至宝のVツインエンジンをカフェレーサー風の車体に搭載したSUZUKI SV650Xのデビューは2018年初頭。すでに当サイトを含む二輪専門媒体に数々のインプレッションが掲載されており、オーナーとなっている読者の方も少なくないだろう。そこで今回は、四輪メディアの視点からという一風変わったレポートをお送りしたい。このバイク、乗れば乗るほど「クルマ好き」にこそオススメしたくなるバイクなのだ。TEXT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)PHOTO●山田俊輔(YAMADA “Anita”Shunsuke)
惚れ惚れするカフェレーサースタイル
SS1/32mile・台湾大会 TIME ATTACK PICTURES ♯4
発売から一年近くが経ったSV650Xだが、遅ればせながら筆者が乗るのは初めてである。今どき貴重な国産Vツインのミドルスポーツに以前から興味を持っていたのだが、いかんせん自分は四輪媒体の人間であるため、そうそう頻繁に二輪に試乗できるわけではない。今回はいろいろな要件が合わさって、ようやく念願叶ったというわけである。
まずはSV650Xの成り立ちを簡単におさらいしよう。ベースは645ccの90度Vツインを搭載するミドルネイキッドのSV650で、セパレートハンドル化やロケットカウル風バイザーの装着などによってカフェレーサー風に仕立てられている。エンジンスペックや足まわりにはとくに変更はない。
フレームをはじめとした車体構成もSV650と変わっていないが、実際に目の当たりにすると、セパハンのおかげで前かがみのアグレッシブな姿勢に見え、ずいぶんと印象が違う。
跨がってみての第一印象は、意外と前傾姿勢になるということだ。セパハンとはいえマウント位置はそれほど低くはなく、もう少し起きた姿勢になるかと想像していたのだが、タンクとの干渉を避けるためかトップブリッジの直下から前方に伸ばしたステーを介しているので、最近のバイクにしてはハンドルが遠い。スタンダードのSV650はやけにコンパクトなライディングポジションだと感じていたのだが、とくに大柄な男性であればSV650Xのほうが窮屈さがなく好ましいと感じるだろう。
シート高は790mmと低く、身長174cmの筆者だと両足がベッタリと着く。初心者やリターンライダーでも不安は最小限に抑えられるだろう。
開けた瞬間にタイヤが路面を蹴り上げる
エンジンは、クルマと同じようにワンプッシュで掛けることができる。バイクの場合、フツーはエンジンが掛かるまでスターターボタンを押し続ける必要がある。クルマで言うと、昔ながらのキーを回して掛けるタイプと同じだ。ところがSV650Xが採用している「スズキイージースタートシステム」であれば、クルマのプッシュボタン式と同様にエンジンが掛かるまで自動でスターターモーターを回し続けてくれるのだ。
些細な話と思われるかも知れないが、オーナーになればこういう心遣いは身に沁みてありがたいはず。さらに言えば、何十年もクルマにしか乗ってこなかったリターンライダーにとって再びバイクに乗るという行為にはさまざまなハードルが立ちはだかるわけで、こうした細やかな装備によってそのハードルが少しでも低くなるのであればそれに越したことはない。
アイドリング音はいかにもVツインらしくパルス感が強い。そこからクラッチをつなぐと、またしてもスズキの細やかな配慮に心を打たれる。ローRPMアシストという機能によって、発進時のエンジン回転の落ち込みを抑え、エンストしにくくしてくれるのだ。近年、クルマには珍しくない機能になってきたが、二輪ではSV650やSV650Xが初めてではないか。これもまた、初心者やリターンライダーに対する技能的、精神的なハードルを下げてくれるだろう。
低回転域における鼓動はツインならではのもので、信号待ちをしている間ですら笑みが絶えない。かといってドゥカティに代表される欧州勢のように極低速域でギクシャクすることもないからビギナーでも安心だ。もちろんドゥカティにはドゥカティの良さがあり、あれくらいの主張がないと面白くないと感じるファンも多いだろう。
