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涙の裏にあった“苦しみの3年”。「結果が残せるシーズンだと思っていた」宮田莉朋、2023年の転機

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涙の裏にあった“苦しみの3年”。「結果が残せるシーズンだと思っていた」宮田莉朋、2023年の転機

 レース終盤、白熱のオーバーテイクバトルで盛り上がった2023年全日本スーパーフォーミュラ選手権の第3戦鈴鹿。リアム・ローソン(TEAM MUGEN)、坪井翔(P.MU/CERUMO・INGING)という強豪ふたりをコース上で抜き去り、見事スーパーフォーミュラ初優勝を飾った宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)は、チェッカーを受けた後のウイニングラン中は、コックピットで涙が止まらなかったという。

 国内トップフォーミュラの舞台では、常に速さをみせて上位争いに絡むも、肝心なところで“トップ”に手が届かず、いつも悔しい思いをしてきた。その心労は、我々が想像する以上に彼のなかで大きなものとなっていた。

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■鮮烈な“代役デビュー”から一転

 宮田のスーパーフォーミュラデビュー戦は、2020年の第2戦岡山。このシーズンは、当時WECとの兼務で参戦していた中嶋一貴が、36号車のレギュラーとして登録されていた。当時はコロナ禍で入国後の自主隔離期間が定められており、岡山での第2戦への参戦が叶わなかった。

 そこで、当時スーパーフォーミュラ・ライツを戦っていた宮田が、代役参戦という形で、国内トップフォーミュラのデビュー戦を迎えたのである。

 事前に充分なテストもできず、ほぼぶっつけ本番に近い状態で臨んだ宮田だが、予選Q1・Bグループで、いきなりトップタイムを記録。関係者を驚かせた。続くQ2でも最速タイムをマークし、いよいよデビュー戦でのポールポジション獲得の可能性も高まったのだが、最終のQ3でミスが出てしまい、コンマ3秒差で2番手にとどまった。

 代役参戦であっても、何としても爪痕を残そうと意気込んでいた宮田。予選後の記者会見で、相当悔しそうな表情をしていたのを、いまでも鮮明に覚えている。

 ただ、デビュー戦でポールポジション争いを演じたことが、評価につながり、翌年には晴れてTOM’Sのレギュラーシートを獲得。フル参戦1年目からの活躍が期待されたが、予想外の事態が起き、苦戦を強いられる日々が始まった。

「2020年に代打で出場した時は、ニック(・キャシディ)選手がいたので、スーパーフォーミュラをどう戦えば良いかを、隣で見ることができていました」

 2021シーズンは36号車に一貴、37号車に宮田というラインアップだったが、この年もコロナ禍に伴う入国後の自主待機期間の兼ね合いで、一貴が参戦できたのは2レースのみ。残る5戦はジュリアーノ・アレジが代役参戦した。

 いまでは、決勝では戦略通り力強く戦う印象のある宮田だが、当時は経験が乏しく、手探りの状態が続いたという。

「ある意味で先輩から学べる環境がなく、僕がチームを引っ張るという感覚で過ごしていました。ただ、当時僕には、その(チームを引っ張る)力は到底なかったし、スーパーフォーミュラをどうやって戦ったら、チャンピオン争いに加われるかも分かりませんでした。21年は、そこがずっと苦しくて……正直、悔しいというよりは『どうしたら、戦えるのだろう?』という気持ちが大きかったです。今思うと、2021年は本当に手探りでした」

「予選は単純に一発の速さがあればよいので、そこはF3やSFライツでの経験とかを活かせましたけど、決勝レースに関しては、(どう戦えば良いか)右も左も分からない状態でやっていたので……しんどかったですね」

 いきなり苦境に立たされながらも、「ネガティブになることはなかった」という宮田。2022年は全10戦のうち8戦で予選トップ10圏内にはいり、その中の4レースはフロントロウからのスタート。ポールポジションには届かないながらも、一発の速さではライバルも警戒するほどのパフォーマンスをみせていた。

 しかし、決勝ではペース良く周回するも、なかなか展開に恵まれなかったり、ピット作業でミスが出て順位を落としてしまうなど、悔しいレースが続いていた。現状を打破するきっかけを見出せないなか、宮田はもがき続けるしかなかった。

「昨年は予選で速さは出せていたものの、決勝に向けてどうそれを維持するかという課題が残ったままシーズンを過ごしていたので、『何がダメなのか?』というところを突き詰めていくうえで、少しずつ僕個人ではどうしようもないところが見えてきていました」

「クルマも分からなくなってきているし、ドライバーも限界がきているという感じで……最後は“見よう見真似”ではないですけど『野尻選手や平川選手など、決勝で上に上がってくる選手の走りを、コピーするしかない』という領域に来ちゃっていました」

■初優勝前夜、トラックリミット違反で「気持ち的には落ちていた」

 とにかく結果を出すために、さまざまなトライを繰り返していた宮田。そこで転機となったのが、2023シーズンからの新パッケージ『SF23』と新しいヨコハマタイヤの登場だ。

「今年はクルマもタイヤも変わったので、100%分かっているというチームは少ない中でのシーズン。どれだけ研究するか、どれだけ努力するかという人が、結果を残せるシーズンだと思っていました」と宮田。

 2023シーズンも富士スピードウェイでの開幕2連戦では、立て続けに予選2番手を獲得するも、決勝では表彰台を逃す結果となった。参戦レース数が増えていくにつれて、知らず知らずと焦りも募っていたのか、予選では珍しくトラックリミット違反を取られ、予選Q2で5番手のタイムを抹消されることとなった。

