12月12日にホンダが行った2023年の参戦体制発表会。国内トップカテゴリーである全日本スーパーフォーミュラ選手権、スーパーGT・GT500クラスともにホンダ陣営内では多くの“動き”が見られたが、そのなかにあって両カテゴリーへのステップアップを決めたのが太田格之進だ。
京都府出身・現在23歳の太田は、レーシングカートを経て2018年にSRS鈴鹿サーキット・レーシングスクール(現ホンダレーシングスクール鈴鹿)に入校した。スカラシップ枠を獲得し、翌年はFIA-F4に参戦し2度の優勝を果たしたほか、フランスF4やJAF-F4日本一決定戦にもスポット参戦。JAF-F4では前年から2年連続となる日本一の称号を獲得した。
ホンダ、2023年スーパーフォーミュラ参戦体制を発表。ローソン、太田、ハイマンがデビューへ
その後FIA-F4ではチームの活動休止など苦労が続いたが、2022年、太田は全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権(SFL)にステップアップし、同時にスーパーGT・GT300クラスに参戦。HFDP WITH TODA RACINGから参戦したSFLでは最終ラウンドまでタイトルを争ったが、第17戦で優勝した小高一斗に戴冠を許してしまう。このレース3位となった太田はパルクフェルメで小高に祝福の握手を求めた後、自分のマシンの横に戻るとしばらくその場にうずくまり動けずにいた。
「もちろん、上に上がりたいという気持ちもありましたし、取り損ねたチャンピオンを(来年)獲りたいという思いもある状態でした」とSFL最終ラウンドを終えた時点の心境を振り返る太田。「(第16戦で)TODA RACINGとして初めて地元の岡山で優勝を飾るとことができたのは、僕としてもすごく嬉しかった。ただ、チャンピオンは獲れなかったので、本当に複雑な気持ちでした」。
2022年のSFLを「スタートで抜かれたり、追突されたりなどがあってタイトルは獲れませんでしたが、速さという面はそこそこ見せられたシーズンだったと思います」と総括した太田には、最終的に2023年はスーパーフォーミュラ/DOCOMO TEAM DANDELION RACINGのシートが用意されることとなった。SFL王者の小高も同じくステップアップを決めており、スーパーフォーミュラでも良きライバルとなることが期待される。
■「早く乗りてぇ」SFテストではルーキー最速タイムをマーク
正式発表に先立ち、12月7~8日に太田にとっての“ホームコース”である鈴鹿で行われたルーキーテストには、DANDELION RACINGの6号車から参加。初体験となるビッグフォーミュラのダウンフォースやパワーにスピンする場面なども見られたものの、「楽しい一日でした」と走行初日を終えての感想を口にしていた。
「ルーキーテストが決まってすぐは、結構プレッシャーがありました」と太田は振り返る。
「『試されている』ことは間違いないので、初めてのクルマでどういう走りができるのかという面では不安もあったのですが、いざ前日にサーキットに入ってチームとミーティングをして、夜にホテルに戻ったあたりからはワクワクしてきて、『早く乗りてぇ』しかなくなり、他のことは頭から消え去りました。テスト当時の朝も、『早く(セッションの)時間が来ないかな』と思ってました」
テスト初日は車両への慣熟がメインとなり、午前は19番手、午後は11番手で終えていたが、太田はこの2日間で良いタイムを残すことが重要だと考えていた。
「やっぱりドライバーなので、タイムで下の方にいると焦るというか……。初日の走り始めは『ここからどうやってタイム上げるの?』という気持ちもあったのですが、2セッションを終えて首位から1秒くらいの差だったので『これくらいなら、もうちょっと削っていけるかな』と思い始め、夜にいろいろとデータを分析して、2日目に向けてアジャストしました」
「初めてのクルマだったので、データを見たりといった作業についても、乗り慣れたクルマよりも楽しさみたいなものがあり、ちょっと(セットアップを)変えるだけでタイムやフィーリング、リアクションが変わってくるというのが、すごく面白かったですね」
2日目のセッションは午前に5番手までタイムを上げると、午後の最終セッションは首位からコンマ3秒差の4番手、ルーキー勢の最上位でテストを締め括った。
「やっぱり午前が5番手で、午後に10何番手とかになってしまうと、そこまであった『期待感』が落ちてしまうじゃないですか。これから開幕まで、僕の仕事はチームやファンの方に期待感を常に持ってもらうこと。そのためにも、最後のセッションはすごく大事でした。同じタイミングでニュータイヤを入れているドライバーも多く、結構ガチンコだったと思います」
チャンピオン経験もあるトップチームへの加入、そしてテストで見せた速さから、デビューイヤーでの活躍も期待される太田は「もちろん、勝つということが一番の目標」と明言する。
「村岡さん(潔/チーム・プリンシパル)にも言われましたけど、やっぱり予選で2列目までにいないと勝てない、と。今年のSFLでもそうですが、自分自身も一発のパフォーマンスにはすごく自信がありますし、予選でパフォーマンスをしっかり見せて常に上位にいられれば、チャンスは巡ってくると思います」
「そうは言っても、決勝レースでは経験やピットストップのタイミングなど、まだまだ足りてない部分もあると思うので、そのあたりはチームの力を借りながらやっていけたらいいなと思います」
自らの置かれた環境を冷静に分析し、すでにやるべきことを明確にしている様子の太田。チームメイトの牧野任祐とは旧知の仲、チームも含め“関西色”が強めという馴染みやすい環境のなか、ルーキーイヤーにどれほどのインパクトを残してくれるのか。2023年、非常に楽しみな存在だ。
■「座ったこともない」GT500マシン
一方スーパーGTでは、TEAM UPGARAGEのNSX-GTで戦った2022シーズンを経て、2023年はGT500クラスへと戦いの場を移す。Modulo Nakajima Racingからベテラン・伊沢拓也とコンビを組み、ダンロップタイヤで参戦を果たすのだ。
GT500のNSX-GTに関して太田は、「まだ乗ったことがないです。座ってもいないです」と、未知の存在であることを明かす。
「分からないことだらけですね。GT300ではヨコハマだったので、ダンロップも初めてですし……」
「基本的には、GT500はコーナリングスピードも速く、フォーミュラにかなり近いというのは聞いています。速く走るという部分に関しては、スーパーフォーミュラのルーキーテストと同じように、慣れることから始めて、しっかり建設的にやっていけば問題ないとは、自分では思っています」
そんなGT500ルーキーの太田にとって、経験豊富な伊沢とチームは、頼もしい存在となるだろう。
「伊沢さんの印象ですか? やっぱりオーラがあるな、と。僕みたいに新参者で、これからトップを目指すという人間から見れば、やっぱりオーラがありますし、カッコいいなと思います。ずっとトップでレースされているわけで、本当に学ぶことしかないという感じです」
伊沢との年齢差は15歳。GT500においてはなかなか大きなギャップであり「僕が上の立場だったら、小学校3年生と組むわけですからね」と太田も驚くが、“経験”が何よりもモノを言うGTの世界では、伊沢のキャリアとリーダーシップ、そして太田の若さと速さがうまく噛み合えば、コンビ初年度から好結果を招くことも充分に可能だろう。
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