

また720psのパワーに耐えうる駆動系とするべく、トランスミッションの構造材もその強度が高められた。なおかつ6速デュアルクラッチは、強化タイプに変更されているのだという。

興味深いのはその全高が、法規に伴う最低地上高をクリアしながら、さらに標準車から40mmも低められていることだった。もちろん出力向上に伴い足まわりはリセッティングされているが、その低さはサスペンションだけでなくチョップドトップしたルーフによってもたらされていたのである。

職人の手作業で叩き出されるボディを採用

そのチョップドルーフは、イタルデザインの職人がひとつひとつ叩きだして作るという。GT-R50はボンネットとリヤハッチ(そう、トランクではなくハッチバックなのだ)をカーボン製としているが、それ以外の外装部分は全て職人が手作業で形を整える。そのクオリティはニッサン開発陣をもうならせる完成度の高さだった。これこそがカロッツェリアとしての伝統である。

左ハンドルのプロトタイプ。「シートにどうぞ」と招かれて座ってみると、そこにはオリジナルの面影を残しつつも完璧に特別仕立てされた世界が拡がっていた。

インパネは黒いアルカンターラが貼り込められているが、その下はカーボン。中央にはモーテック製のメーターが居座り、空調ダクトまでが別仕立てされている。スイッチ類は4WD制御/サスペンションダンピング/トラクションコントロールに加え、もうひとつリヤウイングの操作スイッチが付け加えられていた。カーボン素材はプリプレグの他にフォージド仕様のパネルもあったが、それも全てオーナーの要望によって変更が可能となっている。

「これは一番最初のプロトタイプモデルだからモーテックが付いています。でも市販化されるGT-R50はストリートリーガルとするために、もう少しプロダクションモデルと近い形になるでしょうね」とアンドレア氏。ただいったんデリバリーされたあとは、再びオーナーが好きな形や仕様に変更できる可能性もありそうだった。

走行テストは8000kmに及んだ

今回はそのステアリングを握る機会には恵まれなかったが、たとえ再び「どうぞ」と言われても筆者は尻込みしただろう。そんなGT-R50のフィーリングをアンドレア氏に聞いてみると「基本的にはGT-Rの操縦性と同じ」だと教えてくれた。

「当然ボディはワイド&ローとなっていますし、パワーアップもしているからオリジナルのGT-Rよりは速いです。でもその中身は、本当にGT-Rと同じだと思っていいですよ。あの素晴らしい安定感をベースにさらなる速さが実現されています」

フルチューンを施したGT-Rはしかし、GT-Rの域を超える別物になっているというわけではないようだ。しかしそれと同時に、その柔らかな口調には、アンドレア氏のGT-Rに対するリスペクトも窺い知ることができた。

「走行テストは3日間、述べ8000kmに及びました。アメリカではプロトタイプのテストがしやすいので、ニューヨークからニュージャージー、アトランティックシティ、カリフォルニアではウイロースプリングス(筆者注:ナスカーも開催されるサーキット)も走りましたね。ヨーロッパではグッドウッドはもちろん、スパ・フランコルシャンも走らせました。ここではエリック・コマスの息子、アントニーもテストドライブしましたよ。日本でのテストですか? ・・・ダイカンヤマ!」

一台として同じGT-R50は存在しない。

完全なるビスポークを語る上で、GT-R50はそのボディカラーにも面白い工夫を盛り込んでいた。フェラーリ F40やパガーニ ゾンダよろしく、カーボン地を塗りつぶさないように薄く吹き付けられたペイント。その縁取りをするゴールドのカラーリングは、1973年に登場したケンメリGT-R、幻のレーシングバージョンへのオマージュだという。

「実はこの撮影車輌も、プロトタイプとはいえ既にオーナーが付いており、その要望によって仕立てられたものなのです。そして一度選ばれたカラーは、他のクルマには絶対使わないことが約束されています。GT-R50は、初代GT-Rが誕生した1969年になぞらえた“69”から“18”(=2018年)までのシリアルナンバーを持っています。そしてオーナーはこの中から、好きなナンバーを選ぶことができるのです」

歴代のGT-Rをリスペクトしたデザイン

「ある人はケンメリの“69”を選びましたし、またある人は昔自分がやっていたベースボールプレイヤー時の背番号“8”を選んだ。自分で会社を興した年を選ぶ人もいますし、ここには50人分のパーソナルストーリーが込められるのです。ただ、ひとつだけ誰も選べないものがあります。それはニッサンの“23番”(笑)」

GT-R50のデザインは、様々な部分にその歴史が込められている。

「たとえばノーズは現行GT-Rのエンブレムですが、サイドステップのマークはR34(筆者注:Rの先端が角張っている。R33と同じシェイプ)を採用しています。リヤクォーターを前から眺めると、R34のように見えませんか?」

未来のGT-Rを示唆するコンセプトも導入

さらに感心させられたのは、その近未来的なテールランプの造形だった。

「このデザインを見て多くの人は『フォード GT40(フォードGT)みたいだね』というのですが(笑)、それは違うんです。その答えは隣にあります」。そう言ってアンドレア氏が指さしたのは、次期型R36GT-Rの未来像とも言われる「NISSAN CONCEPT 2020 Vision Gran Turismo」(2015年東京モーターショーで登場)のテールランプだった。確かにそのテールランプは、同じデザインテイストとなっていたのである。

「つまりフォードGTよりも先に、このデザインは提案されていたのです」

8月からデリバリースタート

GT-R50第一号車のデリバリーは、今年の8月ごろを予定しているという。まず最初の一台を作るのに8ヵ月ほどを要し、その後は週産1台のペースで作っていく予定だというが、むしろ製作日数よりも時間が掛かるのはオーナーが仕様を決める時間だろう。

なぜならオーナーは世界にたった一台のGT-Rをオーダーするために、無限の可能性の中から仕様を選ばねばならないからだ。そしてそれこそが、このアルティメットGT-Rがもつ最大の魅力なのだと私は思う。

ちなみにそのビスポークは、3DモデリングデータとリンクしたVRで行うこともできるのだという。アルミの板を叩き、レザーを丹念に貼り込むと同時にこうした最新技術で形を整えていくのも、イタルデザインが第一線で活躍できる理由である。

日本での販売はVTホールディングスの一部門であり、KTMクロスボウやケータハム スーパーセヴンを取り扱うエスシーアイを通じて行われる。

REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)

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みんなのコメント

14件
  • オーテックザガートといい日産とイタリアのカロッツエリアは相性が悪いなぁ。
  • エアロ部分の画像を一瞬見て「ダンボール製?」と思った。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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