「CBX400F」が装備した新型ブレーキ
1969年にホンダの「ドリームCB750FOUR」が、市販車で世界初の油圧式ディスクブレーキを装備して以来、ロードスポーツ車は続々と油圧式ディスクを採用し、現在はオフロード車も油圧式ディスクが標準的な装備になっています。以前のドラム式ブレーキは、一部の小排気量モデルのリアブレーキでしか目にしなくなりました。
【画像】どれもカッコイイ!「インボードディスク」装備のバイクをもっと見る!(15枚)
ところが、バイクブーム真っただ中の1980年代初頭にホンダが発売した「CBX400F」や「VT250F」には、見慣れないブレーキが装備されていました。
これはホンダ独自の「インボード・ベンチーテッド・ディスク」ブレーキで、略して「インボードディスク」と呼ばれていました。
その名称で解るように油圧式ディスクブレーキですが、一般的なディスクブレーキとは異なり全体がカバーされており、ともすれば以前のドラムブレーキのように見えなくもありませんでした。
このブレーキ、どんな構造でどんなメリットがあったのでしょうか?
バイクのディスクローターは、ステンレスが主流
そこでインボードディスクの構造の前に、油圧式ディスクブレーキの歴史を簡単に振り返ってみましょう。
前述したように、公道用の市販量産バイクで初めて油圧式ディスクブレーキを装備したのはホンダの「ドリームCB750FOUR」ですが、ディスクローターの材質はステンレスでした。そして現代のバイクのディスクローターも、材質はやはりステンレスです。
ところが4輪車のディスクブレーキは、軽自動車からスーパーカーまで、そしてトラックやバスなどもほとんどが「鋳鉄製」です。その理由はステンレスよりも鋳鉄の方が、ディスクローターの素材として性能面とコスト面で優れているからです。
じつはバイク用でも、イタリアのドゥカティや英国のトライアンフは、かつて市販車に鋳鉄製のディスクを採用していた時期がありました(ドゥカティは1990年代初頭くらいまで鋳鉄ディスク車が存在)。
鋳鉄製ディスクは「真綿で締めるような効き味」と言われ、制動力やフィーリングに長けていたからです。レーシングマシンにおいても同様で、現在のMotoGPクラスの前身といえるGP500クラスでは、1990年代にカーボン製ディスクを装備するまでは鋳鉄製ディスクが主流でした。
しかし市販バイクのほとんどが、現代に至るまでステンレス製ディスクを採用するのには理由があります。それは「ルックスを優先」しているからです。材質的には鋳鉄の方が向いているのですが、いかんせん「鉄」だけにサビやすく、バイクのディスクローターは剥き出しなので、サビるとかなりカッコ悪いからです。
対して4輪車の場合は、ホイールでディスクローターが隠れるため、サビが目立たないので鋳鉄製ディスクを採用しているワケです。
鋳鉄ディスクを採用するために、独自技術をテンコ盛り!
ルックス的にはサビないステンレスが有効ですが、制動力や操作フィーリングでは鋳鉄製ディスクの方が優勢……というワケで、ホンダが開発した革新的なブレーキが「インボード・ベンチレーテッド・ディスク」です。
構造図を見ても少々難解ですが、まずホイールのハブが非常に大径になっています。その中に鋳鉄製のディスクローターを外周側から固定して収め、ブレーキキャリパーは内周側から挟み込んでいます。ディスクローターをカバーしているので、サビても見えないのがメリットです。
しかしハブに収めてカバーしているため、問題になるのがディスクローターの過熱です。ディスクローターはある程度温度が上がらないと高い制動力を発揮できませんが、かと言って過剰に温度が上がってしまうと制動力が低下するため「ベンチレーテッド・ディスク」を採用しています。
これは重ねた2枚のプレートの間に空気が通り抜けるフィンを設けた構造のディスクローターで、4輪車のスポーツカーやGT系など高い制動力を求めるモデルが採用しています。
ちなみにバイクの一般的な油圧式ディスクブレーキで「ベンチレーテッド・ディスク」を採用する車両は、ワークスレーシングマシンを除けばごく少数です。ホンダの市販車では1980年代初頭の「CB1100R」や「CBX1000」が装備していました。高コストなのでフラッグシップのみが装備したワケです。
一気に拡大したけれど、意外と短命……
こうして「インボード・ベンチレーテッド・ディスク」は、鋳鉄ディスクならでは高い制動力と操作フィーリングを持ちながら、サビを見せないルックスの良さを両立しました。そして初採用の「CBX400F」から、「VT250F」や「VF400F」など当時のバイクブームの主軸となったミドルクラスへの装備を拡大していきました。また、基本的にはシングルディスクですが、「CBX400F」の兄貴分たる「CBX550Fインテグラ」のフロントには、強力なダブルディスクを装備しました。
しかし「インボード・ベンチレーテッド・ディスク」の採用期間は意外と短く、「CBX400F」の後継モデルとなる1983年12月発売の「CBR400F」は、一般的な油圧式ダブルディスクを装備しました。
また「VT250F」も1987年モデルから、「VF400F」も1984年のフルカウル装備のインテグラから、一般的な油圧式ダブルディスクに置き換えられて行きました。
これはステンレス製ディスクローターの材質が日々改善されたことで、鋳鉄と同等の制動力や操作フィーリングに進化したためでしょう。
こうして複雑な構造でコストがかかる「インボード・ベンチレーテッド・ディスク」は姿を消しましたが、いかにもホンダらしいチャレンジだったと言えるのではないでしょうか。
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みんなのコメント
インボードは、現行ラジアルマスターと同じような奥まで握り込んで操作出来る優れたブレーキであった。
友人はアグスタであるがラジアルマスター仕様のバイクに乗り、「効かない、効かない」と言っていたが。
初期にガッンと来るブレーキと比較するとそう感じるのではないか?個人的にはRZの純正Wディスクより余程コントロールしやすく感じたが。
買ってみて不満はシートが狭くて尻が痛いってことと、ディスクブレーキに見えないこのブレーキ。
タッチは悪くない。
当時ドラム?って聞かれることが多くってがっかりしたのが、廃れた原因だったと思う。
限定解除でXJ750Dを買ったとき、ダブルディスクを見て誇らしかったもんね。
やっぱ見栄えも大事。