スズキのスポーツツアラーGSX-S1000Fが新たに「GSX-S1000GT」を名乗り、2月から国内で発売を開始した。ここでは開発者への取材を基に、新型モデルの詳細を解説したい。
ツアラー性能を大幅に強化し、クルコンなどの専用装備を与えたほか、同社初のスマホ連携機能も獲得している。さらにライバルのNinja1000SXとも比較してみた!
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文/沼尾宏明、写真/ズズキ二輪
2022スズキ唯一のブランニューは旅適性を熟成
スズキ初の「GT」(グランドツアラー)を襲名した「GSX-S1000GT」が2月17日、ついに国内で発売開始された。海外で先行発表され、スズキのバイクでは2022年モデル唯一のブランニューとしても注目を集めていたモデルだ。
価格は159万5000円。3月に発売される新作のホンダ・NT1100より約9万円安く、最大のライバルであるカワサキ・Ninja1000SXより8万5000円高い設定だ
車体色は3カラー。黒以外にスズキのシンボルである青を2色用意するのが斬新だ。こちらは濃い青のリフレクティブブルーメタリック
GSX-S1000GTの開発メンバー。バイクの左側はチーフエンジニアの安井信博氏。他にもデザイン、エンジン、車体、電装、品質担当者や開発ライダーの話を聞いた
従来型にあたるGSX-S1000Fは、ネイキッド版のGSX-S1000とともに2015年デビュー。このシリーズは、名機と誉れ高いスーパースポーツ、2005~2008年型GSX-R1000(K5~K8)の水冷直4エンジンをベースに、アップハンドルなど公道向けのキャラクターを与えた。
GSX-S1000は一足先に2021年型でモデルチェンジし、主に電脳や吸排気系、外観をアップデート。従来型から2ps増の150psを発生しながら令和2年排ガス規制をクリアした心臓部や、高剛性アルミツインスパーフレームといった基本構成は現行GSX-S1000を引き継ぎながら、フルカウルツアラーに仕上げたのがGTだ。
従来のGSX-S1000Fはスーパースポーツ的な性格が際立ち、積載性やタンデムの快適性を重視した設計ではなかったが、今回のGTではキャラを一新。俊敏さを持ちながら、ロングツーリングを考慮した走りと装備を実現し、新感覚グランドツアラーの名に相応しい仕上がりとなっている。
GSX-S譲りのエンジンはエアクリボックスやカムプロフィールを最適化。従来型からクラッチレバー操作力を20%低減するアシストシステムも採用した
S.I.R.S.(スズキインテリジェントライドシステム)を搭載。電制スロットルをはじめ、5段階+OFFのトラコン、3種類の走行モードなど7つの電脳デバイスを持つ
新トレンドのデザインと空力特性を両立
「ネイキッドのGSX-Sにカウルをつけただけでは?」と思う人がいるかもしれないが、とんでもない。数々の専用装備を奢り、スズキらしい入念な造り込みで「別物」と思える乗り味を狙っているのだ。
まずデザインと空力性能を両立したスタイルが光る。デザインコンセプトは「A GT Tour de Force」。現行GSX-S1000やVストローム250などを担当した社内デザイナーによるもので、スズキの新しい潮流を感じさせる。
特に顔は今までのスズキらしからぬクール系だ。GSX-S1000との血統を思わせる異型六角プロジェクターLEDを左右に配置。これにV字型ポジションと、空気を切り裂く戦闘機の先端形状をイメージしたノーズを組み合わせ、印象的なイメージを演出している。
複雑なレイヤードデザインのカウル。スクリーンは非調整式だが、オプションで70mm高いハイスクリーン(2万6400円)を用意する
エアロダイナミクスにも徹底してこだわる。カウルは、車体全体を一つのシェルで覆うのではなく、各ウインドプロテクションの要素を細分化し、余分な箇所を削ぎ落とすことで、デザインとエアロダイミクスを両立した。
まずスクリーンは左右端を内側に折り込むことで、頭部と肩に当たる風を軽減。カウルサイドのウイングは膝への走行風を逃し、ミラーは手に当たる風を和らげる形状とした。さらにアンダーブラケット下部に巻き込み風を防ぎ、ハンドリングの安定性を高める整流板を新設している。
これらは全て、解析と風洞実験、実走行を重ね、地道に造り上げた産物だ。
GSX-Sでは縦2段だったモノフォーカスLEDヘッドライトは左右配置に。ロービームで左眼が点灯し、ハイビームでは両眼が点灯する
検証を繰り返し、特に上半身に当たる走行風や雨を徹底的に低減した
ステアリングステム下に整流板を設け、メーターへの巻き込み風を防ぐと同時にハンドリングの安定性も高める
執念のテストでキレ味とツアラーらしい安定感を両立
さらにロングツーリングでの快適性に徹底してこだわった。ライポジはGSX-Sより安楽な上に、より厚味を増したシート、振動を抑えるラバー付きステップを採用。GSX-Sと同様、フローティングマウントのハンドルと相まって、疲れにくい走りを実現している。
グリップ位置はGSX-S比で14mm手前となり、上体がやや起きる。様々な体格の人の意見を採り入れ決定したポジションだ
タンデムライダーの快適性も抜かりなく追求している。大型のタンデムグリップを採用したほか、新設計のシートレールでタンデムシートの位置を低くし、居住性の高いピリオンシートを採用した。
