90ps で800kmを5時間20分!!
岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第148回
「30年前の未来のクルマ」展で改めて驚いたトヨタ4500GTの素晴らしさ
1984年の暮れか85年の初めだったかと思う。いずれにしても、寒い季節だったのは間違いない。途中で雪に見舞われたのだから、、、。場所はドイツ、クルマはVWジェッタ(2代目初期モデル)のコンビネーションで、とんでもない経験をした。
その日僕はハノーバーのホテルで目覚めた。数人の日本人ジャーナリスト、そして、VWとアウディ広報部門の責任者(日本)であられたRHJ氏が一緒だった。
午前中は、ハノーバーにあるコンチネンタル本社を訪問/見学するプログラムが組まれ、ホテルに戻ってランチ、、、そこまではなにごともない平穏な時間を過ごした。ランチ後にドイツ南部まで移動することはわかっていたし、移動手段がVWジェッタだということもわかっていた。
アウトバーンを使ったドイツでの移動は数百kmに及ぶことが珍しくないし、詳細を知るまでは「いつもの移動」とたかをくくっていた。ところが、ランチが終わり、移動の詳細が知らされたときは驚いた。「とんでもない移動!」だったのだ。
オーストリア国境に近い小さな町のホテルが到着地だったが、ハノーバーのホテルからの距離は800km近く。そして、そのホテルでのディナーが18:30!!。
ミーティングが終わったのは13:00。ホテルを出発したのが13:10くらいだったから、5時間20分で800kmを走らなければならない。単純計算で、平均速度は150km/h になる。いくらアウトバーン(当時はほとんど速度無制限)を走るとはいえ、「ほんとに!?」としか言いようがないスケジュールだった。
参加者全員が「ウッソだろー!?」みたいな反応をしたが、当然だろう。しかも、足はVWジェッタときている。1.8ℓ・4気筒/90psのエンジン+4速MTのファミリーセダンだったのだ。
カタログ性能は、0~100km/h が11.1秒、最高速度が176km/h 。現在に当てはめると、標準的な1.5ℓNAを積むAセグメント車くらいの性能だろう。このスケジュールを主導したのは、VWではなく、RHJ氏(以下、J氏)だったはず。J氏は超の付く飛ばし屋。今もパナメーラで飛ばしている(に違いない)。
J氏とは、時々食事をしたり、ずっと親しくお付き合いさせていただいているが、お元気そのものだ。そんなJ氏の立てたスケジュールを、いちばん楽に確実にクリアするため、僕は一計を案じた。
一計とは、、、おそらくはずっと先頭を走り続けるであろう、J氏の背後にピタリと付いて離れない「コバンザメ作戦!」。
予想は当たった。アウトバーンに乗るとすぐ、J氏は全開で走り始めた。まあ、全開とは言っても、90psのジェッタだから絶対速度は速くない。、、、が、ついてゆくこちらも同じなので、コバンザメ状態を保つには気を抜けない。
アウトバーンは空いていたが、いくら踏んでも90psジェッタでは160~185km/h 辺りがせいぜい。緩い上り勾配、下り勾配がけっこうあり、下りなら185km/h くらいまで出るが、上りでは160km/h 辺りまで速度は下がる。コバンザメとはいっても、当然、邪魔が入ることもある。そこで大きく引き離されてしまったら致命的。取り戻すのは厳しくなる。
邪魔が入ったときは、いかにロスを少なくするかに傾注する。そして、先行車に邪魔が入ったときにしっかり好位置を取り戻す。
ハノーバーのホテルを出るときから「コバンザメを実行する」と決めた僕の作戦は見事に当たり、飛ばしに飛ばすJ氏の後にピタリと追従し続けた。バックミラーに映るジェッタはいない。800km近くを走るとなれば、当然給油ストップもある。ここでもJ氏にピタリ付いて離れなかった。なので、ロスはゼロ。
ちなみに、給油地点までの平均速度は150km/h を超えていた。定かではないが、10分か15分か、、そんな余裕を稼ぎ出していたように記憶している。
給油後、再び全開走行第2ヒートが始まった。大都市圏内に入ると通行量は多くなり、アクセルをゆるめなければならない状況も多くなる。が、絶対速度が速くないので、前方のクルマの位置と速度の関係をしっかり読みながら走れば、ロスは少なく抑えられる。
走り始めは「まったくもうー!!」みたいな感覚だったが、走るにつれてだんだん面白くなっていった。周囲の状況をしっかり観察。あれこれ考えながら速度を落とさずに走る、、チョッピリ高度なゲームをやっているような面白さ、楽しさを感じるようになったということだ。
そんなことで、J氏とのランデブー走行は順調に快調に進んでいったのだが、、、突然、思いもよらない状況に見舞われた。なんと、雪が降り始めたのだ! ミュンヘンの少し手前辺りだっただろうか。目的地まではまだ150~160kmは残っていた。
雪の降りようはけっこう本格的。ただし、みぞれとまでは言えないものの、水気が多く、積もりにくい雪だったこと、視界はなんとか確保される状況だったことは幸いだった。試しに少し強いブレーキを踏んでみたが、そこそこ効いた。これなら「なんとかなる!」と思った。
J氏も同じ判断をしたのだろう。降り始めはペースダウンしたものの、早々にペースは上がり始めた。さすがに全開ではなかったが、かなりのハイペースに戻るまで時間はかからなかった。アウトバーンを降りて、美しい湖水地方のホテルに着いたのは18:20頃。なんとなく「心地よい達成感!」を感じたものだ。
「部屋に荷物を置いてこられる時間はありますね!」といった会話を、J氏と交わしたことを覚えている。J氏は、ディナーの開始時間を30分ほど遅らせるよう手配したようだが、その時間内に到着したのは、1台か2台か、、、だったと思う。
僕はディナーをすませて部屋に戻ったが、翌朝、J氏に聞いたら、「いちばん遅かった到着は23:00を回っていた」そうだ。
いろいろな「クルマの旅」をしてきたが、「VWジェッタで爆走!?」編は、強く記憶に残っている。つい最近もJ氏とランチをしたが、その時も話題に出て大笑いした。J氏にとっても忘れられない旅だったようだ。
● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。
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