そんな力強い鼓動も5000rpmを越えたあたりからスムーズに収束し、レブリミットの1万rpm強まで一気呵成に吹け上がる。パーシャルからアクセルをガバッと開けたときのトルク感が凄まじく、4気筒のスーパースポーツがエンジン回転の上昇とともにパワーを炸裂させるのに対し、こちらは開けた瞬間にタイヤが路面を蹴り上げる感覚で、快感の種類がまるで違う。
不等間隔燃焼はライダーがトラクションを感じやすい───バイクが好きな人ならば聞いたことのあるフレーズだろう。SV650Xに乗ればその意味するところがよく理解できるはずだ。
今こそ行動に移すときである
今回はサーキットやワインディングまで足を伸ばせなかったので十分に見極めることはできなかったが、ハンドリングは自然と舵角がつきやすいキャラクターだと感じた。変に乗り手がこじるより、バイクが曲がりたいように身をまかせたほうが上手く乗れそうな気がする。
タックロールシートはクッションがほとんどなく、かなりソリッドな座り心地だ。撮影を挟んでの4時間ほどの試乗でお尻が痛くなることはなかったが、ロングツーリングのことを考えると、あと1~2cmはクッションを厚くしてもいいかもしれない。ただしセパハン化によって腕にかかる負担が増え、相対的にお尻にかかる体重が減るため、アップハンドルのSV650よりも疲労が分散されるのは間違いない。シートが薄っぺらなスーパースポーツに乗っていても意外とお尻が痛くならないのは、強烈な前傾姿勢のおかげだからだ。慣れないと手首が痛くなるけれど。
SV650Xには、バイクが持つ本質的な魅力が詰まっている。低回転域での鼓動感と高回転域での炸裂感、素直なハンドリング、オーセンティックなデザイン……。そしてこれらは、現代のクルマではなかなか得難いものであることも事実だ。
低回転域でドコドコ唸るエンジンなどクルマでは許されないし、8000rpm以上の咆哮なんて過給器付きが当たり前の近年の四輪用エンジンでは味わえない。長くバイクに乗り続けている人にとっては当たり前のことになってしまっているかもしれないが、クルマ好きならばこれらがいかにありがたいことかよくわかるはずだ。
SV650Xならば、それらをカジュアルに味わうことができる。抜群の足つき、スズキイージースタートシステム、ローRPMアシスト、そして主張しすぎないエンジンといったフレンドリーなキャラクターや装備のおかげで、ユーザーは身構えることなくおいしいところだけを味わえる。それでいて味はかなり濃い。78万1920円というリーズナブルなプライスも大きな魅力だ。
いつかはバイクに乗りたい。いつかは再びバイクに乗りたい。そんな思いを抱いているクルマ好きがいたら、SV650Xこそが行動に移すきっかけになり得るバイクだと申し上げたい。
■主要諸元■
全長×全幅×全高:2140mm×730mm×1090mm
ホイールベース/最低地上高:1450mm/135mm
シート高:790mm
装備重量 :197kg
最小回転半径:3.3m
エンジン型式:水冷4サイクル90°Vツイン/DOHC4バルブ
総排気量:645cc
内径×行程/圧縮比:81.0mm×62.6mm/11.2 : 1
最高出力:56kW(76.1ps)/8500rpm
最大トルク:64Nm(6.5kgm)/8100rpm
燃料供給装置:フューエルインジェクションシステム
始動方式:セルフ式
点火方式:フルトランジスタ式
潤滑方式:ウェットサンプ式
潤滑油容量:3.0L
燃料タンク容量:14L
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
変速機形式:常時噛合式6段リターン
減速比(1次/2次):2.088 / 3.066
フレーム形式:ダイヤモンドフレーム
キャスター /トレール:25°/106mm
ブレーキ形式(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)・油圧式シングルディスク(ABS)
タイヤサイズ(前/後):120/70ZR17M/C(58W)・160/60ZR17M/C(69W)
舵取り角左右:30°
乗車定員:2名
カラー:オールトグレーメタリックNo.3
価格:78万1920円
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