Ferrari GTC4 Lusso T
フェラーリ GTC4 ルッソT
木製骨格を現代も継承するモーガン プラスフォー。「優しさ」にあふれたノスタルジックカーの乗り味に触れる
8気筒を得たルッソTの真価を測る
シューティングブレークスタイルに4シーターを備えるGTC4 ルッソをベースに、12気筒から8気筒ツインターボへ、AWDから後輪駆動に変更したルッソTに初試乗。その走行性は、やはり似て非なる印象だった。2名のジャーナリストが証言する。
野口 優「最新作GTC4 ルッソTに一切の疑問がないかといえば嘘になる──」
前号、日本に上陸したばかりのフェラーリ GTC 4ルッソで長野県までドライブした印象をそのままに、今度はその8気筒版となる「GTC4 ルッソT」に乗るために、イタリアはフィレンツェに向かった。さすがに12気筒のGTC4 ルッソの時とは違い、3月下旬とはいえ、イタリア中部はすでに暖かく、ドライブするには最高の時期を迎えていた。しかも事前に知らされたコースを確認すると、全行程265km、約4時間半の試乗が許されている。天候にも恵まれ、最高の環境の中でテストドライブできることに浮かれそうになるが、しかし、この最新作GTC4 ルッソTに一切の疑問がないかといえば嘘になる──。
今のフェラーリは変わった。試乗をはじめる前に、現車を見た時、そう思わざるを得なかった。創始者エンツォや、モンテゼーモロの時代であれば、1ボディ=1エンジンというのが基本。派生モデルであってもクラスの異なるエンジンを搭載した例がないことを思えば、マルキオンネの経営戦略は、企業スタンスよりも実利益主義であることは明白だろう。昔からフェラーリを支持する身としては心情こそ微妙だが、それでもプロダクトの魅力が半減するわけではない。が、ルッソに関しては他にも疑問があったから、これから真摯に向き合う必要があった。
「フェラーリは都市部での使用や同乗者を乗せることが多いカスタマー向けと主張」
まず、GTC4 ルッソTで注目しなければならないのは、488シリーズと同様の、V型8気筒ツインターボエンジンを搭載し、さらに後輪駆動としたことだろう。つまり、同じボディをもつGTC4 ルッソをベースに、V12自然吸気からV8ツインターボへ、4輪駆動(簡易型だが)から従来のリヤ駆動に置き換えられたことだ。これを一般的な言い方で例えると“エントリーモデル”ということになるが、フェラーリ曰く、高収入の若年層や、主に都市部での使用や同乗者を乗せることが多いカスタマー向けだと主張し続ける。しかし、それでも610ps&760NmのFR車だ。さすがに488シリーズよりは下回るものの、カリフォルニアTよりは上。似たようなコンセプトをもつGTカーの競合車と比較しても決して劣るところがないどころか、フェラーリとしての姿勢を貫いているとあってプロダクトとしての魅力は確かにあると思う。
だが、本当のところは、ラインナップ拡大を狙っているのは明らかだ。無論、それを悪いとは思わないが、最大の問題は走りの質。元をたどればFF(フェラーリ・フォー)の進化型。12気筒車両として開発が進められたモデルが源流となるだけに、その進化と同時に、エントリーモデルまで用意してしまったのだから、走行性が犠牲になっていないのかが非常に気になる。ましてや個人的にGTC4 ルッソ、最大の特徴でもある後輪操舵には疑問をもっていただけに、8気筒にしたことによって、どのような結果になっているのか、試乗前から期待と不安が交差したのは、紛れもない事実である。
「もはや12気筒は必要ないのでは? と思い始めた」
エクステリアもインテリアも変わらない。違うのはエンジンと駆動方式ということもあって新鮮さはさすがに得られないが、スターターボタンを押した瞬間、まるで違う印象を受けた。エキゾースト音は、なかなかだ。悪くない。走行中、12気筒のルッソでは後部座席付近のこもり音が気になったが、8気筒版では、そんな印象を抱くことはなかった。さらに加速を続けると、今度はV8ツインターボのスロットルレスポンスに共感を覚える。さすがに488ほどではないものの、GTカーとしては見事な俊敏性と扱いやすさを両立している。特に2500rpmを超えたあたりからのフィーリングは絶妙で、3000~5250rpmでの加速感は実にフェラーリらしい仕上がりだ。トルクは豊かで、どこからでも加速するその様を体感すると、もはや12気筒は必要ないのでは? と思い始めた。
その理由も明らかだ。まず、全体的に軽い。この車格のわりには常に軽快感を伴うし、優れたレスポンスのおかげで活気溢れた走りを披露するうえ、フロントに駆動がかからないぶん、ハンドリングもフェラーリらしく機敏に反応するとあって、純粋にドライビングを楽しめてしまう。12気筒のルッソの場合、そうは思わなかったから、8気筒版こそ秀逸なのかもしれない。例えは悪いかもしれないが、敢えていうなら“無駄を省いたことによって本質を得た”ようにも思えてしまう。それに全体の重心も低い。どうしても12気筒版と比較してしまうが、動きが良いのは、V8ならではの利点が得られるからだろう。それはこの後のステージでさらに明らかになった。
「フェラーリの主張は正しかった。これほど曲がるGTカーは他にない」
