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ビジネス的観点から見るF1ブーム。“金を払うだけ”のスポンサーが幅を利かせる時代は終わった?

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ビジネス的観点から見るF1ブーム。“金を払うだけ”のスポンサーが幅を利かせる時代は終わった?

 F1は今、スポンサーブームに沸いている。現在、F1とそこに参戦する10チームが抱えるスポンサー総数は300ブランドを超えており、2020年のCOVID-19のパンデミック以降、大幅に増加しているのだ。

 F1のコマーシャルディレクターであるブランドン・スノウやF1チームのコマーシャル部門が直接行なう契約もあるが、多くは代理店を通して契約が交わされ、ホスピタリティやPR活動、コンテンツプログラムを通してスポンサーブランドは宣伝を行なっている。

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 そして、そうした契約を取りまとめるモータースポーツ界最大の代理店のひとつが、デビッド・ウェッブ率いる「チャイム・コミュニケーションズ(CSM)」だ。

 ウェッブのF1への道は型破りだった。彼はイギリス陸軍に10年間所属し、大尉まで上り詰めた。退役後はまずスチュワート・グランプリ時代のジャッキー・スチュワートのアシスタントを2年間務め、チームがフォードに買収されジャガー・レーシングとなって以降はチームのアカウントマネージメントを担当した。

 そのジャガー・レーシングはレッドブルに買収されて現在のレッドブル・レーシングへと成長していくが、ウェッブは名うてのビジネスマンにして現在マクラーレン・レーシングのCEOを務めるザク・ブラウンにヘッドハンティングされた。

 ウェッブはブラウンが率いる「ジャスト・マーケティング・インターナショナル(JMI)」の国際部門を運営し、ウイリアムズ・レーシングとスコットランド王立銀行のスポンサー契約など他全てのスポーツスポンサーシップを管理。その後セブ・コーが率いるCSMがJMIを買収しブラウンがマクラーレンでの事業に専念するようになると、ウェッブはCSMのモータースポーツ部門の運営を引き継いだ。

 CSMはF1のみならず、フォーミュラEやMotoGP、NASCAR、インディカー、世界耐久選手権(WEC)、エクストリームE、ダカールなどで活躍しており、ファンが目にするお馴染みのブランドを取り込む役目を担っている。

「代理店として成功するためには、スポーツとしての特性と融合可能なブランドを見つけるという、非常に営業的な嗅覚が必要だ」

 ウェッブはそう語る。

「例えば、F1に興味がありそうなブランドを見つけたとする。そうしたら、そのブランドの属性やその他KPI(重要業績評価指標)をマッチングさせ、様々なチームに紹介する。我々はチームに引き留められるのではなく、引き留められるよう積極的に働きかけるのだ。マクラーレン、アルピーヌ、フェラーリのどれが最も商業的に“フィット”するか、あるいは最も大きなバリューを提供できるかによって、ブランドをチームに送り込むことができる」

「我々はチームのブランド属性を把握し、適切なブランドを加えることに細心の注意を払う必要がある。そのため、チームにブランドを連れて行く前、我々は膨大な量のデューデリジェンスを行なっている」

F1が求めるのは“質の高い”パートナー

 現在のF1チームは、自分たちのイメージに合い、高額なスポンサー料を支払ってくれるブランドのみを探している訳ではない。どのパートナーブランドも、それぞれの市場で成功していることが重要なのだ。理想的なスポンサーは、F1チームやF1とのパートナーシップや活動にお金をかけてアピールしてくれるブランドだ。そうすればチームや他全てのスポンサーの宣伝にもなるからだ。

 ブランドの活動が活発になればなるほど、チームとF1全体が潤う。広告だけでは価値が限られてしまうのだ。

「ただお金を払ってステッカーを貼ってもらうだけで、何もしてくれないブランドほど悪いモノはない」とウェッブは言う。

「チームは、自分たちや自分たちのパートナーを宣伝してくれるブランドを積極的に探している」

 昨今のF1の商業的成功に伴い、多くのチームが不思議な現象に見舞われている。嬉しい叫びなのかもしれないが、スポンサーが多すぎてドライバーとの契約日数が足らないのだ。ドライバーのレースやトレーニング以外の時間には限りがあり、チームによっては50以上のパートナーを抱えるところもある。

「2年前にドライバーと(PR活動の)日数に関して契約を締結しているチームも見られる。今になって空き日程が埋まり、これ以上ドライバーの日数を割けなくなった。彼らはドライバーと再交渉するか、新たなブランドにそのチャンスを与えないようにするしかないのだ」とウェッブは言う。

 最近のF1の成功から生じた問題がもうひとつ。NetflixのF1ドキュメンタリー『Drive to Survive(邦題:栄光のグランプリ)』の大ヒットやCOVID-19の流行以前、スポンサー獲得に苦労していたチームの多くが、スポンサー権を叩き売りしてしまったことで、今になってそれを後悔しているということだ。

「名前を挙げるまでもなく、市場で劇的な安売りをしたチームがあった。そして2年後になって突然、現在の市場に見合わない金額しか払っていないブランドをマシンに載せているという事実に気がついたのだ」とウェッブは言う。

「だから彼らは今、契約条項を使って契約を解除しようとしている。3年+オプションで5年契約を結んでいたブランドに対して、チームは契約を解除している。他に金のなる木があるとチームは知っているからね」

F1全体の発信力向上もビジネスに好影響与える

 F1、特にアメリカでの前例のないF1ブームの火付け役としてDrive to Surviveを挙げる人は多い。しかしウェッブは、F1オーナーのリバティメディアによるもうひとつのビジネス戦術が大きな違いをもたらしたと考えている。

 それは、ドライバーとチームがソーシャルメディア上で動画コンテンツを展開できるようになったことだ。

「10年前、主要ソーシャルメディアで大きなコミュニティを抱えるドライバーはいなかった。しかし今は全てのドライバーが少なくとも30万人、場合によってはそれ以上の人々と交流を持っている。ルイス・ハミルトンのフォロワーは4,600万人でメルセデスよりも多く、マックス(フェルスタッペン)は1,600万人だ。ドライバーが自分たちのコンテンツでコミュニティを介して交流ができるようになったのは大きな違いだ」とウェッブは言う。

 ソーシャルメディア上での活性化により、F1は12歳から18歳といった、以前はリーチが難しかった層を大幅に取り組むことができるようになった。それだけではなく、女性のF1ファンが視聴者全体の40%を占め、F1の新規ファンでは男性のF1ファンと肩を並べる勢いだ。これにより、より多くの消費者ブランドやライフスタイル・ブランドがF1に参入するチャンスが広がっている。

 ほとんどのブランドは、F1やチームのスポンサー権を購入する際、ブランドの認知度を高めたり、主要市場でのシェアを拡大したりと、明確な目的を持っている。ほとんどのブランドはその目的を達成し、チームのパートナーに留まるが、中にはそうでないブランドもいる。

 ウェッブは、F1の状況を把握してスポンサーシップをどのように活性化させれば目的とROI(投資収益率)を最大化できるかアドバイスすることで、代理店として違いを生むことができると語っている。F1スポンサーシップにおいては、データベースのパフォーマンス・マーケティングツールが使用されることが多くなってきている。それによってチームは彼らのファン・データベースとスポンサーのデータベースを結びつけ、新規顧客を特定し、新規ビジネス売上の分配を受けることで、スポンサーから受け取る金額を大幅に増やすことができるのだ。

「スポンサー権を購入するだけの話ではない」とウェッブは言う。

「スポンサー権を購入したあとに、次の段階へ進むことが重要なのだ。活性化できなければ、お金を無駄にすることになるからね」

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