BMW史上、もっとも小さな乗用車
2024年5月31日~6月1日にRMサザビーズ北米本社がカナダ・トロントにて開催した「The Dare to Dream Collection」オークションでは、「スペチアーレ」フェラーリや現代のハイパーカー、メルセデス・ベンツ「300SL」など華やかなクルマたちが続々と壇上に上がるいっぽうで、ユーモラスで可愛いマイクロカー、BMW「イセッタ300」も含まれていました。そこで今回は、そのBMWイセッタの車両解説と、注目のオークション結果についてお伝えします。
BMW「イセッタ」に英国製3輪モデルがあった!? 燕三条の職人気質に通じる「モノづくり」を感じて2年前に入手しました
バブルカーの代表選手、BMWイセッタとは?
BMW「イセッタ」は、BMW製モーターサイクルのエンジンを搭載した。小さな「バブル(泡)」のようなクルマ。その見た目のとおり「バブルカー」、ないしは「カビネンローラー(キャビンスクーター)」と呼ばれたマイクロカーは、戦後ヨーロッパにてあたかも雨後の筍のように乱立したが、そのなかでもイセッタはおそらくメッサーシュミット「KR」シリーズと並んで有名なモデルといえよう。
もともとイセッタは、イタリアで冷蔵庫や暖房機器などの製造を行っていた「ISO(イソ)」社が、第二次大戦後に二輪スクーターを開発・生産した先に、航空機出身のエンジニアを招聘して開発したマイクロカー。そして、1953年から生産化した「ISOイセッタ」の生産権を獲得したBMWが、大規模なモディファイの後に1955年から発売に至った。
元祖ISOイセッタが、自社製の対向ピストン式2ストローク200ccエンジンを搭載していたのに対して、BMW版イセッタはモーターサイクル「R25」用250cc単気筒4ストロークOHVを搭載。のちに300cc版も追加された。
フロントから見ると3輪車のように見えながらも、リアのディファレンシャルを廃するために後輪のトレッドを極端に狭めた4輪車である。ただし、3輪車だと税金が安くなる英国マーケットでは、3輪モデルも販売された。
この時代における他のドイツ車たちが、渋めのボディカラーをまとっていたのに対し、BMWイセッタは陽気なカラーリングが多かった。でも、このクルマでなによりも印象的だったのは、一説にはイタリアISO社が製造していた冷蔵庫がアイデアのもとともいわれる、文字どおりの「フロントドア」であったことである。 まだ第二次大戦後の復興期にあったヨーロッパでは、大衆の移動手段として人気を博したかたわら、アメリカやカナダでは「逆スノッブ」であることをアピールする手段としても一定の支持を得た。チープながら可愛いことを最大の武器として、当時の若者からオシャレな乗り物としての評価を得たのだ。
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Mカラーで彩られたマスコットカー・レプリカ
このほどRMサザビーズ「The Dare to Dream Collection」オークションに出品されたBMWイセッタ300は、シリアルナンバー・プレートにより、英国イーストサセックス州ブライトンの「イセッタ・オブ・グレート・ブリテン社」がBMWとISOのライセンスを受けて製造した英国市場仕様車であることが確認されている。
ただ、「ブライトン・イセッタ」と呼ばれる英国製イセッタは、税制上有利な3輪モデルが多勢を占めていたはずだが、この個体は希少な英国製4輪イセッタのようだ。
この種の大衆車にはありがちなことだが、新車時代からの来歴については途絶えており、分かっているのはカナダのアルバータ州に住む、ロバート・メイトランドなる人物が入手してからのこと。その後、北米カリフォルニア州サンディエゴの著名なBMWディーラー「ビル・ブレヒト」社直轄のレーシングチームである「チーム・ブレヒト」の有名なマスコットカーをイメージしてレストアされることになったとのことである。
チーム・ブレヒトのマスコットカーもこの個体と同様の4輪版イセッタで、白を基調に、「BMWモータースポーツ」の伝統的な斜め三色ストライプが施されている。今回の出品車両であるイセッタ300にも同じカラーリングが施されたが、サンルーフは無地の黒いファブリックで、エクステリアトリムにも若干の変更が加えられており、運転するのと同じくらい見るのも楽しいクルマとなっている。
2013年に「The Dare to Dream Collection」が入手したこの印象的なイセッタは、全体的に非常に良好なコンディションを保っており、新車時と同じ無敵の魅力を放っている。たとえば、究極のドライビングマシンを愛するBMWエンスージアストがサーキットのパドックにて使用するには、理想のクルマであることは間違いない。
エスティメート上限を大幅に上回り落札へ
「どこへ行っても最も人気のある自動車のひとつ」。RMサザビーズ北米本社はそんなPRフレーズを添えて、3万ドル(約475万円)~4万5000ドル(約715万円)というかなりの自信をうかがわせるエスティメート(推定落札価格)を設定した。
また、今回の「The Dare to Dream Collection」オークションは、すべて「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」形式で行われるというのが前提条件。したがって、たとえ入札が希望価格に到達しなくても落札されてしまう「リザーヴなし」で出品されることになっていた。
エスティメートの段階からけっこう高価だったこともあって、「リザーヴなし」ではしばしば起こりうる安価な落札もオーナー側では危惧しただろうが、競売が終わってみればエスティメート上限を大幅に上回る5万8800ドルで落札されるに至った。
つまり、現在のレートで日本円に換算すると約950万円という、たとえ現在の円安の為替レートを加味して考えても、いささか驚きを禁じ得ないようなハンマープライスとなったのだ。
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