シートレールを新開発。純正オプションのサイドケース(別売)を装着できるステーも追加した。メインのアルミダイヤモンドフレームはGSX-S譲り
足まわりもツアラー適性を高めるため、執念のテストで造り込んだ。前後KYB製のサスはGSX-Sと共用ながら、セッティングはGT専用。タイヤは内部構造を最適化した専用設計のダンロップ製ロードスポーツ2を履く。
結果、ネイキッドのGSX-Sより全体の安定性や吸収性がアップ。低速域での乗り心地はもちろん、ツアラーとしてのしなやかさとスタビリティをあらゆる場面で発揮するという。
「当初は無理難題に思えましたが、スズキ竜洋テストコースで全開にしても破綻しない直進安定性を確保したまま、高い速度のコーナリングでもフラつきが少なく、思ったラインをトレースできるスポーツ性能を残せた。“足まわりはGSX-Sの使い回しでしょう”と思われる方にこそ、ぜひこの仕上がりを体感してほしい」と開発テストライダーも胸を張る。
インナーチューブ径φ43mm倒立フォークはフルアジャスタブル。310mmダブルディスクにブレンボ製ラジアルマウントモノブロックキャリパーをセットする
リヤはリンク式モノショック。イニシャルのほか、伸側ダンピングが調整できる。スイングアームは従来型GSX-R1000と同様だ
そしてGSX-Sにはないクルーズコントロールもツーリングで大いに役立つ。2速30km以上から使用でき、解除やレジューム機能も簡単。使用時の加減速フィールにもこだわり、テストを重ねて穏やかでやさしい車体挙動を狙った。これも疲労を抑え、タンデムライダーにも配慮したものだ。
スズキ初のスマホ接続ほか実用装備のオンパレード
実用装備が充実するのもGTならでは。特筆すべきは、スズキ初のブルートゥースによるスマホ接続機能だ。新採用のフルカラーTFT液晶メーターにマップや音楽リスト、連絡先、カレンダーを表示し、ブルートゥースインカムを接続すれば電話の発信&応答も可能だ。
アプリ「SUZUKI mySPIN」を使えば地図などがメーターに映し出せる。標準アプリではリルートなどの機能がないが、サードパーティのアプリをインストールして使うことも可能
メーターはGSX-Sのモノクロに対し、フルカラー。メーター左横にUSBタイプAソケットも新設した。さらにETC2.0車載器も標準装備と大盤振る舞いだ
さらにGTではUSBソケット、ETC2.0車載器を追加。ツアラーのマストアイテムであるサイドケースが専用設計で登場した。タンデムライダーが乗降しやすいようフラットな形状とし、空力特性も考慮している。ケースは樹脂製で9万9000円。取り付けには別途サイドケースブラケット(1万3200円)、ロックセット(5390円)、ガーニッシュ(4400円)が必要だ。
コンパクトな見た目ながら、XXLサイズのフルフェイスが収納できるケース(別売)。空力やデザインもGTに合わせ、車体と同時開発した。車体と同様の3色を用意
装備のまとめ。価格はGTが159万5000円、GSX-Sが143万円。16.5万円の差があり、GTは豪華だ
基本設計を兄弟車と共有しながら、専用装備と入念な造り込みで差別化を図ったGSX-S1000GT。まさにスズキらしい、信頼できる1台に仕上がっているはずだ。
宿敵Ninja1000SXはコスパ抜群、素の運動性能でGTが勝利か
最後にライバルと比較したい。スポーツツアラーのジャンルで人気が高いのはカワサキ・Ninja1000SXだ。2021年のデビュー以来、ジャンルの顔役に君臨し、2021年の大型クラス販売ランキングでも8位を記録(二輪車新聞調べ)。1000cc級の並列4気筒を積み、アップハンドルとスーパースポーツに近い走りもGTと似ている。そもそも従来型GSX-S1000Fがデビューした際、Ninjaとよく比較されたものだ。
現行Ninja1000SXは2020年に登場した4代目。6回の点検や3回のオイル交換費用が含まれるカワサキケアモデルだ。151万8000円
GTに比べ、ややコンパクトで最大トルクが厚いNinja。燃料タンク容量やタイヤサイズは同一だ
GTの最高出力はNinjaより9ps高い150ps。最大トルクはNinjaの方が0.5kg-m高い。車重はGTが10kg軽い226kgで、基本的な動力性能はGTが上回るか。
一方、電脳のグレードはNinjaが上だ。GTにはない6軸IMU(慣性センサー)を備え、バンク中の出力とブレーキを制御するコーナリングアシスト機能を搭載。4種類の走行モード、3パターンのトラコンにもIMUの情報を元に精緻な制御を行う。
なお、スマホ連動機能付きのカラー液晶メーター、双方向対応のシフター、クルコンは2車とも装備。ただし、Ninjaのスマホ接続機能はシンプルで、メーターにナビなどを映し出す機能はない。
装備としてはスクリーンに調整機能があるのはNinjaの美点。なお、純正サイドケースが簡単に装着でき、取り付けにかかる費用も同等だ。
デザインは好みなのでともかくとして、メンテ費用コミのNinjaの方がGTより8万5000円安く、コスパ良好に見える。しかし多機能なメーター、そして一朝一夕には手に入らない軽量&ハイパワーという基本性能を重視したい人にGTがオススメだろう。実際に乗って比較できる日が楽しみだ。
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