生産国のアイデンティティが伝わる
近年の量産モデルから感じ取れる、生産国のアイデンティティは多くない。しかし、半世紀前は違っていた。ボルボ144は真面目なサルーンだが、デザインの端々からはスウェーデン製だという事実が伝わってきた。
【画像】「一生モノ」の真面目なサルーン ボルボ144 アマゾンと240、164 現行S90とS60も 全150枚
輸出を前提とした、国際的な量産車ではあった。とはいえ、設計・デザインされたお国柄がしっかり反映されていた。それが、大きな魅力を生んでいた。
ボルボの140シリーズを振り返ると、各部の素材は平均水準以上といえた。デザインは、シンプルでチャーミング。技術的な目新しさはなくても、厳しい環境で暮らす自国民へ使われることを前提に、信頼性や安全性は高かった。
凍結した路面でも、挙動は穏やかで予想しやすかった。手の込んだサスペンション以上に、重視されたのは落ち着いた操縦性。ボルボはあえて、リジットアクスルと後輪駆動というパッケージングを選んでいた。ボディは、サビにもある程度は強かった。
スウェーデンは税金が高く、社会保障制度が充実しているかわりに、裕福な人が多いわけではなかった。クルマを定期的に買い替えられる層は限られた。それまでのアマゾンのように、140シリーズのスタイリングには、最後まで目立った変更はなかった。
他社のモデルが数年前後で傷む時代に、平均で11年は耐えられることをボルボは自負した。強固な構造と高度な製造品質の裏付けといえた。
積極的に取り組まれた安全性の向上
これらの特徴は、スウェーデン以外でも強みとして認められ、140シリーズは成功。賢明さに美徳を感じた、欧州や北米の人々へ受け入れられた。フォルクスワーゲン・ビートルから、乗り換えを考えるユーザーも多かった。
アメリカでは、フルサイズ・モデルの魅力へ陰りが出ていたことも、追い風になった。毎年のように表面的なアップデートが繰り返され、買い替えを推奨するという、クルマの作り方は飽きられていた。燃費は悪く、必ずしも製造品質が高いともいえなかった。
社会運動家のラルフ・ネーダー氏が自動車の安全性に疑問を呈する以前から、ボルボは積極的にそれへ取り組んでいた。衝突時に衝撃を吸収するステアリングコラムや、身体を保持するシートベルトは、既に140シリーズへ標準装備されていた。
大きく広いトランクは、キャビンを守ることにも貢献。リンカーンより、フロントシートの足もと空間にはゆとりがあり、ボディ自体の安全性も高かった。
印象的な広告で、話題も集めた。140シリーズ・サルーンの上に、6台が重ねられた写真をご記憶の読者もいらっしゃるだろう。それだけの重量を、ピラーが支えられることを主張したものだった。
そんな140シリーズとして当初提供されたのが、1966年の144。4ドアサルーンのシルエットは典型的な凸型で、大きな4枚ドアに5名分のシートが設えられていた。直線基調のデザインはモダンで、新しい潮流のきっかけにもなった。
当時の量産ユニットでは最も堅牢な4気筒
英国への輸入が始まったのは、ステーションワゴンの145が追加された1967年。実際にグレートブリテン島へ届けられたのは、4ドアサルーンの144が殆どだったが、1968年に登場した、2ドアサルーンの142も少数が上陸した。
ステーションワゴンの輸入は、1968年から。ルーフを持ち上げ実用性を高めた、145エクスプレスも、英国以外の一部の市場では提供された。
動力源となったのは、1.8LのB18型か、2.0LのB20型と呼ばれる直列4気筒エンジン。コンロッドは5枚のメインベアリングで支えられ、オーバーヘッドカムで、当時の量産ユニットでは最も堅牢だという評価を得た。
シングルキャブかツインキャブを選べ、過酷な条件での長距離走行に耐えるだけでなく、チューニングで大幅なパワーアップも可能だった。英国では、船舶用のエンジンとしても成功を収めている。
マイナーチェンジで、レザー内装にオーバードライブ・ギアが組まれた144 GLと、ボッシュ社製インジェクションでオーバードライブの付かない、144 Eの2種類が登場。Kジェトロニック仕様は1973年に設定され、Dジェトロニックを置き換えている。
アメリカの保安基準へ合わせるように、バンパーは途中から大型化。スピードメーターは、当初横に長いリボンタイプだったが、後期型では一般的な円形になり、ダッシュボードのデザインはボクシーなものへ一新された。
144 Eの最高出力は116ps。最高速度は160km/hがうたわれ、燃費は7.8km/Lと優れなかったものの、低級なガソリンも常用可能だった。
この続きは、ボルボ144 E 人気小説家の愛車(2)にて。
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