今季はトップチーム間でそれぞれに技術的な陰謀論が渦巻くとなっているが、F1サンパウロGPではタイヤ内部に少量の液体を入れることで冷却に活用してするというトリックが行なわれている疑惑が浮上し、注目を集めた。
今季を振り返ると、非対称ブレーキシステム、フレキシブル・フロントウイング、マクラーレンのミニDRS、レッドブルのフロントビブアジャスターなど、1年を通じて様々な噂が飛び交い、F1のビッグチーム同士の戦いはますます激しさを増している。
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上位陣の成績が拮抗している時に行なわれる駆け引きのひとつは、同じような手法やデバイスを追求するために多くのリソースを費やすよりも、政治的な手段でライバルのパフォーマンスを抑えようとすることだ。
今回の話題は、タイヤに空気を入れる際、温度をコントロールするためにごく少量の液体を加えているチームがあるのではないかというレッドブルからの疑問をめぐるものだ。
レッドブルの主な関心は最も近いライバルであるマクラーレンにあるようだが、マクラーレンはこのような行為を否定している。
レッドブルは数年前にFIAの技術指令で禁止される以前、この戦術を使っており、その手法に精通していると考えられるからだ。
しかしこの問題はグレーゾーンだ。技術指令はあくまでも助言にすぎず、チームが規則に違反したかどうかを判断するのは、最終的にはスチュワードの判断に委ねられているからだ。
そして今回のケースでは、タイヤの処理に関するF1の技術レギュレーションは、タイヤから水分を除去することについてのみ詳述しており、水分を加えることについては触れていない。
第10.8.4条には次のように記されている。
a. タイヤを膨張させることができるのは、空気、あるいは窒素のみである。
b. タイヤ内部の湿度量および/あるいはそれを膨張させているガスを減らす目的を持ついかなる操作も禁止される。
つまり理論的には、湿度の高い空気でタイヤに空気を入れることは厳密には禁止されていないようだ。しかしサプライヤーのピレリの立場からすれば、彼らは乾いた空気で膨らませることを前提にタイヤを供給している。
ピレリの責任者であるマリオ・イゾラは次のようにコメントした。
「我々のシステムにはドライヤーが接続されており、レギュレーション通り、すべてのタイヤにドライエアを供給している。技術指令は、これに対するいかなる変更も禁止している」
しかしレッドブルはこの件について、FIAに問い合わせを行なった。他チームが空気の組成を変化させ、バルブから冷却用の液体(水か別の物質)を注入することで、何らかの利益を得ることができたのではないかと考えたからだ。
その証拠に、シンガポールのレース後にピレリの拠点でタイヤが外された後、いくつかのリムの内側に水や水跡が見られたとされている。
こうした細工の目的は、タイヤをうまく使うためだ。ピレリのタイヤは温度の影響を受けやすく、そのライフスパンの中でサーマルデグラデーション(熱劣化)を起こすように設計されているからだ。
そのためチームとドライバーは、タイヤの中心温度とトレッド表面温度のバランスを常に探っている。もし、ドライバーがライバルよりもタイヤを低温に保つことができれば、タイヤの寿命が縮まることなく、パフォーマンスとスティントの長さを向上させることができる。
チームはタイヤのサーマルデグラデーションに影響を与える関連部品の関係を理解し、それを活用するために、チームは多大な時間とコスト、労力を費やしている。
ホイールリムは現在、BBSが全チームに供給している共通部品であり、リム表面のローレット加工やスポークデザインの変更、表面形状の変更といった細工はもはやできない。
一方、アウターホイールカバーとブレーキダクトフェンスのデザインも指定範囲が広く、空力や熱力学的な利点のためにそれらを使用する方法はより制限されている。
しかし、ブレーキアッセンブリと内部のホイールドラムの設計は、これまでよりも制限されているとはいえ、ブレーキから発生する熱をどのように管理し、それがホイールリムを介してタイヤの温度にどのように伝わるかという点で、エンジニアたちの腕の見せ所となっている。
コンポーネント間の熱交換については、各チームが独自の方法を探求しており、ライバルを出し抜こうとしている。
タイヤ内部にクーラントを入れることができれば、そうしたプロセスを助けることができ、タイヤ温度と内圧に影響を与えることになる。
結果としてドライエアと比べて、温度は下がり、内圧は増すことになるだろう。チームはこれまで、ピレリが規定する最低内圧にできるだけ近い領域でタイヤを使おうとしてきたため、内圧の上昇は短期的にはマイナスに感じるかもしれない。
しかし、このレギュレーションが車高変動の影響を受けにくいマシンに有利である一方で、そのメリットを享受するためには可能な限り車高を低くする必要があることを考えれば、理想的な空気圧よりも高い空気圧を設定することは理にかなっているのかもしれない。
イゾラも、短期的にはタイヤのグリップが低下する代わりに空力性能を優先し、過去に同じような方向性を選択したチームがあったことを示唆している。
「数年前、ほとんどのチームがフロントの内圧を上げてタイヤを固くし、車高を下げていたのを覚えている」
「彼らは(内圧を上げることでタイヤの)接地面積を小さくすることを受け入れた。そのほうがクルマのエアロ・セットアップが良かったからだ。つまり、両者のバランスはパフォーマンスに関するものだったのだ」
FIAはサンパウロGPでタイヤとリムを綿密に検査し、余分な水分の痕跡がないかどうかを確認したが、何も見つからなかったという。
注目度が高まったことで、仮にこの戦術を使っていたチームがあったとしてももうそれを活用することはないだろう。だがこれまでに誰かがその戦術でメリットを得ていたのではないかという疑いが晴れることはないだろう。
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