シトロエンのMPV(マルチパーパス・ビークル)「ベルランゴ」に青木ヨシユキが試乗した。日本上陸を記念した限定モデル100台が、数時間で完売したほどの魅力とは?
カングー独走状態を阻止!?
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日本におけるルノー「カングー」の“カルトな”人気を見て「ウチもやったろ」と目論んだな、というちょっと意地悪な見方は、実車に乗ったとたん吹き飛んだ。「コレ、いいじゃない……」。
ステアリング ホイールを握ったのは、シトロエン「ベルランゴ」。カングー同様、リアが両側スライドドアの、本国では主に商用バンとして用いられるモデルである。
ボディサイズは、全長×全幅×全高=4403×1848×1844mmと、カングーよりすこし大きい。路上でよく見かけるトヨタ「ノア/ボクシー」と比較すると、30cm近く短いが、幅は15cm以上広く、やはり15cmほど背が高い。いかにも物が積めそうな、四角く踏ん張りの利いたディメンションを採る。
2013年にフェイスリフトを果たして新鮮味を出したものの、実質的には2007年のフルモデルチェンジ以来、息長くラインナップされる現行カングー(カングーII)と比較して、ベルランゴは2018年デビューの3代目。エンジン横置きモデル用に開発された最新のEMP2プラットフォームを使う。文字通り土台から新しい。
動力系は、カングーが1.2リッター直列4気筒ターボ(115ps、190Nm)に6ATまたは6MTを組み合わせるのに対し、ベルランゴは1.5リッター直列4気筒ディーゼルターボ(130ps、300Nm)に8ATである。たまたま直前にカングーに乗っていたこともあって、ベルランゴを走らせると、世代の新しさが印象付けられた。
フロントの4気筒ツインカム16バルブは、加速時にはディーゼルであることを隠さないが、一定速度に達すれば黒子に徹する。わずか1750rpmで3.0リッター並のトルクを発生するうえ、8スピードものギアが奢られるのでたちまちギアが上げられて、街中ではなかなか2000rpmを超えない低回転域を上下するだけ。「エンジンがウルサイ」と煩わしく思うことはない。
高速道路でもまったく十分な動力性能で、100km/h巡航時にはトップギアで1750rpm。豊かな余裕を感じさせながら粛々と回る。ディーゼルを積む商用モデルにして驚きの静粛性である。
車重はカングーより140kg重い1590kg。乗り心地にはプラスに働いているようだ。足まわりはソフトであるが、総じて落ち着いている。大きな上屋を載せているのでときに左右に揺らぐこともあるけれど、カングーのそれよりずっと軽微でほとんど気にならない。趣味の品々や各種スポーツギア、そしてパートナーや友人を乗せればさらに穏やかな走りになるはずで、アクティブに活用するプライベートカーとして、まず不満は出ないだろう。
おもしろいのはATシフターがわりにダイアルが設けられる点で、ポジションはシンプルに「P・R・N・D」であるが、その横にMボタンがあって、パドルを使ってギアを変えることもできる。ディーゼルといえどもまわさないではいられないフランス人気質……というよりは、上級グレードゆえの贅沢仕様なのかもしれない。
試乗車は、カタログモデルの導入に先立つ「デビューエディション」で、商用車とは思えぬ豪華な装備を誇る。アイドリングストップは当たり前としても、前走車との距離を一定に保つアダプティブ クルーズ コントロール、車線から逸脱しそうになるとやんわりステアリングに介入するレーン キープ アシスト、走行中の死角を見張るブラインド スポットモニター、自車を俯瞰で表示するトップ リア ビジョンなど、最近では一般的になった運転支援システムをほぼ網羅する。もちろんスマートフォンとの接続にも対応。新世代ライバルの登場で、カングーは相当に厳しい戦いを強いられることになった。
ベルランゴの素の値段は325万円。オートマのカングーが264万7000円からだから、シトロエンがハードウェア面で優位に立つといえども、価格差は無視できない。新しもの好きユーザーの元にダブルシェブロンが行き亘ってからが本当の勝負といえるかもしれない。装備を簡素化した廉価版ベルランゴを設定するのか、はたまたプジョーやオペルの姉妹車がその任にあたるのか。意外な国で勃発した趣味的商用車戦争である。
気になる実用性は?