 予選後のミックスゾーンでも「SFgoのオンボード映像を見る限りでは『これはトラックリミットなのか?』と、事実を受け入れるまで時間がかかりました」と、不満そうに語っていた宮田。その表情をみると、競技団のジャッジに対し抗議しているのではなく、自分自身が犯したミスを受け入れられないといった様子だった。

「カート時代から、予選でペナルティを受けたことがなかったので……『ショック』という気持ちしかなかったです。ただ、結果としては(順位が)落ちたことは事実なので、チームの皆さんやスポンサーの皆さんに、申し訳ないと思っていました」

「先週もスーパーGTの岡山では決勝で10周くらいしか乗れていなかったので……本当に、不運の積み重ねというか、何か(良くない)連鎖が続いていたので『決勝はどういうメンタルで臨めば良いのか?』というのは、悩みました」

 特に、課題だった決勝レースについては、富士での2連戦で手応えをつかんでいたこともあり、余計に順位を下げたことは悔しかったようだ。

「富士のレースで自信をつかめたところはあったので、絶対にそれを活かして鈴鹿で良いレースにしたいと思っていました。上位からのスタートであれば、それ(富士で得たヒント)を活かして勝てるチャンスがあると思っていたからこそ、予選があの結果になってしまったので、気持ち的には落ちてしまいました」

 気持ちの整理がつかないまま、12番グリッドから決勝レースに向かった宮田。「不安の方が大きかったですけど、富士で得たデータは、ヒントになると思って準備していたところもありました。それが結果につながって、良かったです」と語る。

 いざレースがスタートすると、富士で得られた手応えを存分に発揮し、序盤から好ペースで周回。次々と前のマシンをコース上で追い抜き、9周目の1コーナーでは平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)をオーバーテイク。宮田本人も「全体を振り返ると、スタートしてからの序盤で平川選手を抜けたのが、大きかったです。あそこで抜けていなかったら、僕は(中盤の)あのペースで走れていなかったです」と語るほど、大きなターニングポイントだったようだ。

 20周目に発生した大湯都史樹(TGM GrandPrix)と野尻智紀(TEAM MUGEN)のアクシデントでセーフティカーが導入。ちょうど宮田はセクター3を走っており、大きなロスなくピットインに成功すると、昨年は何度かミスが出てしまったタイヤ交換も今回は完璧にこなし、3番手でコースに復帰した。

 レース再開後は、52秒しか残っていなかったオーバーテイクシステムをうまく活用し、ラスト2周でトップに浮上。ついにスーパーフォーミュラ初優勝を飾った。

 チェッカーを受けた瞬間「素直に、泣きました」という宮田。ウイニングランでは「本当にありがとう! 長いこと勝てなくてゴメン、ありがとう」と、無線でしきりにチームに感謝の気持ちを伝えていたのが印象的だった。

「常にTOM’Sの舘(信秀)会長をはじめ、応援してくれている方がいるから、僕も前を向いて頑張れるし、レースができています。これまでは、ずっと予選では僅差の2番手が続いていましたし、決勝でも優勝ができていませんでした。僕のスーパーフォーミュラデビュー戦の予選もそうでしたけど、最後に1番を取れなかったという場面が多くて、チームの中でも『また2位か』という空気にもなっていたかもしれません」

「特に、今回の予選ではトラックリミットを取られてしまって後方からのスタートになって、気分的にも落ちました。あそこから勝つとは、想像もしていなかったです。僕はF3の頃からTOM’Sでお世話になっていて、支えてくださいました。その方々へ『ありがとう』という想いがあって……感極まってしまいました」

 宮田にとっては、悲願の初優勝だったのだが、VANTELIN TEAM TOM’Sとしても、2021年の第3戦オートポリスでジュリアーノ・アレジ以来の勝利となり、チームスタッフたちからも、ようやく笑顔がみられた。

「(宮田は)ずっと勝てそうで勝てなくて、(予選も)ポールを獲れそうで獲れなかったという状況でしたが、こういう選手は一度勝つと、わりとポンポンと(次もトップに)行くことが多いので、これで吹っ切れて、これからも勝ってくれると思っています」と舘監督。ここで勝ち星を挙げられたことで、良い流れが来ることを期待している様子だった。

 2021年から、スーパーフォーミュラでは宮田を担当してきた小枝正樹エンジニアも「ずっと(予選で)2位が続いて、勝てなくて、(決勝では)表彰台になんとか乗れる感じでした。ようやく……という感じでした」と、胸を撫で下ろした。

「速さがあるのは前から分かっていたことですけど、勝ちきれないところがありました。結果的には、クルマのパフォーマンスもあったと思いますが、そういう意味で今回は強いクルマだったのだろうし、莉朋自身も強い走りをみせてくれましたし、最後はしっかり抜いてきてくれました」

 宮田の頑張りを称えていた小枝エンジニアだが「ああいうのは今までなかなかなかったことだと思いますが、(それを実現するには)クルマのペースありきなところもあったので、そこは我々の使命でもありました。ちゃんとしたクルマを用意してあげないといけないと常に思っていましたし、今回は莉朋が最後の詰めをしてくれて、予選から決勝にかけて仕上げられたかなと思います」と、マシンのセットアップの部分についても、この1勝でさらなる確信を得た様子だった。

 これで、首位・野尻から4ポイント差の2位につけた宮田。中盤戦以降は“チャンピオン候補の一角”として、さらに注目が集まっていくことだろう。

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