最近、とある整備士学校の広報担当から「整備士になろうという人が急減しています。ひと昔前の半分になりました。このままだとクルマの整備が気軽に受けられなくなるかもしれません」という話を聞いた。若者がそもそも整備士を目指さなくなっている理由を国沢光宏氏が分析した。
文/国沢光宏、写真/AdobeStock(タイトル画像:Eakrin@AdobeStock)
このままじゃ日本のクルマ好きの将来が心配だ!! 若者が「自動車整備士」を志さない理由とは?
■板金作業は完全に人手不足の状況に!
整備士を目指そうという若者が減っているという現状はクルマ界にとって喫緊の課題だ(goodluz@AdobeStock)
日本全体で見ると自動車の保有台数は増えているのだけれど、整備士の人数を見ると減る一方。高齢で引退したり、後継者不足により廃業する整備工場が急増していたりするうえ、これから整備士になろうという若手も急減しているためだ。
自動車の整備士を育成している機関(自動車大学校など)はどこも定員に届かない。このままだと自動車のメインテナンスにも困る状況になってきた。
以下、危機的な状況を紹介しておきたい。
先日のこと、知人が隣に駐まっていたクルマのドアを凹ませてしまった。幸い保険に入っていたので修理してもらったところ、驚く金額だったという。ドアそのものの修理代は18万7000円だったのに、レンタカー代金として26万4000円もかかっていた。通常、板金にしてもドア交換にしても塗装を含め3日間くらいあれば終わる。
部品の手配に時間がかかったと思う人もいるだろうけれど、走行不可能なダメージじゃなく、修理に出した人は準備できるまで乗っていたそうな。修理に取りかかったのに、2週間かかったということ。
現在、最も予約を入れにくいのが技量を必要とする板金とはいえ、完全に人材不足。すでに板金塗装は修理料金も上がりつつあり、自分でブツけたらそのまんまというケースも。
■メインテナンスフリーの項目がますます増えていく……
ディーラーの定期点検でもメインテナンスフリーのパーツが多用されるようになってきた(Shutter2U@AdobeStock)
車検や点検に代表される整備だって人手不足が深刻になりつつある。前述のとおり10年ほど前から整備士を目指す若手が減り始めており、新型コロナ前の時点で自動車大学校の学生のうち、半分近くは外国人研修生という状況になっていた。新型コロナで研修生がいなくなったため、求人ニーズにまったく応えられない状況になっているそうな。卒業生の奪い合いとか。
ということを自動車メーカーも認識しており、メインテナンスフリーの項目を増やしている。今や軽バンですらイリジウムプラグを使い、交換サイクルを10万kmに増やしたり、ブレーキや冷却液など油脂系の交換時期を長くしたり、メインテナンスフリーのパーツを多用するなど手をかからなくしてきた。実際、20年前のクルマと比べ、整備にかかる時間は半分以下になっている。
ユーザー車検を受けるため自分のクルマの点検をした人ならご存じだと思うけれど、指定項目のうち、半分以上は自動調整になっていたりするため何もしなくてOK。
今後、一段とメインテナンスフリーの項目が多い電動化車両が増えてくると、OBD2端子に検査機をセットするだけで80%以上チェックできてしまうようになるだろう。そういった意味では整備士減少に耐えている。
■整備士減少はもはや今が限界に?
整備士不足が常態化すれば万が一クルマに不具合が出た場合、急ぎに対応に支障が出るようになってしまう(littlewolf1989@AdobeStock)
とはいえ今が限界だと思う。2023年1月に納車された新型ノアのルームミラー周りからギシギシ音が出始めた。チェックしてみたら、ルームミラーの根元を覆っている樹脂のカバーにガタが出ている。
私のクルマだけかと思ったらガタは”標準装備”のようだ。こういった状況、メーカーの対策部品を待っていたら何カ月か、かかってしまう。「それじゃ困りますよね」とすぐ対応してくれた。
不具合が出ていない時の点検であれば予約を入れればいい。されど整備士不足になると急ぎの対応ができなくなる。どんな修理や不具合が出ても、待つしかないという状況は嬉しくないこと。
加えて景気の低迷により走行距離が長くなるし、クルマの使用年数だって増えていく傾向。それでいながら高速道路の120km/h区間が増えていくなど、安全性の確保は必要になる。
■いつまで安心してガソリン車に乗れるのか……?
若者たちが誇りを持って自動車整備士を志望できるような賃金体制の見直しなどを業界全体で考えなければならない(Shutter2U@AdobeStock)
制限速度100km/hだったら、大半のクルマはせいぜいメーター読みで120km/hくらいまで。120km/h区間を走った人ならわかるとおり、メーター読み140km/hくらい(実車速130km/h程度)のクルマだって珍しくない。
このくらいの速度域からフルブレーキングしたり、急転舵したりすると車体にそれなりの負荷がかかってくるため整備を受けてないと厳しい状況になるだろう。
そのうえでカーボンニュートラルまでエンジン車を乗ろうという人も増えてくるに違いない。となればウォーターポンプやタイミングベルト交換に代表される比較的時間のかかる整備だって必要になる。
このままだと本当に自動車を整備できない状況になりそう。若手の育成や賃金体制の見直しなど抜本的な対策が必要だと思う。自動車業界全体で真剣に考えなければならない。
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みんなのコメント
こんな人権無い仕事、誰もやりたがらんのは当たり前。
この国は一度、整備士不足を味わうと良い。
有り難みが分かれば整備士の給料も上がるやろ。
安かろう悪かろうにした勤務体系が全ての悪ですよ。