「ドアを電動にしようなんてことは、フランス人、全然考えないみたいですよ」と、シトロエンのスタッフ。インポーターのガレージで、ベラルンゴのリアスライドドアを開け閉めして、「子供には重たい」などとメモしている姿を見て、声をかけてくれたのだ。
スライドドアはシンプルな手動タイプであるが、後部座席には洒落たファブリックの独立式シートが3つ並ぶ。「さすがは個人主義のフランス」と、感心しながら座ってみると、足元、頭まわりのスペースは十分ながら、座面の前後長が少々短い。居心地はいまひとつ。背もたれを前に倒せる助手席を含めて、後席すべてをフルフラットにできるシートアレンジはよく錬られているが、頻繁に多人数を乗せる予定の人は、1度チェックしたほうがいい。
前席はキチンとサイズが採られるが、こと座り心地に関しては、カングーのドライバーズシートに軍配が上がる。そっけない見かけのドコにあの適度な硬軟分布による面圧の分散能力があるのか不思議であるが、長時間座り詰めのドライバーにルノーのシートはありがたかろう。次の世代にもぜひ受け継いでほしい美点である。
ベルランゴのインパネまわりはカメラマン泣かせの黒基調。ダッシュボードの一部に白いラメが細かく入った樹脂が使われるのは、フレンチな洒落っ気もありましょうが、意外に難しい「ブラックトーンの統一」を上手に回避するためかもしれない。上方に蓋が開くグローブボックスに革帯風の加飾が施されるのはご愛敬。
サンバイザー上を含む室内各所にザックリとしたモノ入れ、物置きが用意される。いかにもコマーシャルビークル然とまとめられたインテリアであるが、ルーフには場違いに(!?)凝ったソフトシェード付きのサンルーフが広がり、その下には天井を縦断するカタチで細長い小物置きが前後にわたされる。光を透過する半透明のプラスチックが使われた、いかにもシトロエン好みの近未来タッチであるが、夏場は羽虫の死骸が気になるに違いない。
「商用車は積載性が命」と、ベルランゴの大きなハッチゲートを開けると、いかにもプロ仕様といった無愛想な荷室がガランと広がる。フロアの低さに驚いてメジャーで実寸すると、地上58cm。膝あたりの位置だ。左右からのでっぱりがほとんどない絵に描いたような長方体の空間で、見るからに実用的。当然天地も大きくて、パーセルシェルフまでがこれまた58cm。さらに上方に余裕がある。
感心したのはラゲッジルームの天井部分にモノ入れが設けられている点で、リアからも室内側からもアクセスできる。制限重量は10kg。ベラルンゴはゲート全体のほか、リアガラスだけを開閉することも可能だから、ここからも手を伸ばせる。頻繁に荷物を出し入れする業者の人にとって、書類や伝票類をアッサリ放り込んでおけるスペースがあるのはありがたかろう。
本国でも打倒カングーを目指して開発されたPSAの商用車群。シトロエン ベルランゴ、プジョーブランドの姉妹車「リフター」、そして傘下に収めたオペルブランドからも日本再上陸の持ち駒として、やはり姉妹車の「コンボライフ」が投入される。カングー包囲網というか、グループPSA、どんだけこのカテゴリーに期待しているんだよ、というハナシですが。
カングー人気の秘密は、その並外れた実用性と、生活に根ざしたガチの実用車ならではの強いフランス風味といったところにありましょう。本国では数売ってナンボの大衆車メーカーであるけれど、東洋の島国においては、あくまで「趣味的な嗜好ブランド」という立ち位置をよく理解して、地道にユーザーを開拓していったインポーターの努力も光る。ラインナップを揃えたPSAの、今後の“育て方”にも注目したい。
文・青木ヨシユキ 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
故障の可能性が少なくなるから。
というより 海外にいくと 日本人は楽しむのが下手なように感じます。
(それが美徳なのかもしれませんが。。。)
一定数はこの様な車の需要はあると思いますが 全て外車の指名買いになってそうです。