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自動車メーカーを救えたかもしれない、輝いて消えたコンセプトカー 前編

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自動車メーカーを救えたかもしれない、輝いて消えたコンセプトカー 前編

自動車メーカーの中には、市場の支持を得られず経営難に陥ってしまう場合がある。立て直しの決め手となりそうなクルマのアイデアを生み出すも、既に手遅れだった、というケースもしばしばあった。水面下では難題に向き合いながら、われわれを引きつけるのに充分な魅力を備えた、優れたコンセプトカーが存在していたのだ。

デザイン・リサーチ的な意味合いも持ったコンセプトカーだが、量産モデルとして具現化され、自動車ブランドのイメージを向上させることが理想的な姿でもある。反面、非常に高い希望を感じさせてくれるコンセプトカーを生み出しながらも、量産化までの1~2年の間を耐えきれず、自動車メーカーが倒産してしまうこともある。自動車メーカーを存続させるには登場が遅すぎた、夢のクルマたちをご覧あれ。

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インターナショナル・ハーベスター:スカウトIII(1979年)


インターナショナル・ハーベスター社は、SUVのベストセラーの称号をフォードから取り戻すために、先進的な3代目スカウトを発表する。コンセプトカーは「スカウト・サプルメンタル・ビークル(SSV)」と内部で呼ばれていた。スカウトIIIは1981年の初期にモデルルームに登場する予定だった。垂直のフロントグリルに長方形のヘッドライトを備えた新しいフロント周りと、ファストバック風のルーフラインを持つモダンなエクステリアデザインは、当時としてはかなり斬新だった。現代のSUVクーペを先取りしたクルマとして、人気を得る可能性も合ったと思う。

1980年代もSUVの需要は高く、スカウトIIIが量産されていればインターナショナル・ハーベスター社の自動車部門を1990年台まで存続させられた可能性もあっただろう。しかし経営陣は大型の商用トラックに注力するべく、SUV車両の製造中止し、スカウトIIIの計画も頓挫してしまった。インターナショナル・ハーベスター社はその後、巨大な農業機械メーカーのCNHインダストリアル社と、大型トラックのナビスター社とに吸収されている。

クライスラー・ランボルギーニ:ポルトフィーノ(1987年)


クライスラー社は、ランボルギーニ社の買収を堂々と示唆するように、ランボルギーニ・ポルトフィーノと呼ばれるコンセプトカーを発表した。コンセプトカーは実走行も可能な作り込みで、合計4枚のシザードアは前後で別々の方向に開き、ミドシップされたV8エンジンはジャルパのものを流用していた。仮に量産化されても、コストの面でかなり困難だっただことは間違いなく、極めて高価な限定モデルとしてリリースされることになった。

その後のクライスラー社が直面する経営難は誰も知らなかったが、希少性があってもヒットすることはなかった。2019年の今では、このジャルパの延長されたプラットフォームに組み立てられたクライスラー製のモデルは、素晴らしいクラシックカーになっている。また1990年代のクライスラーのイメージも高めることにもつながったことは事実だ。

クライスラー社は、ダイムラー・クライスラーとなった後に経営破綻しフィアットの傘下となるなど、ブランド力には大きな影を落としてしまったことはご存知の通り。現在、ポルトフィーノは米国市場にわずか2台が残っている。

イーグル:ジャズ(1995年)


クライスラー社が保有するブランドのひとつだったイーグル社のコンセプトカー、ジャズはイーグルの将来を描いたクルマ。エクステリアデザインやクルマ全体のプロポーションは今まで見たことのないもので、好き嫌いの分かれるものだった。少なくとも、イーグルが自身の意思を持って、クルマづくりを考えていたことを示したコンセプトカーではあった。

ジャズを量産するには、自由で大胆なデザインにかなり手を加える必要があったと思うが、ブランドを保つきっかけにはなったかもしれない。しかし実現することもなく、クライスラーと三菱のエンブレムを張り替えただけの、バッジエンジニアリング・モデルを生産するという決定が1999年にくだされるのだった。

プリマス:プロント・スパイダー(1998年)


プリマスというブランドは、1990年には既に明確なイメージの存在しないブランドになっていた。しかしその頃発表されたプリマス・プロウラーはホッドロッドのようなワイルドなデザインをまとい、イメージに変化を与えた。さらにハイ・パフォーマンスなカテゴリーに進出していくことを検討もしていたようだ。

結果的にクライスラーブランドで発売されることになった、PTクルーザーの開発を進めていた当時、プロント・スパイダーと呼ばれるコンセプトカーが発表される。比較的手頃な価格で、刺激的なミドシップモデルの提供を目指したクルマだった。

ロードスター・ボディに2.4ℓの4気筒ターボエンジンを搭載し、255psのパワーを5速MTを介して後輪へと伝えるパッケージを持っていた。アピアランスはプロウラーよりずっと大人しかったものの、プリマスが当時製造していたどのクルマよりも刺激指数的には高いものになりえたはず。しかし、プリマスは同社にとってプロウラーすら不要と判断され、さらに2001年にブランド自体も消滅してしまう。

オールズモビル:プロフィール(2000年)


2000年に発表されたスリークなデザインのコンセプトカーが、オールズモビル・プロフィール。そのコンセプトは「ユーティリティ・ビークル並みの実用性を備えつつ、スポーツセダンのような乗り心地とハンドリング性能、インテリアの洗練性を実現する」 こと。つまり、遅れて登場したオールズモビル流のハッチバックだといえる。

