■走るためには快適装備なんて必要なし!
近年、クルマは大きく進化しました。とくに快適装備や安全装備の充実は目を見張るほどです。
いまでは軽自動車でも標準でエアコンやパワーステアリングが装備されるのは常識で、先進安全装備やクルーズコントロールも標準化が進んでいます。
一方で、かつてはレーシングカーのように走ることの性能に特化して、快適装備をまったく付けないクルマがありました。
そこで、走ることにストイックなほどこだわったクルマを3車種ピックアップして紹介します。
●日産「フェアレディZ432R」
1969年に発売された初代日産「フェアレディZ」には、初代「スカイラインGT-R」と同じエンジンを搭載した高性能版の「フェアレディZ432」をラインナップしていました。
フェアレディZ432に搭載されたエンジンは最高出力160馬力を発揮する2リッター直列6気筒DOHC24バルブのS20型で、このエンジンは「4バルブ・3キャブレター・2カムシャフト」だったため、「432」と名付けられたということです。
そして、このフェアレディZ432には、軽量化を施した競技専用のベース車「フェアレディZ432R」が存在。
フェアレディZ432Rはフロントウインドウ以外の窓がすべてガラスからアクリルに換えられ、内装ではラジオやヒーターはおろか、時計も省略されています。
始動するための鍵はシフトレバーの後方にあるため、ハンドルロックも付いていません。当然、車体の下回りのアンダーコートもなく、音や熱は容赦なく室内に侵入してきます。
FRP製のボンネットの下にあるエンジンにはエアクリーナーボックスが無いため、キャブレターのファンネルもむき出しの状態で、公道を走ることを想定していませんでした。
こうした手法によってベース車両に対して100kg以上も軽量化されています。
なお、フェアレディZ432Rは、レース車のベースとして一般のユーザーには販売しなかったはずですが、なぜか数十台が流通してしまったようです。
現存数は10台にも満たないといわれていますので、旧車イベント以外で見かけることは、まずありません。
●ケータハム「セブン」
イギリスを代表する、レーシングカーおよびスポーツカーメーカーがロータスです。
ロータスを創業した故コーリン・チャップマンは天才的な技術者で、もともとは裏庭で自らレーシングカーを作ってレースに出るという「バックヤードビルダー」から会社を興し、1950年代にF1へ参戦するほどの成功を収めます。
レースに出る傍らで、市販車(キットカー)の製造もおこなっていたロータスは、傑作といわれた「セブン」を1957年に発表します。
セブンは古典的なロングノーズ・ショートデッキのスポーツカーで、ドライバーは後輪軸付近に着座するレイアウトでした。
このセブンは大ヒットを記録して1973年の「シリーズ4」まで生産が続きます。そしてセブンの製造権と販売権を引き継いだケータハムによって作られた「シリーズ3」セブンの進化系が、現在のケータハム「セブン」です。
ロータスのころからエンジンやサスペンション、ブレーキは大きく進化していますが、装備自体はほとんど変わらず、ヒーターは基本的にオプション扱いで、廉価グレードではフロントウインドウもありませんでした。
グレードはエンジンの仕様で異なり、トップのモデルでは最高出力310馬力のエンジンを搭載しながら、車重はわずか545kgと、完全にレーシングカーの領域です。
セブンはドライバーをサポートする電子装備もなく、速く走るにはドライバーの技量に委ねられるピュアスポーツカーとして、いまも世界中で高い人気を誇っています。
そして、2014年にはスズキ製の660ccエンジンを搭載した「セブン160」を発売。日本で軽自動車登録できるセブンとして、大いに話題となりました。
■レーシングカーをベースに作られたストイックすぎるクルマとは!?
●ルノー「スポールスピダー」
1990年代中頃のF1では、ルノー製エンジンがホンダに変わって常勝となっていました。このイメージを市販車にも取り込むため、ルノーは「スポールスピダー」を1996年に発売します。
スポールスピダーには屋根がなく、簡易的な幌もありません。当初はフロントウインドウも無い状態で、運転時はヘルメットを被ることが推奨されたほどですが、後にフロントウインドウが装備された仕様が追加されました。
もともと、スポールスピダーはワンメイクレース用車両として開発されたモデルでした。それを公道でも走行できるように最低限の装備を追加しただけなので、ヒーターやパワーステアリングなど、なにもなく、普段使いはまったく考えられていません。
シャシはアルミの角パイプが組み合わされたスペースフレームで、外装の多くはFRP製です。
エンジンは最高出力150馬力を発揮する2リッター直列4気筒を、リアミッドシップへ横置きに搭載。決してパワフルなエンジンではありませんが、1トンを下まわる車体には十分なパワーでした。
製造はルノーのレース部門である「ルノースポール」が担当し、日本にも100台ほどが正規輸入されましたので、いまも中古車として流通しています。
※ ※ ※
今回紹介したようなモデルは、あまりにも特殊ですが、クルマは日々進化を続けており、安全技術や環境性能の向上によって、人にも環境にも優しくなっています。
ストイックなスポーツカーは現在も少量生産されていますが、新時代のスポーツカーとして、安全性能と運動性能を両立しつつ、軽量かつパワフルなモデルが出ることに期待したいところです。
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