■前戦優勝の新井・松尾組がリタイア 波乱の展開となった「久万高原ラリー」
全日本ラリー選手権第3戦久万高原ラリーが2024年4月26日から28日にかけて愛媛県久万高原町を舞台に開催されました。目まぐるしく変わる天候で難しいコンディションとなった本ラリーをリポートします。
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松山市の中心街から車で約1時間の距離に位置する久万高原町は、西日本最高峰の石鎚山(いしづちさん)と、石鎚山を源流とし、日本でいちばんの水質を誇ると言われる仁淀川(によどがわ)を擁する自然豊かな高原地帯です。
名物ステージのひとつ「大川嶺」は四国カルストの北端に位置していて、なだらかな稜線と浸食作用で地表に露出した石灰岩が独特な景色を作り出しています。標高約1500メートルの大川嶺では気圧の変化がエンジンマネージメントへ影響を与えることも。また目まぐるしく変わる天候も特徴です。
天候が悪化すると霧が発生し視界を遮ります。そのため、正確なペースノートとドライバー、コドライバーのコンビネーションが重要といえます。
27日朝、雨の久万高原町役場からスタートしたラリーは、SS1大谷1から波乱の展開です。前戦唐津で優勝した新井大輝・松尾俊亮組のシュコダ・ファビアR5がスタート地点でクラッチフルードが漏れるトラブルに見舞われます。スタートはしたもののすぐにストップ、そのままリタイヤとなってしまいました。
無傷でサービスに戻ったファビアですが、チームは翌日の出走をしない判断を下しました。
■SS2はコケや雨による難しい路面で、SS1に続き波乱の展開に
SS1からステージベストを叩き出した勝田範彦・木村裕介組のGRヤリスRally2は、SS2大川嶺1終了時点で2位の田口勝彦・北川紗衣組のGRヤリスRally2に48.6秒もの差をつけ、ラリー序盤から独走体制を築きます。「曇りと予想していたのでレインタイヤを用意してなかったんだけど」と語る勝田選手ですが、チームは急遽レインタイヤを用意、なんとかスタートに間に合ったとのことです。
SS2でも波乱は続きます。奴田原文雄・東駿吾組のGRヤリスRally2が、路面のコケに乗りコースオフし、側溝にはまってしまいました。結局、抜け出せずに唐津に続いてデイリタイアとなりました。大川嶺の前半はうっそうとした林の中で、晴れていても路面に日の光が差し込みづらく、コケむしている場所も多く見られます。また災害復旧工事を行なっているために普段は通行止めになっていて、今回のラリーのために通行が許可された道です。
そのため普段は車の通行がないためか、路面状態もあまり良くない印象でした。もともと道幅が狭い上にコケや雨の影響で落石などもあって、ラインを少し外しただけでグリップを失うこともある、難しい路面と言えるでしょう。
■一瞬の判断ミスがクラッシュにつながる濃霧の中の高速下りステージ
SS3大谷2は、クラッシュの影響でキャンセルとなりました。LEG1残るステージはSS4大川嶺2となりましたが、お昼ごろには頂上付近は濃い霧に包まれました。視界はかなり悪く、難しいコンディションとなりましたが、そんな中でも勝田・木村組は快調にステージをこなします。
濃霧の中を、SS2大川嶺1のタイムから約11秒落ちでまとめ依然首位。田口・北川組と福永修・齋田美早子組のシュコダ・ファビアRally2 Evoの2位争いは、SS4で田口・北川組が3.8秒上回りLEG1を2位で終えました。
ナイトステージや濃霧のステージは、ベテランが強さを発揮すると言われ、理由としてはまず経験値の高さが挙げられます。正確なペースノート作りはもちろん、コ・ドライバーとのコンビネーションも重要ですが、走り方にもコツがあると言います。
2016年と2017年に当時のJN-4クラス、2020年にJN-3クラスのチャンピオンを獲得したベテランの曽根崇仁選手は「前が見えない中でも視野を広くして、正面はもちろん目の前の路肩を見て走ることがコツ」と語ってくれました。
他にもガードレールや路肩の草木の反射を参考にするという選手もいたりと、それぞれ走り方のコツがあるようです。LEG1の大川嶺の後半のような濃霧の中の高速下りのステージでは、一瞬の判断ミスがクラッシュにつながります。レッキ(ステージの下見)での正確なペースノート作成が、悪条件の中で生きてくるというわけです。
■2日目は晴れるも、初日よりも難しい路面コンディションに
明けて28日の日曜日は朝から晴天。見事な雲海が広がっていました。晴れたものの日陰では前日の雨が乾き切らず、ドライとウエットが混在する路面となりました。
さらに今回のラリーは、2本の林道をLEG1とLEG2で向きを変えて走行する構成なので、LEG1でインカットによってかき出された土や石が路面を汚して、さらに難易度を上げることになりました。
難しいコンディションの中、SS5で全日本ラリーで初のステージベストを記録した田口選手は、近年はダートトライアルを主戦場としていましたが、1999年と2010年にAPRC(アジアパシフィックラリー選手権)でチャンピオンを獲得するなど、もともとは海外を中心にラリーに参戦してきた選手です。
2023年のJN-1チャンピオン、ヘイキ・コバライネン選手が病気療養中のため、急遽ラリーチームアイセロに加わり、久しぶりのラリー参戦となりました。長年ラリーを取材している私(筆者の山本佳吾)も田口選手と言えばグラベルラリーに参戦している姿しか想像がつかず、ターマックラリーに参戦している姿が新鮮に見えました。
海外とはいろいろと異なる環境の全日本ラリーに、かつてドライブしていたGr.N車とはまるで勝手が違うRally2での参戦にどうアジャストしていくのだろうと興味津々でしたが、ダートトライアルにはハイパワーな改造車クラスに参戦していた経験が功を奏したのか、GRヤリスRally2にも慣れてきた印象でした。
■「GRヤリスRally2」の走らせ方を熟知した勝田・木村組が優勝
勝田・木村組はSS5以外のステージでベストを記録して、開幕戦の三河湾以来の優勝を飾りました。2位は今シーズン初ポディウムの田口・北川組、3位には福永・齋田組が入りました。
「サービスのみんながレインタイヤを用意してくれたのが勝因です(笑)」と冗談っぽく語ってくれた勝田選手ですが、過去の久万高原ラリーでも常に上位入賞していて得意なラリーであると同時に、昨年のRally2コンセプトでの参戦を踏まえての今年のRally2での参戦で、GRヤリスRally2の走らせ方を熟知しているのが好調の理由のひとつと言えるかもしれません。
次戦は2024年5月10日から12日にかけて、京都府京丹後市を中心に開催されるラリー丹後です。天橋立や伊根の舟屋などが有名で、美味しい魚料理も楽しめる地域です。京阪神から車で約2時間半という立地で、ギャラリーステージも用意されているのでぜひ観戦に出かけてみてください。
[Text/Photo:山本佳吾]
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