なかなかファクトリーの中での作業を見ることができないスーパーGT。第4戦の富士までには2カ月のインターバルが空いたが、その際にGT500クラスのトップチームとしてお馴染みの日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)NISMOに取材許可をもらい、7月、横浜、鶴見のNISMO事業所にあるファクトリーを訪問した。
これまで取材でお邪魔したことは何度もあるが、ファクトリーを隅々まで拝見するのは、ファクトリーがオープンした2013年以来のこと。その2013年はオープンしたてで稼働状況ではなかったので、シーズン中の稼働状況での取材&撮影はこれが初めてのことになる。その模様を前編、中編 後編の3回にわたってお届けする。
今年はNISMO40周年がテーマ。ニスモフェスティバル2024が富士スピードウェイで12月1日に開催
■現在は土日に一般入場できる『聖地』ショールーム
NISMO事業所の社屋入り口にあるショールームは、常に6台程度のヘリテージカーやNISMOロードカーが交代で展示されている。グローバルにニッサンのモータースポーツをアピールする場とすることを標榜して作ったショールームだが、近年のインバウンド需要の恩恵がここにもあり、ショールームを営業する土日は海外ツアー客がマイクロバスやワンボックスカーで多数押し寄せるという。
ショールームからガラス越しに見える、ユーザー車両をメンテナンス、リビルトする大森ファクトリーも、海外の顧客が大幅に増加しているとのこと。北米の中古車輸入規制25年ルールで、これからR34GT-Rも北米への中古車輸出が可能になる。NISMOとして4年前から手掛けるレストアとモディファイ(チューニング)を同時に手掛ける『レストモッド』の需要が高まっている。
ちょうど納品待ちとなっていたR34は、エンジンチューンやレストア、CFRPの外装装着、電着塗装(塗料にボディを浸して電気的に塗膜を定着させる)まで実施。ベース車両が目下、コンディションによっては2000万円以上が相場ということで、レストモッド費用を加えると相当な価格が予想されるが、現在多くのバックオーダーをかかえているという。
ショールームを訪れた人なら誰もが知っているが、モータースポーツのヘリテージを感じられる遊び心が髄所にあって、正面玄関の壁にはR390が張り付いている。平置きするのではなく、壁に構造物の一部として設置しているところに価値がある。
ちなみに車両支持の部分の設計は、故鈴木豊氏(23号車の監督/エンジニア兼車体開発者として活躍)自身が設計したのだという。そのほかにもトビラの取手がコンロッドだったり、男子トイレのオブジェがカムシャフトだったりする。今回初めて見学させていただいたのが女子トイレ。洗面スペースの壁を飾っていたのはVK45のエアファンネルだった。
自前風洞施設こそ保有していないものの、すべての施設が一体化してチームまで完結しているNMC/NISMOが、“GT500ワークス”を体現する存在であることを改めて確認できた。またショールームとユーザー車両メンテナンススペースが、レーシングカーメンテナンス・スペースのすぐ横にあることで、ユーザーからみてモータースポーツを近く感じることができる。なおかつそれがNMC/NISMOにとってもビジネスとして成立しているというのは極めて幸せな関係だ。
■方針決定会議『プランニングセンターミーティング』
ミーティングスペースにコの字に並べた机を挟み、開発担当、設計担当、エンジン開発担当と3号車Niterra MOTUL Z、23号車MOTUL AUTECH Zのチーム側エンジニア、メカニック、そして首脳陣が揃う。さらに12号車MARELLI IMPUL Z、24号車リアライズコーポレーション ADVAN Zのトラックエンジニアもリアル会議出席が難しい場合はリモートで参加する『プラニングセンターミーティング』は週に一度、テーマによって時間の長短はあるものの必ず毎週実施するという。
議題は主に中長期的な今後の方針を決める内容になるが、たとえばレースで発生した不具合などの直近の課題などもリスト化されて検討していく。現場の知見を開発が吸い上げて、逆に開発意図を現場が理解する。チームとファクトリーが一体となっているNMC/NISMOだからこそ作ることが可能な会議体であろう。なおかつ、各部署オフィスはワンフロアに集約されており、部署の垣根なく確認や話し合いができる環境が意識的に構築されている。
今回は週に一度行われているという会議を撮影用に再現していただいた。その中身は公開できずとも、その会議体の存在を示すことでNMC/NISMOの『ソフト』パワーを伝えるには十分なインパクトが感じられた。
会議を新車開発前のタイミングに実施……ならば、どこでもやることかもしれない。しかし、それを毎週やることで議論が活性化していくのだろう。現在のGT500開発はエンジンに開発領域が広く与えられている反面、車体は部品共通化とスペックの統一によって、大幅に開発が制限されている。
その分、車体開発の業務が減るように理解しがちだが、狭い領域を深堀りすることで、競争に打ち勝っていくことが必要で、だからこそ、こういったミーティングに価値があるのだろう。「部品と部品をつなぐにしても、そこをどうつなぐかで変わってきます」と話すのは木賀新一総監督。つなぎ方次第で剛性も変われば、パッケージとしての重量も変わってくる。制約が多いからこそ、開発視点を広くとる必要がある。
20年前のGT500はシーズンごとに搭載するエンジンが変更されたり、その搭載方向が逆転したりと技術の変化、進化が分かりやすくみえて、そこに『ワークス』の凄みを感じることができた。しかし、最新GT500は、人間の『知』の結集に『ワークス』の凄みが集約されるのだと再認識させられた。我々が決勝で目にするのはその最後の仕上げの部分だけなのだ。
※中編に続く
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