オールズモビルとしては、ブランドの存続のためにも伝統を打ち破る新しさを模索しており、プロフィールは将来の自動車像を描き出したクルマでもあった。経営陣は2000年代は先見的な技術開発が一層重要になると判断しており、プロフィールの中身も先進的なものだった。今でいうインターネットの通信機能に、カードキー、ダイヤルのギアセレクターなどが搭載されている。

このプロフィールを磨き上げて量産モデルにすることができれば、オールズモビルは革新的な自動車メーカーにもなり得たかもしれない。しかし、激しい資金不足のために、コンセプトカーの域を脱することはできなかった。

オールズモビル:O4(2001年)


オールズモビルは若い世代への訴求力を高めるべく、抜本的にクルマづくりを見直すコンセプトカーを発表する。2ドアの4シーター・コンバーティブル・ボディに取外し可能なタルガトップを備え、他にはないほど高いベルトラインを備えるという、型破りなエクステリアデザインを施したのがO4。大胆なボディの内側には、オペル・アストラのプラットフォームが隠されていた。オールズモビルは様々な手を打っていたのだ。

オールズモビルは2代目アレロがO4のデザイン・インスピレーションを得たクルマになるだろうと主張していたが、2004年に量産化されることもなく、オールズモビルのブランドは消えてしまう。

MGローバー:TCV(2002年)


1990年代末から2000年初頭、MGローバー社のデザインは、存続の危険を感じるほどに新しいアイデアに枯渇していた。この時代のクルマは極めて退屈で、ありきたりで、新しい時代をまったく感じさせないものだった。そんな中で2002年のジュネーブ・モーターショーに姿を見せたのがツーリング・コンセプト・ビークル(TCV)。フレッシュなデザイン言語をまとい、過去ではなく未来を表現した会心のコンセプトカーだった。

車高の高いSUV人気が急上昇している昨今なら、TCVはショールームに実際に並んでもおかしくないクルマだったと思う。もしかすると、アメリカへの再進出も実現できたかもしれない。英国のSUVの雄、ランドローバーはその時どんな反応をしたのかは、天のみぞ知るだけれど。

当時の内部関係者によれば、TCVは量産化の可能性があるということだったが、MGローバー社はモデルのレンジを広げることはできなかった。

サーブ9-3X 4×4(2002年)


2002年、サーブは2019年の自動車業界で主力となるモデルを、驚くほど正確に予見していた。サーブ9-3X 4×4コンセプトは、サーブとしては初めてのオフローダーだったが、後方につれて高くなるショルダーラインと低くなるルーフラインのシャープなプロポーションと、280psを発生させるV6エンジンの組み合わせで、スポーティな要素も兼ね備えていた。

またクルマのコンセプトも、峠道をスリリングに登り詰めていき、頂上から自信を持ってオフロードに飛び込んでいける、ふたつの満足を叶えるところにあった。もし量産が叶ったのなら、サーブ9-3X 4×4はハイパフォーマンス・クロスオーバーというセグメントで、独占的なゲーム展開を楽しむことができたかもしれない。

しかし実際は、深刻な財政難がサーブの内部を蝕み始めていた。2009年になり、9-3Xの名前を付けたクロスオーバー・ステーションワゴンがアウディA4オールロードの回頭として登場するも、短命に終わってしまったことをご存知の読者もいるだろう。

ランチア:フルビア・クーペ(2003年)


2003年に登場したコンセプトカー、フルビア・クーペは、ランチアのモデルラインナップに新しい風を起こし、ブランドへのカリスマ性を呼び戻す方法を示唆していた。仮に充分に煮詰められ、ライバルと並ぶパフォーマンスを備えたかたちで量産されたのなら、疲弊したイタリアの自動車メーカーに驚くほどの効果をもたらしてくれたかもしれない。

しかし実際は親会社のフィアットに予算を握られており、バッジエンジニアリング主軸のモデル構成へと舵が切られてしまう。そして2019年現在では、唯一のランチア・モデルはフィアット500由来のイプシロンだけという状態で、ブランド自体が風前の灯といった状態なのは、とても残念だ。

マーキュリー:メッセンジャー(2003年)


マーキュリー・メッセンジャーは、2003年に登場したコンセプトカーだが、デザインを担当したのはジェリー・マガバーン。彼は今はランドローバーでデザイン・ディレクターを務めている。エクステリアデザインは、2000年代のすべてのマーキュリー・ブランドのクルマに展開される意図があった。「マーキュリーはデザイン主導型の自動車ブランドになるべきです。マーキュリーのDNAは、エネルギッシュで個性的で、知的でカリスマ性を備えたクルマづくりにあります」 ジェリー・マガバーンはコンセプトカーのお披露目の後にこう述べている。

メッセンジャーは、マーキュリーが長い間望んでいた、強力なV8エンジンに見合うほど速く走りそうな、ひとびとが振り返って見たくなるようなクルマ像を備えていた。当時の関係者の話では、プラットフォームはフォード・マスタングのものを共有することで、量産化の可能性にも触れていたが、プロジェクトが青信号に切り替わることはなかった。残念なことに、マーキュリーは2011年に最後を迎えるまで、退屈なクルマを作り続けることになった。

後編へ続く。

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