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アウディ渾身の「Q8」はただのクーペSUVにあらず

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アウディ渾身の「Q8」はただのクーペSUVにあらず

SUVをクーペルックに仕立てたSUC(Sport Utility Coupe)という商品企画は、2008年のBMW X6に端を発するものだ。以降、BMWはひとまわり小さなX4も生み出し、このカテゴリーはBMWの独擅場だった。メルセデスも遅ればせながら、2016年にGLEクーペを、翌年にはGLCクーペを導入。そして、ポルシェも今年カイエンクーペを発売する。SUC市場はにわかに賑やかになってきた。

そこに遅れて登場したのがアウディQ8というわけだが、実は先述したモデルたちとは少々成り立ちが異なる。その違いは一目瞭然で、いわゆるSUCは、ボディ前半部分をベースのSUVと共有化し、ルーフ後半はなだらかな曲線を描きながら一気に駆け下りるファストバックスタイルになっている。したがっていずれのモデルもCピラーの角度は、極端に寝ている。

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ボディサイズは全長4995×全幅1995×全高1705mm。車内スペースは十分広いが3列シートは備えず5名乗車仕様となる。一方のQ8は、ベースとなるQ7とはまったく違う顔つきで、ルーフの角度はそれほど極端に傾斜していない。その理由を、Q8のエクステリアデザインのプロジェクトリーダーを務めたフランク・ランバーティ氏はこう話していた。

「すでに多くの競合がある中で、Q7のルーフを変えるだけのようなやり方ではクローンになってしまう。そこでアウディのDNAを注ぎ込むべく、まったく新しいクルマをつくろうということになり、パッケージをすべて変えました。ここがもっとも重要なポイントでした。ホイールアーチを変え、ルーフを30mm下げ、リアエンドを短く……。こうしてよりよいプロポーションのSUVクーペに仕上がったのです」

やや傾斜したルーフラインを持つQ8。後席の乗降性などを大きく損ねていないところが特徴でもある。カーデザイナーの口からよく耳にする言葉に“プロポーション”というものがある。 つり合い、調和、均整といった意味をもつ言葉だが、既存のSUVのボディ後半だけをクーペのように仕立てれば、もちろんつり合いは崩れる。後席も荷室も削られる。かっこはいいんだけど、狭いし使いにくいよねといった事態が起こりうる。

果たしてQ8は大きくとられたリアドアもあって乗降性がいい。後席は広く、100mmの前後スライドが可能で、ヘッドクリアランスもしっかりと確保されている。ラゲッジ容量は、605ℓとQ7の890ℓには劣るものの、必要にして十分なもの。Q7は3列シート7人乗り仕様もあって全長が5mを超えているがゆえの大容量だ。

要はQ8はパッケージをイチから見直したことによって、SUC化によるデメリットを限りなくゼロにした。デザインとユーティリティ性を調和させたモデルというわけだ。

エンジンは3グレード共に2994ccV6ターボに48Vのマイルドハイブリッドを組み合わせた仕様。最高出力340ps、最大トルク500Nmというスペックになっている。美しいボディに詰まった数々の最新技術基本となるプラットフォームはVWグループのMLBエボを採用しており、Q7やカイエン、カイエンクーペとも共通のものだ。ボディサイズはQ7比で全長は75mm短く、全高は30mm低く、全幅は25mm広くなっている。いわゆるワイド&ロー。

インテリアは、A8などと同様に、タッチディスプレイを全面的に採用し、物理スイッチをできるだけ廃したクリーンなもの。インパネ上部にインフォテインメント用の10.1 インチタッチパネルを、その下に空調などに用いる8.6 インチタッチパネルを配置する。その2つのモニターをオフにすると、まるでインパネ全体がピアノブラックの大きな1枚もののパネルにように見える。

4ゾーンデラックスオートマチックエアコンディショナーなど、快適装備を多数搭載しているQ8。インフォテイメントシステムはアウディ最新の「MMIタッチレスポンス」を採用し、10.1インチと8.8インチのスクリーンを備える。パワートレインは、340ps/500Nmを発揮する3ℓ V6ターボエンジンに8速ATの組み合わせ。48V電源によるマイルドハイブリッドシステムを搭載している。quattro(4輪駆動システム)は、センターディファレンシャルタイプで通常時の前後トルク配分は40:60、路面状況などに応じて、70:30~15:85まで可変制御する本格仕様だ。また後輪を最大5度操舵するAWS(オールホイールステアリング)によって、小回り性や応答性、安定性を高めている。

グレード構成はベースのQ8 55 TFSIクワトロをはじめ、22インチ・タイヤを履くスポーティな「Sライン」と、20インチの「ラグジュアリィ」という2種類のデビューパッケージモデルが用意されている。今回は「ラグジュアリィ」に試乗した。

シートはベンチレーションやマッサージ機能(一部オプション)も備え快適性も非常に高い。また内装カラーを選べるアンビエントライティングも備えている。ボディサイズを感じさせないパワフルな走り動き出しは、48Vマイルドハイブリッドシステムの恩恵もあって、実にスムーズだ。車両重量も約2.2トンと、とてもこのサイズのものとは思えないほど軽い。アウディが得意とするアルミボディおよびその高い接合技術による賜物だ。

ステアリングフィールも軽快。足回りにはエアサスを装備しており、フラットライドで高速クルージングが心地良い。ドライブモードを切り替えれば、よりスポーティで引き締まったセッティングも可能だが、このクルマのキャラクターには、コンフォートモードが一番ぴったりだと思った。

傾斜したルーフをほとんど意識させない後席スペース。後席の座面からルーフまでのスペースも981mmを確保。大人がゆったり座れる設定となっている。実はフランク・ランバーティ氏は、初代R8(ロードカー)や、ルマンのLMP1マシン(R8や「R10」「R15」)、さらに現行の「A4」や「A5」や数々のコンセプトカーなどを手掛けたアウディを代表するデザイナーだ。そしてQ8に用いられたデザインテーマは“スポーツクワトロ”だと教えてくれた。

トランク容量は605ℓ(VDA方式)で、リアシートを倒してスペースを拡大することも可能。同サイズのSUVと比較しても遜色ない数字となっている。「スポーツクワトロはアウディの歴史上で最もカッコいいというわけではありませんが(笑)、最もエキサイティングなクルマではあります。アウディは必ずクワトロ(4輪駆動)をデザインで示さなければならない。ですからQ8にもブリスターフェンダーがあります。さらに、スポーツクワトロには力強いブラックのフロントマスクとのびやかなルーフライン、極太のCピラー、そしてリアのブラックパネルといった特徴がありました。これらのポイントをQ8に取り込んでいるのです」

ボディサイズ故にゆったりとしたロングドライブに適しているQ8だが、パワーに不足はないためストレスのない加速も十分に楽しめる。なるほど単なるQ7クーペ版ではない、魅力のつまったクルマなのだということが、よくわかるというものだ。

文・藤野太一 写真・柳田由人 編集・iconic

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