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未来の技術者を育てる「学校」、英国JCBアカデミーとは ビジネス的観点も教育

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未来の技術者を育てる「学校」、英国JCBアカデミーとは ビジネス的観点も教育

14歳から学ぶエンジニアリング

1970年代半ばのある月曜日の朝、10代のコリン・グッドウィン少年は教室の後ろの方に座って、クルマやオートバイ、エンジンの夢を見ていた。前方では、先生が黒板にフランス語の文章を書き込んでいる。「なぜフランス語を学ぶのか」と、コリン少年は思った。「フランスに住んだり働いたりすることがあるのだろうか」と。

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筆者(コリン・グッドウィン)の両親は息子の教育に多額の費用をかけたが、試験結果から得られる見返りを考えれば、地元のグレイハウンド・トラック(ドッグレース)に行って大金を吹き飛ばした方が良かったかもしれない。困ったことに、筆者は自分が興味を持った科目にしか手を付けず、その科目とは英語だけだった。文学と言語の両方でOレベル(修了試験)で良い成績を収めたたが、この2科目だけで全点数の50%を占めている。

願わくば物理学にも興味を持つべきだった。もし学校の誰かが機転を利かせて、物理学が筆者の愛するマシンの創造、機能、性能に重要な役割を果たしていることを教えてくれていれば、少しは興味を惹かれていたであろう。あるいは、学校から15kmも離れていないところにあったブラバムやティレルのF1チームを訪れていれば、筆者の人生は変わっていたかもしれない。

あれから45年。英スタッフォードシャー州ロチェスターにあるJCBアカデミーのYear 10(14~15歳の生徒)は、月曜日の最初の授業を受けている。彼らが手にしているのはラテン語の教科書ではなく、フランス語のフレーズを必死になって練習帳に書き写しているわけでもない。旋盤で短いアルミの棒を回しているのだ。少年少女合わせて10人ほどの生徒が、それぞれ自分の機械を操作している。先生はその様子を注意深く観察し、工具の位置やセッティングについてアドバイスしている。

JCBアカデミーという名前は聞いたことがあったが、てっきりユートクセターにあるJCB(重機メーカー)工場の研修施設として設立されたものだと思っていた。また、生徒は見習いか大学院生だと思っていた。数週間前、JCBの広報部から筆者のもとにメールが届き、同社の元エンジニアであるビル・ターンブル氏が最近亡くなり、彼がレストアしたブガッティ・タイプ57の売却益の一部をアカデミーに寄付したとのことであった。このプレスリリースを見て、アカデミーに対する筆者の思い込みが間違っていたことが明らかになったのである。

サポーターには有名企業が名を連ねる

アカデミーではまず、Year 10(14歳と15歳)の子供たちを受け入れている。物理学の教師で校長のジェニー・マクガーク氏に話を聞くと、次のように教えてくれた。

「このアカデミーは2010年に設立され、エンジニアリングとビジネスに重点を置いています。学校というよりもビジネスに近い形で教育を行っており、カリキュラムも大きく異なります。例えば、歴史や地理はありませんが、関連性があればそれらの科目にも触れます。しかし、学習者(生徒のこと)が選ぶことのできるオプショもあります。例えば、現代語やプロダクトデザインなどです」

プロダクトデザイン?宗教的な知識よりも面白そうだ。しかし、筆者の心を掴んだのは、校内を案内してくれた副校長のトム・グリーン氏の言葉だった。彼によると、旋盤やフィッティングルームと呼ばれる場所での作業時間を増やすオプションを取ることも可能だという。

「通常、2週間に4時間程度の旋盤作業を行いますが、このオプションを選択すると10時間に延長されます」と元アイルランド陸軍技術士官のトムは説明する。筆者も加えてください、先生。

アカデミーには約600人の生徒(80%が男子)がおり、3つのハウスに分かれている。筆者が通っていた学校のハウスは、北、南、東、西という風に方位から名前が付けられていたが、JCBアカデミーでは人名にちなんで、ロイス、バンフォード、アークライトと呼ばれている。アークライトとは18世紀の発明家リチャード・アークライトのことで、アカデミーは彼が設立した古い工場の中にあるのだ。

