F1ハンガリーGPの決勝レースで、角田裕毅(RB)が9位。しかも、全ドライバーの中で唯一1ストップ作戦を成功させ、アストンマーティン勢を抑え切った。この走りについて、チームの首脳陣らも絶賛。角田としても、前日の予選でクラッシュしてしまうというミスを帳消しにした、値千金の走りだったと言える。
このハンガリーGPでの角田の走りは、レースペースを細かく見ていくと、その素晴らしさが改めてよく分かる。また、戦略的にも完璧であり、さらにひとつの幸運も重なっての入賞だった可能性が見えてくる。
■角田裕毅、渾身のタイヤマネジメントで1ストップ作戦成功! アストン勢を下して9位「前日のクラッシュの埋め合わせができてよかった」
角田裕毅と入賞を争ったドライバーのレースペース推移
まずレースペースから見てみよう。次のグラフは、角田と、その周囲を走ったドライバーたちのレースペースの推移だ。
最終スティントでは、緑色の実線(フェルナンド・アロンソ)と点線(ランス・ストロール)で示したアストンマーティンのふたりが、特に良いペースで走っているのがよく分かる。それに対して青の実線で示したのが角田のレースペース……これを見ると、アストンのアロンソ、そしてチームメイトのダニエル・リカルド(青の点線)と遜色ないペースで70周を走り切ったことがよく分かる。
前述の通り角田は1ストップ。他のドライバーたちは、2ストップ戦略である。つまり角田は、タイヤを長持ちさせるためにしっかりと労わりつつ、ペースを極端に落とすこともなかった……そういう素晴らしい走りを実現させたのだ。
「ユウキのタイヤマネジメントは、誰にも負けないモノだった」
RBのローレン・メキーズ代表はプレスリリースにそうコメントを寄せたが、まさにその言葉通りの走りだったと言える。
角田裕毅陣営が考えていた”敵”はハースのヒュルケンベルグ?
さてこちらのグラフは、レース中の各車の差を表したものだ。ここで示したのはRB勢2台、アストンマーティン勢2台、ハース勢2台、そしてウイリアムズのアレクサンダー・アルボンの合計7台である。
このグラフから想像できるのは、角田陣営はアロンソとストロールを敵とみなしてレースを戦い、そしてハースの位置も注視していたのではないか……ということだ。
角田は快調なペースで第1スティントの周回を重ねていた。そして、直接的なライバルとの差を20秒強にまで広げようとしていたはずだ。というのも今回のハンガリーGPでは、ピットストップをした時のロスタイムは20.5秒程度だと考えられていたため、コース上で同等の差をつけていれば、その相手より前でコースに復帰できるということになるからだ。
この時角田が見ていたのはハースのニコ・ヒュルケンベルグだったと思われる。ヒュルケンベルグはスタートで失敗してポジションを下げてしまったため、クリーンエアで走ることを選んで2周目の段階で早くもピットストップを行なった。これで前との差を縮めようとしていたが、角田のペースがよく、縮めることができなかった。
一方で角田としても、ヒュルケンベルグに20秒以上の差を築きたかった。特に今回のハースはトップスピードが優れており、一方でRBはトップスピードでは最下位……RBがコース上でハースのマシンを抜くのは、非常に難しかったはずだ(決勝レースでのスピードトラップの最高速は、ヒュルケンベルグ311.3km/hに対し、角田は304.6km/h)。
そうこうしているうちに、アストンマーティンの2台がヒュルケンベルグを抜き、角田との差を縮めにかかった。それが27周目頃だ。それ以上差を縮められるわけにはいかない角田……そしてもう1台脅威が迫っていたのだ。それがハースのケビン・マグヌッセンである。
マグヌッセンもレース序盤に1回目のピットストップを終えており、ジリジリと角田との差を縮めていた。その差が20.762秒となった30周目、角田がピットイン。そして角田はマグヌッセンの0.481秒前でコースに戻ることに成功した。まさにギリギリのタイミングだった。
角田はこのピットストップで、アストンマーティン勢の2台に先行された。そして本来ならば、ヒュルケンベルグとアルボンにも前に出られていたはずだったが、角田にとってはまことに幸運なことに、この2台も30周目に角田と同時にピットインしてくれたのだ。
もしヒュルケンベルグとアルボンがこのタイミングでピットインしていなかったら、角田のすぐ前に立ち塞がっっていたはずだ。そうすれば角田は、少なからずタイムをロスしていたはずで、レース終盤のもっと早い段階でアストンマーティンの2台に背後まで迫られていたはずだ。防戦し切れていたかどうかは甚だ疑問である。ただ実際には2台がこのタイミングでピットストップしてくれたことで、角田の前は開け、自分のペースに集中することができたのだ。
ハンガリーGPで角田は、レース全体を通じて素晴らしいタイヤマネジメントを披露した。それが、9位を掴み取った最大の要因であるのは確かだ。しかしチームとしても余計なライバルに前を抑えられないよう抜群のタイミングでピットストップさせ、さらにライバルたちのピットストップのタイミングにも助けられた……そうして手にできた9位だったと言えよう。
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