モータージャーナリスト塩見智が10年ぶりにレースに挑戦するストーリー。いよいよレース当日を迎え、筑波サーキットにやってきた。だが天気が……。REPORT◎塩見智(SHIOMI Satoshi)
レース当日の朝、本格的な雨が降っていた。雨? 習ってないけど? 東京バーチャルサーキットの筑波はいつも晴天だった。雨が降るとどうなる? 当然ペースは落ちるだろう。その代わりペースが落ちれば燃費の面では楽になるはずだ。ただしコースアウトしたりスピンする車両が増えるかもしれない。コースアウト……スピン……忘れかけていた10年前のクラッシュを思い出し、思わず頭を振って嫌な記憶を追いやった。
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たった今練習走行を終えた。バーチャルではなく、本物のロードスターで本物の筑波サーキットを本当に走行したのだ。走行開始前に雨はあがり、コースはところどころウェットのところもあったが、ほぼドライだった。
ドライで走行できることを喜んだが、レースが始まる夕方にはまた降るという予報が出ているため、ドライで練習したのがよかったのか悪かったのかわからない。ともかくリアルに走行できたのはありがたかった。
コースイン。“赤坂の筑波”でラップを重ねていたため、コースレイアウトはばっちり頭に入っていた。フロントウインドウ越しに見る風景が東京バーチャルサーキットの画面と同じなので、久しぶりに走るという気がしない。が、路面の微妙な凹凸が身体に伝わってくることで、リアルなんだなと実感する。
市販のロードスターと同じエンジンサウンド、ステアリングフィールだ。回転数の上限を5000rpmに抑え、3~5速を使って走行する。1分17~18秒あたりをうろちょろする。完全に燃費走行だ。ヘアピンなどで2速を使いたくなるが我慢。なにしろガソリン60リッターで4時間走り続けなくてはならないのだ。
与えられた5~6周はあっという間に終わった。楽しくて仕方なかった。緊張感と高揚感が入り混じる。考えてみれば日常の中でここまで真剣に集中力を高めるということがない。もちろん仕事のときもゴルフのときも真剣だが、また違ったヒリヒリする感じ。慣れてきたぞ! そう感じた瞬間に走行終了の合図。もっともっと走りたかった。
数時間後、本番が始まる。2番目に運転するよう命じられた。できればドライで乗りたいけれど、雨なら雨でしかたない。無事に次のドライバーへクルマを渡したい。
(つづく)
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