正直、ワインディングでの動きは、まるで別物だ。12気筒のルッソでは後輪操舵の効果が強すぎて違和感を覚えたが、この8気筒のルッソTでは、時にやや強く曲がる印象を与えるものの、それでも全体的な動きが良いからノーズをインにつけやすいこともあって積極的に攻めたくなるよう仕上げられている。これは見事だ。これなら“ありがとう、リヤステア!”と言いたくなるほど、旋回速度を上げられる。だからペースは上がりっぱなし。GTカーでここまでコーナーを攻められるモデルは他にないだろう。その動きだけを見ても感心するばかりで、ある意味で“本当は12気筒でもこうしたかったのでは?”と察するほどだった。
これは確かに若年層向けかもしれない。あまりにも活気がありすぎのGTである。そう思えば、12気筒版との住み分けは明確だ。年齢に比例して選択する初の跳ね馬だろう。
清水和夫「もしトラコンをオフにしたらルッソTはとんでもない暴れん坊になるだろう」
先年の春、ドロミテで走ったV12のGTC4 ルッソを思い出しながら、V8ツインターボ&RWDの「GTC4 ルッソT」をトスカーナ近郊で堪能したところ、まず感じるのは加速Gの印象が大きく異なる点だった。言うまでもなく、フェラーリのV12エンジンは自然吸気ということもあり、回転の上昇とともに息の長い盛り上がる感覚が得られるが、それに対してV8ツインターボのルッソTは、スピード、エンジン回転、エキゾーストサウンドが一体となって活気溢れるフィールによってドライバーを刺激する。
このV8ツインターボはスロットルを踏んだ瞬間に最大トルクが発生するため、強烈なパンチ力があるとはいえ、トルクの盛り上がりに関してはさすがにV12のような期待はできない。しかも駆動方式はRWDなので、全開域ではトラクション・コントロールは常時作動するほどエンジンレスポンスも鋭い。もし、このトラクション・コントロールのスイッチをオフにしたら、ルッソTは、とんでもない暴れん坊になってしまうだろう。
「対話などと呑気には言っていられない。汗をかける4シーターのスポーツカーだ」
もちろんシャシー関連の印象も異なる。V12のGTC4 ルッソのハンドリングは比較的軽めの設定で、正確無比なライントレース性を見せる一方、リヤステアの効果もあり、まるで針の穴を通すような精密なドライビングが求められる。それでも乗り心地は常に快適で、ハイエンドクラスにおけるドライバーズカーとして満足度は高いことが印象的だった。それに対してV8のルッソTは、ステアリングの正確性こそ普遍的ではあるものの、ダイレクト感は明らかにこちらの方が高く、全体的に軽快かつスポーティに仕上がっている。サスペンションはダンピング性が高く、4座のGTカーというよりも“4シーターのスポーツカー”として純粋にドライビングを楽しめる。
じっくりと対話しながらグランド・ツーリングを楽しむなら、V12の方がいいだろう。しかし、ルッソTは鋭い加速で主張するから、対話などと呑気なことは言っていられない。4シーターとはいえ、汗をかけるスポーツカーである。V12のAWDに対しV8はRWDだが、リヤステアが備わるおかげで高い安定性を実現しているのはもちろんのこと、高速のS字コーナーでは、時にレーシングマシンのような印象も残す。
「ルッソTを乗りこなすにはV12以上に高度なドライビングスキルと冷静さが求められる」
荒れたトスカーナ地方のワインディングは、サスペンションがフルバンプし、タイヤの接地を失うこともある場面が多いからこそわかったが、スピードを高めるほど、ルッソTを乗りこなすにはV12以上に高度なドライビングスキルと冷静さが求められると思った。その点で例えるなら“アルティメイト・マシン=完全な機械”という感じかもしれない。5速ギヤ以降はRWDとなる、ユニークな“半AWDシステム”をもつV12のGTC4 ルッソにも感銘は受けたが、V8ツインターボ&RWDならではの刺激をもつルッソTの走りも実に惹かれるものがある。
PHOTO/Ferrari S.p.A.
【SPECIFICATIONS】
フェラーリ GTC4 ルッソT
ボディサイズ:全長4992 全幅1980 全高1383mm
ホイールベース:2990mm
トレッド:前1674 後1668mm
車両重量:1865kg
乾燥重量:1740kg
前後重量配分:46/54%
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3855cc
ボア×ストローク:86.5×82mm
圧縮比:9.4
最高出力:449kW(610ps)/7500rpm
最大トルク:760Nm(77.5kgm)/3000-5250rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前398×38 後360×32mm
タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20(8.5J) 後295/35ZR20(10.5J)
最高速度:320km/h以上
0-100km/h加速:3.5秒
CO2排出量:265g/km(EU複合)
燃料消費率:11.6L/100km(EU複合)
車両本体価格:2970万円
※GENROQ 2017年 6月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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みんなのコメント
これで行くと、V8が標準ならV6か直4にダウンサイジングすることに成るんじゃないかなぁ?