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著者 :守屋 健
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ウクライナでの戦争が始まって以降、ドイツでは急激に燃料価格が上昇しました。それに伴って、食料品の価格や電気代・暖房費なども相次いで値上げされ、市民の生活を圧迫しています。
終わりの見えない戦争の先行き不安と、エネルギー資源全体の高騰に対応すべく、ドイツ政府は3月24日にエネルギー価格に対する軽減措置について決定しました。今回のドイツ現地レポでは、ドイツの燃料価格の高騰とその現状、それに対してドイツはどのような対策を取っているかについて紹介していきます。
■ガソリンとディーゼルの価格が逆転
ウクライナでの戦争が始まって以降、ドイツでは今までに例を見ないほどガソリンおよびディーゼルの価格が高騰しました。最高値は3月15日に記録したSuper E10(ドイツでもっとも一般的なグレードのガソリン。バイオエタノールが最大10パーセント含有されている)の2.192ユーロ(当時のレートで約280円)、ディーゼルの2.292ユーロ(約293円)でした。
その後は緩やかに価格が下がり、4月10日の全国平均価格では、ガソリン(先述のSuper E10)が1.961ユーロ(約264円)、ディーゼルが1.995円(約269円)と、なんとかリッターあたり2ユーロを切っているという状況です。
注目すべきは、ガソリンよりも価格の安かったディーゼルが、ここにきて逆転してしまった、という点です。ディーゼルエンジン搭載の乗用車がいまだ数多く走っているドイツでは、大きな打撃を受けていると言わざるを得ません。
これだけの価格変動が起きている背景のひとつに、ドイツはロシアから非常に多くの石油を輸入している、という点が挙げられます。ドイツの石油の輸入元を見てみると、2021年の政府発表によれば、34.08パーセントがロシア、次点がアメリカで12.5パーセント、その後に9パーセント台でカザフスタン、ノルウェー、イギリスと続きます。つまり、石油輸入の全体の3割以上を、ロシアからの輸入に頼っているというのが実情です。
■ドイツ政府が打ち出した軽減措置とは?
燃料高騰にあえぐ市民の声を受けて、ドイツ政府は3月24日に軽減措置を発表しました。
・所得税の対象となっている従業員・自営業者に、300ユーロ(約4万円)の「エネルギー手当」を支給する。ただし、支給は一回限りの予定。
・エネルギー税を3か月間に渡って引き下げる。これによって、ガソリン の価格が一時的に1リットルあたり30セント(約40円)、ディーゼルの価格が14セント(約19円)下がると見込まれています。
・より安い公共交通機関のチケットを提供するほか、要介護者のいる家庭・子どもがいる家庭に対しての軽減措置を行う。例として、子どもひとりあたり100ユーロの支給を検討しているとのこと。
特に注目されているのは三つ目の「より安い公共交通機関のチケット」です。ベルリンを例に説明しましょう。ベルリンの公共交通機関はベルリン市交通局(BVG)が担っており、バス・地下鉄・路面電車・船・電車(ドイツ鉄道が管轄)が共通のチケットで乗れるようになっています。ベルリン市内一か月乗り放題チケットは通常86ユーロ(約1万1,600円)ですが、これを3か月間限定で「9ユーロ(約1,200円)」まで引き下げると発表しました。
ベルリンの中心部に住む人々は「自家用車を持たない」という方も少なくなかったのですが、燃料価格の高騰とこの軽減措置によって、ますます自家用車離れは加速すると見られています。
しかし、肝心の軽減措置の開始時期については現在議論の真っ最中で、施行される具体的な日付などはまだ決定していません。
■近所の国で給油する?
燃料価格が高いからといって、誰もが「明日からクルマに乗らないようにしよう」とできるわけではありません。どうしてもガソリンを入れなければならない人のために、今ドイツで多くシェアされているのは「どこで、いつガソリンを入れたら安いか」という情報です。
ガソリンの価格は一日の間でも変動しています。ドイツでガソリン価格がもっとも安くなるのは18時半、もしくは21時半頃で、逆にもっとも高いのは朝の7時半頃です。最大でリッターあたり7セント(約9.5円)ほどの価格差があるので、安い時間を狙って給油する人も少なくありません。
また、EU域内であればクルマでの移動は簡単なので、ガソリンの安い隣国で給油する、というのは手軽かつ効果的な方法です。ドイツに接している国の中で、特に価格が安いのはポーランド。リッターあたりのガソリン価格は1.42ユーロ(約191円)とドイツに比べるとかなりの割安感があります。
ベルリンはポーランド国境までそれほど遠くはなく、仕事で出かけるという方も多いので、「ついでに入れておくか」という感覚で給油できるのは、さすがは大陸に位置する国々といったところでしょうか。
■エネルギー価格が落ち着く、それだけが問題ではない
筆者の住むベルリンでは、ロシア軍の侵攻直後から電気代や燃料代が高騰し、戦争の影響がこんなにすぐ出るのかと驚いたのも束の間。ベルリン中央駅には毎日多数のウクライナからの難民が到着し、先の見えない避難生活を続けることを余儀なくされています。
「戦争が早く終わって、エネルギー価格が以前の水準に戻ってほしい」。それを望む人々が多いのは事実ですが、一方でそれを早期に実現するのは困難であることも、ほとんどの人が理解しています。仮に、戦争が明日終わったとしても、難民の人々の避難生活が即座に終わるわけではありませんし、ウクライナの都市やインフラの再建には相応の時間が必要です。
今後もガソリン価格だけでなく、ヨーロッパ全体の状況を注視していきたいと思います。それでは、また次回のドイツ現地レポでお会いしましょう。
[ライター/守屋健]
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