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ロールス・ロイスはなぜ高級なのか?

掲載 更新 2

超高級自動車ブランドとして、誰もが認めるロールス・ロイス。その名声は自動車業界に留まらず、すべての分野において超高級品をあらわす常套句として「○○のロールス・ロイス」というたとえが使われるほど。

たとえば、サヴィル・ロウの紳士服テイラーであるヘンリー・プールの仕立てたスーツが「スーツのロールス・ロイス」、パテック・フィリップのリストウォッチが「腕時計のロールス・ロイス」、ドイツの紳士靴ブランドであるハインリッヒ・ディンケラッカーが「革靴のロールス・ロイス」と、しばしば呼ばれる。

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が、いずれのブランドも1904年創業のロールス・ロイスより古い歴史を有する名門だ。にもかかわらず、その高級さを簡潔に説明するべく「○○のロールス・ロイス」と表現されてきたのだ。

それではロールス・ロイスのどういった要素が、世界最高級の名声をたらしたのであろうか? 今回は、その歴史的経緯を記したい。

最上級の実用車ロールス・ロイスの開祖であるフレデリック・ヘンリー・ロイスは、いくつかの名言を残した。

「正しく為されしもの、ささやかなれどもすべて尊し(Qvidvis recte factvm qvamvis hvmile praeclarvm)」

「その価格は忘れ去られても、品質は残る(The quality will remain when the price is forgotten.)」。

これらの文言は、ロールス・ロイスの企業哲学を示したものだ。

ヘンリー・ロイス卿がエンジニア長だった時代に製作されたロールス・ロイスは、信頼性の高さをとことん追求。結果、高価になった“実用車”だった。その代表格が、1906年から1925年まで製作された「40/50Hpシルヴァーゴースト」である。熟練工たちの高い技術力によって、最上級のマテリアルを使い、当時考え得る最善の工程によって、1台1台がハンドメイドされていた。

ただしシルヴァーゴーストやその後継車は、各時代における先進テクノロジーの集合体というわけではなかった。なぜならヘンリー・ロイス卿は、先進テクノロジーが有する欠点を、徹底的に解消しようとしたからだ。

この哲学はヘンリー・ロイス卿が没したのち、さらには第2次世界大戦後にも順守された。産業界に合理化が雪崩のごとく進入してきた1960~1970年代になっても、ロールス・ロイスの生産モデルは、クランクケースや各シャフトなど金属パーツの寸法精度を、1台につき約8週間もかけて全数計測。エンジンも、ひとりの熟練工が責任を持って組み上げたのち、それぞれ2時間もベンチテストされた上で搭載されるなど、常に上質なクルマづくりを信条とするロールス・ロイスの美風は、一定以上のレベルに守られていたのだ。

ところが、1973年に誕生したメルセデス・ベンツ「Sクラス」(W116系)を契機に、先進的なエンジニアリングを採用しつつもリーズナブルな量産高級セダンが続々と誕生する。1970年代以降は自動車の生産技術がさらに向上し、もはやハンドメイドよりライン生産による”マス・プロダクション“によって大量生産されるクルマのほうが、こと純粋な自動車としての機能は、より高い信頼性を獲得できるようになった。

その傍らで、依然として熟練工の手づくりに頼らざるを得なかったロールス・ロイスは、内外装に施された最高級の設えをもって高級とする“プレステージ・カー”へと、変節せざるを得なくなっていたのである。

現代にも息づく、ロールス・ロイスの高級さ1980年代以降のロールス・ロイスの高級さを、端的に示したのは、最上のフィニッシュによって体現されたインテリアであったと思われる。

第2次世界大戦前のロールス・ロイス社は、シャシーやエンジンなどのメカニズムのみを製造し、ボディ/インテリアの仕立ては専門のコーチビルダーに任せるのがセオリー。それゆえ最上級の実用車だったが、顧客のオーダーメイドによっては極上のボディとインテリアが与えられた。

1980年代以降のロールス・ロイスはまさに“究極の極上”だった。たとえば「シルヴァースピリット/スパー」は、最高級の牛革から製作するコノリー・ブラザーズ社製レザーハイドを、1台につき11~13頭分も使用。シートやドア内装パネル、ルーフライニングに至るまであらゆる部分にレザーをたっぷり使った。

また、イタリア産のウォールナット材を入念に加工したウッドキャッピング や、ウールのウィルトン・カーペットなども特徴だ。

つまりこの時代のロールス・ロイスは、自動車界における最高の“調度品”ないしは“嗜好品”としての要素がより追求されてゆく。

結果ロールス・ロイスは、超高級車として唯我独尊の道を突き進むことになった。これが、近現代の我々が知る“ロールス・ロイスの高級さ”の実情と言えるだろう。

ところが21世紀の初頭、ロールス・ロイスに変革が起こる。2003年、新たにBMWグループの庇護のもとロールス・ロイス・モーターカーズ社を英国ウェストサセックス州グッドウッドに設立。その一方で従来のクルー工場や人的資源の多くは、フォルクスワーゲン グループ傘下に収まったかつてのパートナー、ベントレーへと移されたため、新生ロールス・ロイスは、事実上ゼロからのスタートを切った。

過去からの継続性が絶たれてしまったかに見えたロールス・ロイスは、ヘンリー・ロイス卿が構築した企業理念を真摯に学び、それを新会社に活かすことに努めている。しかも、BMWとのパートナーシップによって獲得した最新テクノロジーも臆することなく投入。あらゆる面において世界でもっとも上質かつ高級なプレステージ・カーを生み出している。

ちなみに、グッドウッド本社のエントランスホールには「Take the best that exists and make it better(ベストなものを、さらに良くすべし)」という、これまた有名なヘンリー・ロイス卿の金言が掲げられている。これこそ過去から現代、そして未来へと息づくロールス・ロイスの理念を物語るものと言えるだろう。

文・武田公実

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みんなのコメント

2件
  • シルバーゴーストって名で子供心にカッコ良さを感じた!
    あの名とマスコットは今だに憧れる
  • ハンドメイドだからだよ…カーグラフィックで説明してたよ(笑)
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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