この記事をまとめると
■デイトナの愛称で知られるフェラーリ365GTB/4にはプロトタイプが存在していた
みんな大好き快音の「フェラーリの心臓」は門外不出じゃなかった! 跳ね馬エンジンを積んだ「じゃない」クルマたち
■デザインはフィオラバンティを擁するピニンファリーナのチームが担当
■シルエットこそ量産モデルと大きく変わらないが、丸目2灯のヘッドライトなどディテールは異なる
12気筒がMR化する直前の2シーター・グランドツーリング
フェラーリが1968年から1973年まで生産したフロントエンジンの2シーター・グランドツーリングであり、1967年のデイトナ24時間レースで330P3/4、330P4、412P4の3台のプロトタイプカーが1-2-3フィニッシュを飾るという劇的なリザルトを残したことに由来した「デイトナ」の愛称でも知られる365GTB/4。それは、1973年に後継車としてミッドシップの365GTB4BBが発表されるまでの5年間に渡って生産され、また1996年に550マラネロが発表されるまで、ロードモデルの12気筒2シーター・グランドツーリングの世界では最後のフロントエンジン車として知られていた。
デイトナの開発は、フェラーリにとってはまさに急を要するものだった。
それまでフェラーリが生産していたオンロードモデルは、1964年に発表された297GTBだったが、ライバルのランボルギーニはすでにこの2年後の1966年には、4リッターのV型12気筒エンジンを横置きミッドシップしたP400ミウラを初公開。フェラーリはそれに対抗して275GTBのV型12気筒エンジンをDOHCとした、275GTB/4を同年には発表するが、開発の現場ではすでに275GTB/4の後継車となるニューモデルのプロジェクトが立ち上がっていた。
自然に考えるのならば、フェラーリが次に打つ一手は、やはりミッドシップの基本設計を持つモデルだったはずだ。だが、当時のフェラーリは、搭載エンジンの基本を1950年代後半に開発された400アメリカ系のV型12気筒エンジンを始まりとし、改良を重ねて330シリーズなどでも使用されていたユニットに注目するが、こちらは残念ながら最大の輸出市場であったアメリカの全州で1968年からスタートする新排出ガス規制をクリアすることができなかった。
フェラーリは搭載エンジンの選択や開発に翻弄されるなかで、結局は275GTB/4の後継車たるデイトナでも、V型12気筒エンジンをフロントに搭載する決断を下すことになったのだ。
実際にフェラーリは、5台とも6台とも語られるデイトナのプロトタイプを製作しているが、それに搭載された4.4リッターV型12気筒エンジンのスペックは、352馬力の最高出力と431Nmの最大トルクを発揮するというもの。
最高出力で50馬力強にも達した275GTB/4からのエクストラはやはり絶対的な差といえるもので、組み合わされる5速MTは重量配分を考慮し、リヤに搭載されるトランスアクスル方式。サスペンションはウイッシュボーンとコイルスプリングで構成される4輪独立懸架が採用されている。
雰囲気がまったく異なるプロトタイプのデイトナ
今回、サザビーズからシールド・オークション(ほかの入札者には他人の入札価格が知らされない方式)で出品されたのは、そのデイトナのプロトタイプの1台だ。フェラーリにはまずこのS/N:10287を、ファースト・プロトタイプとして製作した記録が残っており、それはクラッシック部門のクラシケによっても証明されている。
つまり、この出品車はデイトナのプロトタイプとして最初の作ということでも価値があるのだ。ボディデザインとその製作は、当時レオナルド・フィオラバンティをチーフ・スタイリストとしていたピニンファリーナのチームによるものだ。
ボディデザインは、すでに量産型のそれと大きく変わらないが、リヤの1本もののバンパーや、トランクリッドがリヤパネルの上から開くデザインとされていること、そしてヘッドライトも、まだプレクシグラスの4灯式ではないことなどが、量産型との大きな違いとして認められる。
1960年代末から1970年代にかけて、モータースポーツシーンでも大活躍を見せた、フェラーリ365GTB/4コンペティションは、こちらもオークションシーンでは非常に高い人気を持つモデル。
フェラーリはこのデイトナを最後に、ようやく365GTB4BBでミッドシップスポーツの世界に参入を果たすが、シリーズ生産されるモデルでは、それも512BB、512BBi、テスタロッサ、512TR、F512Mを進化させたのみで、再び12気筒モデルをFRへと回帰させてしまう。
はたして未来の12気筒モデルの姿はどう進化していくのだろうか。これまでの歴史とともにフェラーリの将来を考えさせられるオークションだった。
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