アカデミーではまた、JCBをはじめとする地元のエンジニアリング企業からも実習生を受け入れている。ベントレー、トヨタ、ロールス・ロイス(自動車メーカーではなく航空宇宙産業として)など、有名な企業がスポンサーとなっている。

夢や目標に向かって突き進む若者

Year 11になると、授業の合間の休憩時間におしゃべりをしている子もいる。彼らはとても刺激的なグループで、筆者が期待していた通り、全員がエンジニアリングに興味を持っていた。

「わたしの父はロールス・ロイスで働いているので、エンジニアリングは家族の一部です」とハイジ・バントンは言う。彼女の隣にいるジェン・デインティもまた、非常に特殊な分野のエンジニアリングに情熱を傾けている。「医療工学や義肢装具の分野に進みたいと思っています」

そしてクルマ好きのイーサン・コブリーは、「モータースポーツ・エンジニアリングに進むのが目標です」と語る。

筆者が学生時代に方向性を明確にできなかったことをすべて学校のせいにすることはできないが、同世代の多くが同意するように、当時の進路指導は少々不足していた。アカデミーで印象的だったのは、そこでの教育が14歳のコリン少年の心にリンクするところだった。ビジネス面での教育は、筆者にとってはあまり魅力的ではなかったかもしれないが、非常に実用的で関連性の高いものだ。ある若者は、「税金や会計など、個人の生活や起業に役立つさまざまなことを教えてもらっています」と教えてくれた。

しかし、筆者がこのアカデミーで最も感銘を受けたのは、実践的なスキルを重視していることだ。アカデミーのウェブサイトには卒業生の声が掲載されているが、中にはケンブリッジのTWI(接合・溶接研究所)に入った生徒もいる。エンジニアリングに特化した教育機関であればこそ、生徒の1人が英国で最も尊敬されている研究所に入ったことを誇りに思うはずだ。

アカデミーには制服や規律があるし、他にも若い頃は好きではなかったことがいくつかあるが、カリキュラムの実践的な側面から得られる喜びがあれば、そうした不便さは打ち消されたことだろう。

感情的な一日になってしまった。筆者の人生はなんとかうまくいっているが、JCBアカデミーのような場所に行っていれば、もっとチャンスに恵まれていただろう。生まれて初めて、学校で人をうらやましく思った。

インタビュー:アカデミー設立のきっかけは?

JCBの会長であり、JCBアカデミーの名誉フェローを務めるアンソニー・バンフォード卿にインタビューを行った。彼は1975年、父親のジョセフ・シリル・バンフォードが設立したJCBの会長職に30歳の若さで就任。1990年にはナイトの称号を与えられた。

――溶接はできますか?

「わたしは17歳のときに、溶接、旋盤、フライスなどあらゆる技能の見習いをしました。当時はフランスにいたので、機械関係のフランス語にもかなり精通していました。何十年も溶接をしていないので、かなり鈍っているかもしれません」

――JCBアカデミーを設立するきっかけは何だったのでしょうか?

「エンジニアが不足していたのです。ケンブリッジ大学で工学の学位を取得した後、都会に出てしまう人がいることに苛立ちを感じていました。本当の意味で状況を変えるためには、若い時にエンジニアリングについて人々を刺激しなければならないことは明らかでした」

――どれくらいの頻度でアカデミーを訪れますか?

「それほど頻繁ではありません。数か月に一度くらいでしょうか。彼らがわたしに会いに来ることもあります。最初の頃はもっと関与していましたが」

――同じようなアカデミーを他の場所で開こうと考えたことはありますか?例えば、サンダーランドとか。

「それもいいでしょうが、わたしの本来の仕事は、機器を開発し、製造し、世界規模で販売し続けることです」

――JCBの水素関連の仕事に関わっていますか?

「もちろんです。わたしは水素が未来の燃料であると強く信じています。わたしが最も恐れているのは、ピストンエンジンや内燃機関が禁止されてしまうことです。機械ではなく、燃料を変えなければなりません。今、化学や冶金に詳しい専門家の協力を必要としています。もし、あなたの周りに、このチャレンジに興味をもってくれる人がいたら、ぜひ声をかけてください」

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